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「戦術面ではベルギーやオランダよりも上」イタリア代表アナリストのJ1戦術総括(前編)

2025.12.18

世界から見たJリーグ#1

日本人選手の欧州移籍はすっかり日常となり、Jリーグ側もロンドンに拠点を置いたJ.LEAGUE Europeを設立するなど、Jリーグと欧州サッカーの距離は年々近くなっている。互いの理解が進む中で、世界→Jリーグはどう見えているのだろうか? 戦術、経営、データなど多様な側面から分析してもらおう。

第1~3回は連載『レナート・バルディのJクラブ徹底解析』が好評のイタリア代表現役アナリストのレナート・バルディが、J1リーグの戦術的傾向を語り尽くす。前編では、「正直に言って、戦術的にはもっと単調なリーグだと思っていました」という彼を驚かせた「戦術的な多様性と緻密さ」について考察してもらおう。

現代サッカーを象徴する「戦術的な幅が広い」鹿島の戴冠

――連載『レナート・バルディのJクラブ徹底解析』では、開幕間もない3月からシーズン終盤の10月まで計6回にわたって、Jリーグの注目チームを欧州基準のニュートラルな視点から分析してきました。分析したのは、順に挙げると浦和、柏、鹿島、京都、町田、川崎Fの6チームです。結果として、今シーズンの1~3位と6~8位を取り上げることになりました。Jリーグ全体の傾向を把握し理解するには十分だったのではないかと思います。今回はそれを踏まえて、イタリア代表のマッチアナリストであるレナートの視点から見たJリーグ全体の印象、戦術的な特徴、ヨーロッパとの比較など、様々な観点からこのシリーズの総括ができればと思います。

 「順位表を見ると、優勝したのは鹿島、2位は1ポイント差で柏だったんですね。鹿島は私が分析した中では、戦術的な対応の幅が最も広いチームだったという印象です。ボールを握っても手放しても戦えるし、ポゼッションに過度に拘泥することもないけれど、常にダイレクトな展開を狙うわけでもない。攻守のバランスに優れており、試合が膠着してもそれを打開できる個のクオリティも備えている。一方の柏は、ポジショナルな原則に基づくポゼッションに基盤を置いた『スペイン的』なチームです。1つの明確なスタイルを持っており、戦術的な完成度は非常に高かった。ポゼッションとコンビネーションを重視するテクニカルなスタイルを志向しており、1対1のデュエルにはあまり強くないという点では、ヨーロッパから見た日本サッカーの特徴を備えたチームと言えるかもしれません」

――6チーム×3ということで18試合、Jリーグの試合を分析してきましたが、意外だったことはありますか?

 「今回こうやって主要な6チームを見てきて思うのは、Jリーグのサッカーには私が持っていた先入観を大きく覆す多様性があり、戦術的にも個のクオリティという点でも、予想していたよりもさらにレベルが高かったということです。正直に言って、戦術的にはもっと単調なリーグだと思っていましたし、ここまでのタレントがいるとは思っていませんでした。日本の選手に対する一般的な印象は、テクニックと戦術遂行能力が高く、チームのメカニズムの中で効果的に機能する反面、健全なエゴイズムや意外性といった個の力による打開力には欠けているというものでした。しかし鈴木(鹿島)、伊藤(川崎F)、相馬(町田)のように、戦術的な機能性を超えたところで不確実性を生み出し違いを作り出すプレーヤーが何人もいた。これは意外でした。

 戦術的な多様性という点でも、京都や町田のように典型的な日本のスタイルとは正反対のサッカーをするチームが出てきていることには驚かされました。ポジショナルな原則ではなくマンツーマンのデュエルに基盤を置き、ハイプレスやゲーゲンプレッシングを重視するアグレッシブなスタイルです」

――ヨーロッパでは、国ごとの傾向や特徴が薄くなり、1つのリーグの中にタイプの大きく異なる複数のスタイルが共存するのが普通になってきていますが、日本でもそれは同じということですね。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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