なぜ細谷真大は途中出場が多いのか?“柏のエース”の起用法に表れる、リカルド・ロドリゲス監督の戦略と信頼
途中出場で流れを変えるJの「フィニッシャー」たち#2
細谷真大(柏レイソル)
アーセナルのミケル・アルテタは『BBC』のインタビューで「フィニッシャー」の重要性について言及している。ラグビーでは試合終盤に投入される選手を「フィニッシャー」と呼び、アルテタは現代サッカーでは「先発よりも重要」とまで主張。実際、アーセナルはトロサールやマルティネッリが流れを変える存在として機能している。5人交代制の導入で“16人の戦術”が必要になった今、ベストメンバーという概念は希薄になってきている。試合を決める“切り札”は最後まで取っておくもの? 2025シーズンのJリーグで輝いている「フィニッシャー」にフォーカスを当てる。
第2回は、今季のJ1で33試合に出場する日本代表FWでありながらも先発は11試合のみ。計1203分のプレータイムでチームトップの8ゴールを叩き出し、ルヴァンカップでも準決勝第2戦と決勝で途中投入から計3得点を奪った柏レイソルの細谷真大。エースの起用法に表れるリカルド・ロドリゲス監督の戦略と信頼とは?
J1第35節終了時点で、柏レイソルは首位の鹿島アントラーズに勝ち点1差の2位につける。リカルド・ロドリゲスを新監督に迎えた今季は、残留争いを繰り広げていた過去2季から一転、大きな飛躍を遂げたシーズンを戦っている。
リカルド監督は、1月のチーム始動からJリーグの開幕まで、約1カ月という限られた期間でポジショナルプレーとハイプレスを落とし込み、劇的にチームを変えた。2月9日に行われたプレシーズンマッチのちばぎんカップでは、すでに高い完成度にまでチームは仕上がっており、到底プレシーズンマッチとは思えない試合内容を見せてジェフユナイテッド千葉を3-0と一蹴した。
その流れはJ1開幕以降も続き、一度も上位戦線から脱落することなく、第35節まで熾烈な優勝争いの真っ只中にいる。
ただ、シーズンも佳境を迎えた今、あらためて振り返ってみると、監督も序盤戦はまだチームの最適解を模索している段階だったようにも思える。もちろんチームの方向性は、始動時もシーズン終盤の今も変わりはない。だが、数人の教え子が加わったとはいえ、ともに戦うのは初めての選手ばかり。選手一人ひとりの個性や選手同士の組み合わせなどを完全に把握しきれていなかった開幕当初は、チームビルディングの初期段階だった。

「サブメンバーこそが試合を決めるのが現代サッカー」の真意
現在、柏のリーグでの総得点は55。これは川崎フロンターレ、京都サンガF.C.に次ぐリーグ3番目の数字である。しかし序盤戦は複数得点を奪えず、ゆえに3月から4月にかけては勝ちきれない試合が続いた。リカルド監督も「試合を支配するメンバーをそろえると得点力不足に陥り、決定力を高めるためにカードを切ると試合のコントロールを失うというジレンマに遭遇している」と、その都度チームが抱える課題を口にしていた。
その課題は、シーズンが進むにつれて改善の方向へと進んでいった。チーム戦術の成熟と、それによる攻撃オプションの広がり、さらにはチーム内の競争意識の高さが促す新たな選手の台頭など、得点力向上にはいくつか要因が挙げられる。その中で、得点力不足を解消させるためにリカルド監督が選んだ戦略の1つが、細谷真大の途中起用だった。
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Profile
鈴木 潤
2002年のフリーライター転身後、03年から柏レイソルと国内育成年代の取材を開始。サッカー専門誌を中心に寄稿する傍ら、現在は柏レイソルのオフィシャル刊行物の執筆も手がける。14年には自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信中。酒井宏樹選手の著書『リセットする力』(KADOKAWA)編集協力。
