「中心選手として」芽生えた責任感と課題感、中村憲剛と広げたパスの選択肢、ACLEとフィルミーノに学ぶ生存術…川崎F・山本悠樹が振り返る「濃い1年」
フロンターレ最前線#22
「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達前監督の下で粘り強く戦い、そのバトンを長谷部茂利監督に引き継いで再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。
第22回は、中盤から川崎Fを操っている加入2年目の山本悠樹が、残すところ2試合となった2025シーズンを総括。「中心選手として」芽生えた責任感と課題感、中村憲剛と広げたパスの選択肢、ACLEとロベルト・フィルミーノに学ぶ生存術などなど、「濃い1年」を本人の言葉で振り返ってもらった(取材日:2025年11月20日)。
「チームの真ん中を預かっている存在として」背負うもの
――2025シーズンも、リーグ戦残り2試合になりました。どんな実感でしょうか?
「なんか……いっぱい試合をしたなって感じはありますね(笑)」
――ですよね。J1第36節までの出場時間を見ているとリーグ戦は2581分。去年が1163分なので倍以上です。2年前まで在籍していたガンバ大阪時代は2023年の1987分が最長でした。すでにキャリアハイです。
「途中ぐらいからキャリアハイなのはわかっていましたが、そんなに出てましたか。大幅に更新ですね」
――今年は5月までACLEもありましたから、シーズン前半は特に過密日程だった印象です。
「ずっと連戦やってるイメージで、練習をあまりしてない感覚でしたね。 ACLEでサウジアラビアに行く前はそんな感じだったなと思います」
――チーム内の出場時間で言うと、第36節終了時点でGKの山口瑠伊選手(2910分)が1番長く出ています。2番目が佐々木旭選手(2829分)、3番目が脇坂泰斗選手(2788分)で、4番目が山本悠樹選手です。
「大半の試合は出場させてもらいましたし、自分の状態もいい感覚でサッカーもできました。チームの軸とまでは言わないですけど、中心選手としてプレーしてるなっていう感覚もありました」
――長谷部茂利監督から信頼を感じる瞬間はありましたか?
「例えば試合中にプレー切れた合間、合間で、シゲさんに呼ばれて少し話したりする機会がシーズン後半につれて多くなった感じはあります。そういう意味では信頼されてるなとも思いますし、ゲーム展開がどうであれ、最後まで残してくれることも多かった。80分とか70分ぐらいで交代することが多かったんですけど、90分フルで使っていただけるゲームは今季は多かったかなと思います」

――ピッチでも監督からは自由を与えてもらっている感じも受けますが。
「そうですね。やり方自体の話はもちろん言われていますし、理解できていると思ってくれているのかなと思います。あとは相手が準備してきたものが少し違った時に話して、こんな感じで行きたいという話を伝えたこともあります。それに対して、やってみていいという感じもあったし、ピッチ内の判断に関しては、そんなに制限されることはないです」
――監督の意図を汲みつつ、ピッチで味方を動かすところは、もう少しうまく試合中にやりたかったのではないかと思います。特にシーズン後半はもどかしそうでした。
「そこが今、自分の中で課題だと思っています。外国人選手や日本人選手の言語もそうですけど、より的確に、端的に素早く伝えられるといいかなっていうのもあります。勝ち切りたいところでなかなか結果がついてこず、タイトル争いから離れてしまったので、そこはゲームコントロールのところからもそうですし、スコアとして勝っていくところは自分自身に対してすごく課題を感じました」
――ゲームコントロールに関しては、取り組んでいる最中ですか?
「今年はそこをより真剣に捉えているというか。例えばプレースピードを落とすとか上げるとか、そういうのは自分の中ではこれまでもありましたけど、それをチーム全体に派生していって、今は耐える時だからと細かいところまで気を張りめぐらしてやろうとしたのは多分初めてなので」
――ガンバ大阪時代もなかった経験なんですね。
「はい。自分の中ではやっていたり、近くの選手と意識していたことはありますけど、チームの真ん中を預かっている存在として、チームの形まで張り巡らせながら、みんなの顔色を見ながら……というところまでこうやったらいいなっていう感覚は今年が一番ありますね。それは出場時間の長さもそうですし、周りの選手からの信頼も含めて考えながらやっている結果ですが、ものすごく難しいなっていう感じですね(笑)」
――勝敗を背負うまではいかないですけど、そのぐらいの仕事と責任だ。
「そうですね。長く試合に出してもらったからこそ、そこに対する責任感がよりありました。得点も取れてるし、ゲーム自体も支配できていて、相手に主導権を渡さない戦いをしながらも勝ち切れない。そこらへんのもどかしさというか、難しさっていうのはすごく感じました」

中村憲剛直伝の浮き球パスは「受け手が調整して合わせられる」
――今季は公式戦で5ゴールと、ご自身の得点も増えました。遠目からでも足を振る決断が増えてきたのは、何か理由はあるんですか?
「目に見える形で評価されるには、やはり得点とアシストにはこだわって増やしていかないといけない。ボランチをやることが多いですし、ゴールから少し距離があるところにいるので、そこからどう入っていくのか。うまいだけの選手ではちょっと……と言うのは現代ではあるので、そこに関しての思いみたいなのはあるかなと思います」
――今年になってその思いが強くなったのはあるんですか?
「なんですかね。もともと得点も取りたいしアシストもしたいけど、アシストに繋がるようなパスは自分の中では通してるつもりだけど、アシストはつかないこともあるし、それで評価されないのを他責にしてもしょうがないかなっていうのもありました。ボックス・トゥ・ボックスって言いますけど、そういうプレーもできるはずなので、プレーの幅としてやらないといけないなっていうのは思います。今年良かった分、成長自体を止めていいものではないと思うので、より自分に足りないものをこう探し続けてる結果っていう感じです」
――山本選手の進化の1つとして、浮き球のパスを崩しで駆使するようになりました。J1第23節の鹿島アントラーズ戦の試合後に、中村憲剛さんから練習後に教わったと話していましたが、それも聞かせてください。
「技術的なところで言うと、もともとあのプレー自体は得意なほうなので、自分の蹴り方自体にも自信がありました。他の選手より見えるし通せるし、そこが武器だと思ってたので、今年はより出す機会が多かったかなっていうのもあります。ただケンゴさんに言われると、やってみようっていう感覚もありました。細かい蹴り方のところで言うと、『本当にこの蹴り方で?』みたいな感じはありましたよ」
――ボールをすくいあげるような蹴り方で、滞空時間が長いパスで届けますよね。
「それまでの僕はピンポイントで通してました。合えばぴったりですけど、合わなければ合わないところもあったんですけど、あの蹴り方だと、多少の誤差があっても大丈夫なんです。こっちが合わせれなくても、受け手が調整して合わせられることもある。鹿島戦はアキさん(家長昭博)がちょうど合わせてくれたし、それがあるとこっちも出しやすくなる。その辺はあの人がすげえなって感じですね。ケンゴさん、やるなって(笑)」
――中村憲剛さんに聞いたら、山本選手に練習で教えたら試合ですぐにできることに「すげえな」って言ってました(笑)。コツは落とす場所を見つけることですか?
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Profile
いしかわごう
北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago
