淡々と、飄々と。強い自分の芯を持つ鎌田大夢。『鎌田のチーム』となる仙台がJ1への扉を叩く時
ベガルタ・ピッチサイドリポート第28回
存在感は日に日に増している。ベガルタ仙台の10番を背負うプレーメイカー、鎌田大夢はここまでリーグ戦全試合に出場し、持ち前のアイデアあふれる攻撃性に加え、献身的な守備力も兼ね備え、チームの中で不動の地位を築いてきた。ここからはシーズンもいよいよ佳境。間違いなくJ1昇格のカギを握る最重要人物に、おなじみの村林いづみが迫る。
相棒は語る。「わかりにくいところこそ、鎌田大夢、最大の魅力」
つかみどころがない。だからこそ、ついつい追いかけてしまうのかもしれない。それが鎌田大夢という人物だ。こちらの質問が当たり障りのないものであると、すっと肩透かしを食らう感じがある。誰もが予想できるような簡単な答えなど出してはくれない。
だからと言って全く答えてくれない訳ではないのだ。言葉数は多いとは言えないが、鋭い切り返しや期待を上回る熱い言葉が突然降ってきたりする。鎌田は常に思考を整理して簡潔に伝える。その言葉選びは繊細だし、丁寧。密かにPassionがちりばめられていたりする。
「週5で夕飯を共にする」という相棒の松井蓮之は鎌田の人となりをこう教えてくれた。
「僕もずっと一緒にいてもわかりにくいと思う時がありますが、それが彼の良さだし、魅力です。試合中でもそう。相手からしたら、嫌な選手なんです。僕みたいに感情が全部表に出てわかりやすい選手はやりやすい。あいつは僕と逆で、何を考えているかわからない。プレーもそうです。わかりにくいという、そのキャラが確立されているのがすごいと思う。誰にも媚びないし、どんな状況でも一喜一憂しない。それは彼ならではの良いところだと思います」
理解者がすぐそばにいるからだろうか。今年の鎌田は伸び伸びとしていて、本当によく笑う。

ボランチ陣の中では軸となる存在。互いの良さを出し合うために鎌田はよく動く
――今年の鎌田選手は練習中にもよく笑っている印象です。チームメートとの関係性もあるかと思いますが、心当たりはありますか?
「そうですね。確かにそうかもしれないですね。何でですかね……。やっぱり年齢が近い選手も増えて、練習の中でも集中してやる部分とリラックスしてやる部分がはっきりしているからですかね」
――本当に楽しいのだろうな、と。
「去年よりは、ですかね(笑)」
――2025シーズン半分を過ぎて、ここまで全試合に出場しています。手応えはいかがですか?
「ボールを保持するという部分では去年以上の手応えを感じています。一昨年も試合には出ていましたが、その時はボールを保持しようとして、奪われて失点ということもありました。今年はそういうことも少なく、前進するところまでは手応えがあります。でもその後、ゴールにつながるようなプレーがまだまだ物足りないなという印象ですね」
――しかし本当に、今年はボールを取られないですよね。
「はい。でも、自分の中では一昨年もこれぐらいはキープできていたとは思います」
――今季は開幕から先発出場。ボランチ陣で若干のローテーションはありつつも、高い優先順位で2枚の内の一人に選ばれています。
「そうですね。途中出場の試合もありますけどね。いろんな人と組みますが、人が変わればやり方も少しは変わります。組む人の良さを引き出しつつ、自分の良さをどう発揮できるか考えながらやっています。それが良い感じにはまっている時は勝てたりするのかなと思います」
――相手の良さも出しながら、自分の良さを発揮する力はより高まっているのでは?
「はい。コミュニケーションも取っています。お互いの意図を話して共有しているので、誰と組んでもやりやすいです」
――ボランチのポジションでは、新たに山内日向汰選手も仲間になりました。
「中学校の時に対戦したことがあります。お互いにあまり覚えてなかったですね。今一緒にトレーニングしてみて、(山内選手は)ちゃんと相手や味方を見てプレーできる選手です。一緒にやっていてやりやすい選手ですね」
――様々な組み合わせのボランチコンビですが、松井蓮之選手と組む時に考えることはどんなことですか?
「蓮之君と組むと、僕自身は前重心になるというか、よりチャレンジのパスが増えています。どんな時も蓮之君がボールを回収してくれるという安心感があるので、『ちょっと無理にでも行っちゃおうかな』って思ったりもします。蓮之君は少し遠いところにいるので、僕から近くに行けるよう動くということは意識しています」
――武田英寿選手とのコンビは森山佳郎監督が「もっともロマンのある二人」という言い方もしますね。
「攻撃やビルドアップに関しては、一番呼吸が合うなという感じがあります。常にお互いを最後まで“選択肢”として残しながらプレーするということを意識して攻撃をしています。守備は、もう本当に、二人で何とかがんばるというところを……」
――二人でがんばると?
「はい。ファウルでもいいから、僕たちのところで絶対にやらせないということを意識しています」

――工藤蒼生選手とのコンビも考えられますよね。
「蒼生も守備の部分やセカンドボールの回収は、一番秀でていると思います。そこは任せながら、蒼生がボールを取った後に、蒼生の視野に入る場所にいるようにしています。ビルドアップは僕も関わりながら、前進したら蒼生の前に入っていけるようにやっています」
2025年は「鎌田の守備力」が大きな武器に。新たなポジションでゴールに近づけるか
――去年は夏まで思うように試合に絡めない時期が続きました。相当しんどい思いをされていたのではないかと。
「いや、しんどいという訳でもなかったですね。いずれ試合には出られるようになるだろうとは思いながら練習をしていて、実際に出られるようになったタイミングが思ったよりも遅かったかな、というところです」
――今季は開幕前に森山監督もチームの武器としての「鎌田大夢の守備」ということを言及していました。チームの「デュエル王」(デュエル勝利総数56)でもありますが、取り組んできたことが数値化された実感はいかがですか?
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Profile
村林 いづみ
フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。
