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パリ・サン=ジェルマンFCのモデルを務めた「あーちゃん」とは何者か?

2020.04.21

今年1月下旬にお披露目となったパリ・サン=ジェルマンFC(PSG)の4thユニフォーム。

4thユニフォームのプロモーション動画

そのユニフォームモデルの1人に抜擢されたパリ在住の日本人サポーター、あーちゃん氏(@aachanPSG)はTwitter上でサッカーファンに現地の情報を届ける「インフルエンサー」だ。今や1万人以上のフォロワーを抱え、クラブ公認ファンクラブ「PSG Fan Club Japan」のリーダーを務める彼女に、情報発信を始めたきっかけ、モデルに抜擢された経緯、そして愛するクラブへのあふれる想いを聞いた。

「5人」から始まった情報発信


――まずはPSGの応援を始められたきっかけからうかがってもよろしいですか?

 「はい! もともと母がサッカー好きで、小学校でもみんなサッカー大好きで体育の授業はサッカーしかやらないくらいでした(笑)。授業が9時開始だとしたら、全員8時に登校して、1時間サッカーをするみたいな(笑)。そういう環境だったこともあって、小さい頃からサッカーに興味がありました。その後、10年くらい前からフランス、パリに住み始めたんですけど、私はパリから15キロくらい離れた郊外の学校に通っていたんです。そこにPSGの練習場がありまして、通学に時間がかかるのでサンジェルマンに引っ越したんですけど、道を歩いているとチームバスとすれ違うこともよくあったりして。そうやってPSGの地元で暮らしていくうちに愛着が沸いて、興味を持ち始めたのがきっかけです」


――そこから試合を見たりするようになったんですか?

 「最初はしっかり試合を見ていなくて、こういうクラブがあるんだな、くらいの感覚だったんですけど、もともとサッカーが好きだったこともあって、少しずつ見るようになった感じですね」


――そして現地のスタジアムにも足を運ばれるようになったと。

 「そうです、そうです!」


――今はゴール裏で応援されてるんですよね?

  「ゴール裏でガツガツ応援してます(笑)。家の中で1人でチャントを歌い出すくらい、本当に好きで」

PSGの本拠地、パルク・デ・プランスで声援を送るPSGサポーターたち


――気づいたら口ずさんでいるみたいな。

 「いや、大熱唱です(笑)。ずっと歌ってられます」


――今や熱狂的なサポーターなんですね(笑)。そうした過程の中で、なぜあーちゃんさんはSNS上で積極的に情報発信されるようになったのでしょうか?

 「私のTwitterアカウントはもともとサッカー専用アカウントではなかったんです(笑)。試合を観ていてゴールが入ったり、盛り上がった時に、おー! イブラー! みたいなツイートをしてたんですよ。それがたぶん、検索で引っかかってフォローしてくださった方が何人かいて。当時は5人くらいだったんですけど、『日本にもPSGを好きな人がいるんだ! 』って嬉しくなって。当時は今ほどPSGが日本で知られていなかったので、国内リーグかカップで優勝した時か、CLの試合翌日くらいしかニュースにならなくて(苦笑)、その中で手探りで追いかけている人たちがいるんや! と思って。朝起きて欠かさずPSGの情報をチェックしている私にとって、フランス語から日本語に翻訳することは何の苦労もなくささっとできることだし、日本から応援している人たちも現地の情報を知ることによって少しでもより楽しく追えたらいいなー! と」


――その5人の方と一緒に楽しみたい想いがあったと。

 「そうですね。私自身、ただサッカーの試合を見るのも好きなんですけど、背景を知って見たらもっと面白い。スポーツにも1歩ずつ歩んできたストーリーやエピソードがあって、そこを理解して見るのが凄く好きなので。あと、当時はPSGに関する記事の数も少なかったし、必ず1つか2つ、誤植がある記事があった(苦笑)。やっぱりサッカーチームって、凄いたくさんあるわけじゃないですか。フランスの1部だけでも20チームあるので。各チームに専属のライターさんがいらっしゃれば、そういう細かいニュアンスも伝えられると思うんですけど、それは難しいこと。だから、仕方がないなと思っていたんですけど、決定的な出来事があって……」


――決定的な出来事というと?

 「今でも覚えてるんですけど、16-17シーズン、CLのグループステージでPSGがアーセナル、バーゼル、ルドゴレツと同じ組になったんですよ。で、PSGが首位通過をアーセナルと争ってて。第4節、バーゼルとのアウェイの試合で76分に追いつかれて、このままドローで終わってしまうのかな…ってところで、90分にPSGがどうにか決勝点を挙げて勝ったんですね。その90分のゴールって大切じゃないですか。終了間際にどうにか勝てたっていう。しかも、まだ首位通過を争い続けられる1点。凄く大事なゴールだったんですけど、日本語の記事で得点者の名前を間違えられて、もう、ほんと、さすがに……(苦笑)。それが決定的で、情報発信を始めました」


――メディアで働く人間として、耳が痛くなるお話ですね……。今では1万人以上の方に向けて情報発信をされているわけですが、注意されていることはありますか?

 「私が絶対にしないのは、他のチームを下げること。ライバルのマルセイユは別なんですけど(笑)。私がPSGを好きなように、他のチームを好きな人もいるわけで、どのチームを好きになるのかは人それぞれ。どこかを否定するようなことはしたくありません。あと、いくらPSGであってもいいものはいい、悪いものは悪い、これは好きじゃないってことはきちんと言いたい。正直に生きたいなーと(笑)」


――あーちゃんさんはnoteもされていますよね。Twitterとどう使い分けられているのでしょうか?

  「現地でニュースを見たり読んだりしながら、私個人の考察をnoteでは書いています。でも、Twitterだと140文字だから書ききれないじゃないですか。リプライでぶら下げて書くこともできるんですけど、そうすると区切り方によっては誤解されてしまう。そこだけがリツイートされて拡散されてしまうんですよ。全体として見たら、そんなこと言ってないやん! って伝わるのに、そこだけ伸びていってしまう心配があって、書きたいことも書ききれなくてnoteを始めたんです。だから、こういう考えもあるんやなーって感じで読んでいただけたらと思いながら書いてます」

PSGはただの金満クラブじゃない?


――今回、PSGの4thユニフォームのアンバサダー 「ALL キャンぺーン・スター」になられた経緯も教えていただけますか?

 「4thユニフォームのお披露目のプロジェクトは、PSGとAccorが主催していて。Accorは今シーズンからPSGの胸スポンサーになったフランスの会社で、ヨーロッパでは有名なホテルチェーンなんですけど、ロイヤリティプログラムを作ってまして、それがALL(Accor Live Limitless)。その会員でPSGを応援している人という条件で選ばれたみたいです」


――PSGとAccorのコラボレーションだったんですね。あーちゃんさんはAccorをよく利用されているんですか?

 「アウェイ観戦にもよく行くんですけど、PSGの試合って国内だといつもビッグマッチ扱いになるので、CLが火曜日にならない限り、日曜の21時キックオフになることが多いんですね。そうなると試合が終わってからではパリに帰る終電に間に合わないので、始発の新幹線でパリに戻ってその足で仕事に行く(苦笑)。それを考えると駅の近くに泊まるのが楽なんですけど、フランスだと駅の近くはAccorのホテルが多くて、凄く泊まりやすい。PSGの試合も見に行けて胸スポンサーにも泊まれるっていうワクワク感があります(笑)」


――アンバサダーとしての活動はいかがでしたか? ユニフォームのモデルになられていましたよね。

 「そうです、そうです。室内と外での撮影をして。それとAccorはPSGのホームスタジアム、パルク・デ・プランスにVIPルームを持っていて、そこに招待していただいて試合を観るという。本当にびっくりしました!(笑)」

あーちゃん氏の撮影の様子


――ということは、情報発信されているから、いわゆるインフルエンサーだから選ばれたというわけではないんですね。てっきり、何かいろんな思惑があるのかと想像していました。今はいろんなビジネスでインフルエンサーが抜擢されていて、コンテンツの内容を厳しく指定されることもあるみたいなので(苦笑)。

 「いやいやいや! 正直にお話しますね。隠すことは何もないので。私はたまたまTwitterをやっていたりしますけど、他にも世界各国から選ばれたアンバサダーは、個人的にInstagramのアカウントを持っているような人ばかりで、こういう投稿をしてくださいみたいな指示は一切なかったです。言われたのは、とにかく楽しんで! ということだけでした(笑)。だから、本当に純粋に楽しませていただいて」


――先ほどメディアについてお話いただきましたが、日本に限らず世界的に「金満クラブ」扱いされることが多いですよね。PSGを身近に見ていて、どう思いますか?

 「そう見られてますよね(苦笑)。PSGは今年の8月で50周年を迎える歴史もないクラブだとも思われてるんですけど、その歴史って凄く面白くて。もともとはスタッド・サンジェルノワっていうパリ郊外のプロチームだったんですけど、首都のパリにプロサッカーチームがないのはどういうことや!ってことでパリFCと合併してできたのがPSGで。その後、パリFCとPSGに分かれた時にパリFCがプロとして残ったんですよね。パリ市からの支援もパリFCが受けていた。分かれたPSGの方は、もともといたプロ選手が全員パリFCに移籍してしまって、資金源もなくなり…って状況で(苦笑)。アマチュアから再スタートになったので、支援が必要になったんですよね。そういう背景があることを考えると、支援を受けているのは今に始まったことじゃない(笑)。PSGが生き残っていく上で必要だったことだし。カタール資本のおかげで大金があるということには変わりませんが、そういう背景も知ってたら見方が少し変わるかなっていう(笑)。『大金がある』ということと『お金の使い方』はまた別ですしね」


――PSGはここ数年だけを切り取って語られることが多く、そこから入ってきたファンも少なくないでしょうけど、そういう歴史があるからこそ今があるわけですよね。

  「そうそうそう。今PSGストア(グッズストア)ではPSG柄の服を着てるミニオンのぬいぐるみが売っていて。今年の夏にやる映画に合わせたコラボなんですけど、そこにはPSG財団も関わっているんです。PSG財団は“Children First”、『まずは子供たち』というスローガンを掲げていて、世界中の恵まれない子供たちを支援しています。その活動の一部としてミニオンを売っているんですけど、このぬいぐるみを買ったら〇%が寄付されます、といった抽象的なものではなくて、1ユーロ分を孤児の子供たちが旅行に行けるようにする支援に使いますって、具体的な使い道まで書いている。ただお金を振り撒いているクラブじゃなくて、社会に貢献する活動もしています」


――「誰とコラボレーションしたか」が注目されがちですが、その裏でしっかりと社会に貢献しているんですね。

 「去年の4月15日にノートルダム大聖堂が火事になってしまった時も、すぐにPSGは長期的な支援を表明する公式声明を出しましたし、支援するのは建物の再建だけではなくって。その直後にノートルダム大聖堂のイラストを胸に描いたユニフォームを作って、それを着用して試合をしたり売ったりしたんですけど、そのお金は再建ではなく、その時に必死に戦ってくれた消防団の方に寄付したんです。

18-19シーズンのリーグアン第33節モナコ戦で、胸にノートルダム大聖堂のイラストが描かれたユニフォームを着用してプレーするキリアン・ムバッペ
背中のネームプリントには選手名の代わりに「Notre-Dame」(ノートルダム)の文字が刻まれていた

 で、たまたまその時の試合はゴール裏が立ち入り禁止になっていたんですね(苦笑)。その前の試合でウルトラスがちょっと派手にやってしまって。それで、空いたゴール裏に消防士さんたちを入れるのはどうですか? って話をリーグに持ち掛けたら許可が出たので、消防士の方とそのご家族の方々をその試合に招待しています。そうやって、パリの街を大切にしようとしている動きもある。いろんなところとコラボしているのも、単に目についたからとか、単にお金になるからとかじゃなく、いろいろ考えてやっているイメージですね」


――ちなみに、PSGのグッズでオススメはありますか?

 「個人的な話になるんですけど、PSGとクラブ公認のファンクラブ、PSG Fan Club Japanが作ったマフラータオルを持ってまして。これを着けていると『日本にもファンクラブがあるんだ! 』って現地の方も凄い食いついてくださる。僕も日本に行ったことあるよ! PSG好きなんだね! って声をかけられたこともあります。あのマフラー1つでよくいろんな方と会話が弾みますね」

PSG Fan Club Japanのマフラータオルを掲げるあーちゃん氏


――日本はフランスでも知名度が高いですよね。

 「そうですね! 特に男性の方は『ドラゴンボール』とか日本の漫画が好きで。それこそPSGにとって1年で一番大事な試合ってマルセイユとのダービーなんですけど、そこで(孫)悟空、神龍と2年連続で披露したコレオがドラゴンボールで(笑)。やっぱり日本が好きな方は多いですね」

今季のリーグアン第11節、マルセイユをホームに迎えた“フランス・ダービー”で神龍のコレオを披露するPSGサポーター

「好きか好きじゃないかが大事」


――あーちゃんさんはお話に出てきたPSG Fan Club Japanのリーダーでもありますよね。どんな活動をされているんですか?

 「ファン向けに企画を立てたりしています。例えば去年の12月の上旬に、試合前に現地で集会をする提案をツイートをしたんですね。参加者の条件としては、その日に集まれれば試合のチケットがなくても試合を見に行かなくてもよくて。日本からちょうど旅行に来られている方だったりとか、留学されている方だったりとか、一時的にフランス来られている方といった、日本にゆかりのある方に声をかけました。

 そのツイートをPSGの日本オフィスの方も見ていて、クラブ本部との間に入ってくださって。試合前のピッチサイドでの見学まで話を進めてくださったので、最終的にツイートで参加者を募集しました」


――そのツイートに対して反響はありましたか?

 「SNSだと、私自身もそうなんですけど、特に日本人の方はプライバシーに敏感じゃないですか。何人かは連絡をくださったんですけど、なかなか反応してもらえなくて。だから、当日パリにいそうな方に直接案内を送って参加者を増やしていったんですけど、気を遣いました。やっぱりみなさん、アカウントと顔が一致するのは嫌だろうなと思ったので、事前の連絡では一人ひとりにメッセージを書いて、お互いのことが一切わからないようにしました。例えば会った時の自己紹介も偽名でもいいし、Twitterの名前でもいいことにしていて。結果的にみなさん盛り上がってお互いのアカウントを交換したんですけど、そういう工夫はしましたね」


――そのイベントの参加者募集にも表れていますけど、PSG Fan Club Japanは凄くオープンで、入会費も取っていないんですよね?それはなぜでしょうか?

 「実は、リーダーになる前にPSGのアジア担当の方や本部の方と面接したんですけど、ファンクラブとはこういうものというきちんとした定義は言われてなくて、私なりの理解でいいのかなと。私は『ファンクラブ』(Fan Club)という名前が好きで、サポーターズクラブになってしまうとちょっと壁を感じてしまうというか。ファンクラブなら極端な話、『他のクラブを応援してるけどPSGも面白いよね! 』っていう少し興味がある方でも一員になれる。こういうクラブ公認の集まりは日本だけじゃなくて、いろんな国にあるんですけど、どれもPSGはファンクラブという形にしているんです。そういう言葉選びが凄く好きで。だから入会費とかも別にいらない。クラブもそういう姿勢を容認してくれているので」


――日本だと複数のクラブを国別で応援している方も少なくないので、そういうファンにとっても入りやすそうですね。

 「そうですね。ピッチサイドでの見学も本部の方に、事前に登録をしなくてはいけないので参加者の名前と顔写真を送ったら、一応聞くけどみんなパリ好きだよね? って聞かれたので、中には他のクラブも応援している人もいますけど、みんなPSGが好きですよ! って答えたら許可をいただけて(笑)。だからクラブ側にとっても、別のクラブが好きならちょっと…っていう感情はなくって、『好きか好きじゃないか』ということが大事。凄くオープンですよね(笑)」


――現地サポーターの方々もオープンなんでしょうか?

  「私もアジア人なのでスタジアム、特にアウェイにいると凄く話しかけられるんですけど、日本人でも好きになってくれるんだ! っていうスタンスなんですよね。シーズンチケットを持つ前にアウェイに行った時も、現地の方からパリ好きなん?って聞かれて、好きやでー! って返すと、シーズンチケット持ってるの? って凄いワクワクした様子で聞いてくれて。持ってないんだ…って返したら、そうなんか…でも、来てくれてありがとう! って言ってくださって。そうやって迎え入れてくださるので、好きだったら仲間じゃん! って感じです。それこそ、PSGのゴール裏のサポーターたちにアンケートをとった時に、日本のファンに一言ください! ってお願いしたらたくさんの人が、そんな遠くから応援してくれているなんて、本当に凄い! 立派なPSGのサポーターだよ! と言ってくださっていて」


――では最後に、現地で観戦する時のアドバイスをいただけますか?

  「アドバイスですか?えー(笑)。PSGには『パリは魔法』っていうスローガンがあるんですけど、パルク・デ・プランスに来たら必然的にその魔法にかかると私は思っていて。それくらいスタジアムの雰囲気が凄くいい。これはスタジアムの構造の話になるんですけど、免震・耐震ってあるじゃないですか」


――揺れを逃がす構造かどうかという話ですよね。

 「そうそうそう。揺れ自体を防ぐ建て方と、一緒に揺れるようにすることで衝撃を緩和させる建て方がありますよね。PSGのスタジアムは、私の体感では後者なんです」


――めちゃくちゃ揺れるんですね(笑)。

  「そう、凄く揺れるんです。その揺れがまた気分を盛り上げてくれる。声の出し方であったり揺れ方であったり、すべてが凄くいいと思っていて、実際にいろんな方が言ってくれるんです。他のチームを応援してたんですけど、1回行ったらハマってしまいました! って。みなさんにも当てはまると思っているので、ぜひ足を運んでいただきたいです!ゴールした時に、見知らぬ言葉も通じない人でも、前の人、横の人、後ろの人に自分からハイタッチを求めていい! それくらい、みんなで盛り上がっているので一緒に楽しめる。だからこそ、恥ずかしがらずに自分から楽しんでほしいです」


Photos: ©Photo PSG, Getty Images

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Profile

足立 真俊

1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista

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