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ポストユースの選手が抱える最大の課題は「90分間の試合経験が足りない」こと。清水エスパルス・反町康治GMインタビュー(前編)

2025.10.13

【特集】これからのJスカウトに求められる視点#4

今や「欧州組」「日本人対決」という言葉が陳腐化するほど、数多くの日本人選手が海を渡って活躍している。欧州各国からの評価も年々向上し、10代の選手たちのキャリアプランに夢ではなく、リアルな選択肢として「欧州クラブ」が加わるようになった。日本でも秋春制の導入、U-21 Jリーグの創設など大きな改革が進む中で、才能の原石を見つけるプロたちは何を考えているのか?――これからのJスカウトに求められる視点について様々な角度からフォーカスしてみたい。

第4&5回は清水エスパルスの反町康治GM。各Jクラブの監督や五輪代表監督、さらに日本サッカー協会の技術委員長も歴任してきた中で、圧倒的な知見を深めてきた反町氏には、強化担当者として考えるこれから先の選手育成とスカッド編成の展望や、新設される「U-21 Jリーグ」へ参加するにいたった理由を伺った。

ゼネラルマネージャーのお仕事とは

――まずは昨年の5月から務められてきた、清水エスパルスのゼネラルマネージャーとサッカー事業本部長というお仕事は、率直にいかがですか?

 「面白い時もありますけど、そうではない時もあります(笑)。面白さとしては、いろいろ精査したうえで、若くて、リーズナブルで、結果を出す選手がスカッド編成にありがたい“三拍子”みたいなところがあるので、それができている部分もあるんですよ。

 たとえば外国籍選手だとカピシャーバとか、(マテウス・)ブルネッティとか、マテウス・ブエノとか、そういう選手を獲ってきて、彼らが活躍しているのを見るのは嬉しいですよね。

 あとは宇野禅斗も少し町田でくすぶっているのを見て、『これは年齢を考えても清水に必要な選手だ』と。今回獲った髙橋利樹もそうですよね。エスパルスはスマートな選手が多い中で、どこのチームにも泥臭いプレーができる選手はいるじゃないですか。昔で言えばガットゥーゾみたいな。

 僕はそういう選手を重宝してきたタイプの人間なので、そうした選手を獲得して、活躍してくれるのはこの仕事の喜びですよね。さっき言った三拍子がうまく揃った時は嬉しいです。

清水の反町康治GMとマテウス・ブルネッティ

 ただ、それが僕の仕事のすべてではなくて、もちろんアカデミーのところまで方針をしっかり作ると。たとえばU-15三島が、立ち上げて4年目で今年初めてクラブユース選手権で全国に行きました。1年目にセレクションを行い、そこで入ってきた選手たちが、3年間でしっかりと段階を踏んでいて、そこにエスパルスOBの池田昇平が指導者としてやっていると。なので、昇平の試合や練習を見に行って、アドバイスしたりもしているわけです。

 今までもアカデミーの指導者を集めて、講義をして、こういう方針でやってくれということも話してきた中で、ちょっとずつではありながら、確実に進歩してきているので、そこはやりがいがありますし、嬉しいですね。

 アカデミーは5年後にどういうチームになっているかを考えながらやらないといけないのに対して、すぐに良くならないといけないのはトップチームであって、いろいろな意味での喜びや悔しさ、嬉しさ、いら立ちとか、さまざまな感情は味わっていますよ」

サンフレッチェ広島に見る“理想郷”の形

――ある記事を拝見した時に、反町さんは去年のJ1第37節のサンフレッチェ広島のメンバーリストに注目したと。その試合の広島のメンバーには、ホームグロウン選手が9人いて、その中でスタメンに6人が揃ったということですが、これは何か感じるところがあったということでしょうか?

 「広島の見様見真似をするつもりはありませんが、ある意味で予算やいろいろなことを考えても、サッカー専用のスタジアムが完成して、盛り上がっていて、実際に売り上げを上げているわけで、広島は一番勢いのあるクラブですよね。これはやはり理想郷ですよ。

 別に広島は『我々は育成型クラブだ』なんて大きなことは言っていないと思うんです。その中で下部組織から良い選手をトップに上げるために、学校の問題で考えると、彼らは吉田高校という公立の高校をうまく巻き込んでやっているんですよね。

 他にも柏レイソルと日体大柏高校とか、ファジアーノ岡山と岡山学芸館高校のような連携を取っている例があるわけで、我々もそういうふうにやるべきなのかなというところで思案しています。

 少子化の中で能力のある選手を、能力のある集団に入れて、能力のある対戦相手と試合をすると。それで選手は一番成長するわけです。しかも人間的成長も見込めるような環境を作ることが大事で、これを広島はやってきたんですよね。それは間違いないです。しかも広島は大学に行っても、帰ってくる選手が多いんですよ。それも広島に対する忠誠心があるわけで、エスパルスもそういうクラブになってほしいと。

 なぜそういうことを言うかというと、1993年のJリーグの開幕戦の時に、まだエスパルスは立ち上げて1年ぐらいでしたけど、その試合の登録メンバーの日本人選手13人のうち、12人は静岡出身の選手だったんです。

 そんなチームは他になかったわけで、オリジナル10の中でも、本当に地域に根差していたと。ノボリ(澤登正朗)、平岡(宏章)、向島建、長谷川健太、大榎(克己)とみんな静岡の選手ですよ。清水商業、清水東、静岡学園、東海大一のOBが集まって。もともとエスパルスは明らかにそういうクラブなんです」

現在は清水でユース監督を務めている澤登正朗

「スカッド全体の平均年齢は『25歳ぐらい』」を目指した2025年

――そんな中で2025年のスカッド編成で、反町さんが特に考えたことはどういうことだったんですか?

……

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Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

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