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J3降格のリアルと対処。赤字クラブ多数の現状に「考え方を根本から変えないといけない」栃木SC・橋本大輔代表取締役社長インタビュー(前編)

2026.01.12

Jプロビンチャの挑戦 第1回(前編)

「プロビンチャ(Provincia)」とは、イタリア語で「地方の中小クラブ」を意味する。その言葉が生まれたイタリア・セリエAでは、名将ガスペリーニの戦術と「育てて売る」クラブ戦略が合致したアタランタがCLの常連となるまでに飛躍した。「地域を豊かにする活動」を理念の1つとして掲げているJリーグは全国各地に60のクラブを抱えているが、Jプロビンチャが生き残っていくための術、さらにはアタランタのように国外へと羽ばたいていくクラブは現れるのだろうか?――最前線で闘う経営者たちと一緒に議論してみたい。

第1回は、筆者が取材歴22年目になる地方市民クラブ、栃木SCの橋本大輔代表取締役社長を直撃。2025シーズンに二度目のJ3降格を喫したリアルと対処について赤裸々に語ってもらった。

(取材日:12月14日)

以前のJ3よりも赤字のクラブが多い

――今日は二つ聞きたいことがあります。前編は「J3に降格したときの現状と対処」、後編では「弱肉強食時代のいま、市民クラブはいかに生き残るか」。橋本大輔社長が栃木SCの陣頭を取り始めたのは2016年。当時のクラブはJ3降格の憂き目に遭い、あれから約10年の時を経て、2025年シーズンにJ3に再降格しました。過去の経験を踏まえ、今季のリアルな現状、肌感覚をお聞きしたいです。

 「当時との違いを言えば、栃木SCが2016年、2017年に在籍したJ3とはまったく別もののリーグになっているということ。J2昇格のためにチーム強化に振り切っているクラブが多い印象です。2016年頃のJ3はリーグ創設まもなく、各クラブがJリーグに地に足をつけてやっていく傾向が強かったような気がします」

――当時は16チーム制で、J1クラブがU-23チームをJ3に送り込んでいました。実験的な色合いもあるリーグでした。

 「J2経験クラブも数チームでしたが、今季のJ3に感じたのは『昇格しないと始まらない』という強い意思です。クラブ運営より競技に寄っているクラブが多いように感じました」

――J2昇格のためにリソースに振っている。

 「そう感じる場面が多かったなと思いました。JFLや地域リーグから駆け上がってきたクラブには勢いがあり、以前とは比べものになりません。一方、各クラブの決算書を見ると以前よりも赤字のクラブが多く、赤字幅も大きい」

――それだけトップチームに投資している。

 「2024年度の公開情報を見て、そう感じました。実際の各クラブの内情まではわからないけれど、増資を繰り返して対処するほか、責任企業が赤字を補填するクラブもあれば、J2時代の資産を頼りに赤字に対処するクラブもあるなど、いろんな方法でチャレンジしているんだろうと思います」

――栃木SCは取り巻く環境が変わる中で再びJ3に降格しました。J3では収益悪化は避けられませんが、売上が悪化したときの経費節減などの立ち回り方はどうでしたか?

 「J2昇格を最優先にしたとき、利益を出そうと無理に経費を削減してはいけない感覚になりました。クラブが潰れるほどのインパクトは回避しなければいけませんが、チームを強くしながら、限られた経営資源の中でいかに顧客に提供するサービスの質も上げ、地域貢献もできるか。以前の経費に対する考え方を根本から変えないといけないと思いました」

――J3降格を受けて考え方をガラリと変えた。

 「昇格するため、クラブを成長させるためです。もちろん以前降格したときもそれが最大のミッションでした。ただ、今回は目の前にあるシーズン移行による外的環境の変化に対応するためということもあります」

投資をあとで大きく回収できる構造ではない

――それが可能だったのはJ2時代に、コロナ禍も乗り越え、純資産を蓄えた前提があるからですよね。

 「そうですね」

――現在の純資産は2億円程度と聞いています。ある程度の赤字にも耐えられ、許容して進める。

 「一昨年、赤字が出て5千万円ほど減ったので今は1億7、8千万円ほどです。私が社長になる前、2013年に債務超過危機に陥っていました。当時、このクラブは新聞各所で追及されました。2016年にJ3に降格し、私が社長になったとき、株主さんやスポンサーさんに強調されたのは『昇格して欲しい』ということはもちろんですが、同じくらい『経営を安定させてほしい』ということでした。いざに備えるため、純資産を蓄えることは頭にありました」

――健全経営を優先してきたと。

……

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Profile

鈴木 康浩

1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。

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