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アタランタで花開いた、ガスペリーニのむしろモダンなオールコートマンマーク

2020.01.10

ストーミングの旗手#4

現在のサッカー界における2大トレンドとして、「ポジショナルプレー」とともに注目を浴びている「ストーミング」。その担い手である監督にスポットライトを当て、指揮官としての手腕や人物像に迫る。

 2019年10月27日のセリエA第9節アタランタ対ウディネーゼの70分。右サイドからボールを運んできたウディネのケン・セマは、パスの出しどころを塞がれ中へと逃げた。するとそこに、対面にいたアタランタの左ウイングバック、ティモシー・カスターニュがくっついて体を寄せる。慌てたセマはボールをロスト、そこから一気にカウンターとなり、最後はFWルイス・ムリエルがペナルティエリア内で倒されてPKを獲得した。最終的に7-1という大差で終わった試合は、こんなシーンのオンパレード。ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督の仕込んだ再奪取→速攻のシステムの恐ろしさが存分に発揮された。

 ゾーンでの組織守備全盛の中、一見時代の逆行にも思えるオールコートでのマンマークを導入。もっとも彼自身は、近代サッカーの否定論者だと見られるのを嫌う。「攻撃はアヤックスやバルセロナのサッカーを研究したものだ」と、むしろサッカー観はモダンなものだとアピールしている。

 事実この戦術は、短時間での再奪還と素早い切り替えの実現という近代サッカーの要求を満たすためのものだ。ボールホルダーに人をつけて動きを封じるとともに、近場にいる相手選手たちにもマンマークをつけてパスコースを塞ぎ、局面では予測に基づくインターセプトでボールを奪取する。そしてひとたびボールをものにすれば、その選手を基準として三角形を幾重にも組めるポジショニングが整備され、展開の選択肢が豊富に与えられる。こうして攻撃への切り替えを図った後は、サイドを経由して縦方向の速攻で裏をえぐって攻めていく。

 このマンマーク志向は、指導者キャリアの最初から持っていたものではなかった。9年間(1994-2003)におよぶユベントス下部組織での指導を経て、プロ監督として実績を築いたクロトーネやジェノア時代は[3-4-3]での攻撃サッカーが代名詞。むしろ「ゾーンプレスこそ私のプレー原則だ」と、アリーゴ・サッキのプレッシングに多くの着想を得ていた。

 そこに新たな発想が加わったのは、2014年10月29日のジェノア対ユベントス(1-0)。CBのニコラス・ブルディッソとセバスティアン・ドゥ・メオがユベントスの2トップ、カルロス・テベスとフェルナンド・ジョレンテをマンマークで抑えたことから着想を得て「2人をマンマークで抑え、余る選手のタスクをビルドアップに振る」戦術の整備と研究に着手。その成果は、2016-17に始まるアタランタでの3年間で花開いた。ビッグネーム不在の戦力を用いてCLにまで到達させた事実が、ガスペリーニの指導原理の正しさを何より雄弁に物語る。

CLでは3連敗スタートから大逆転でGS突破を遂げれば、セリエAでも5位と上位に。毎年主力が引き抜かれる中でも結果を残し続けられるのは、確かな戦術があってこそだ


Photos: Getty Images

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アタランタジャン・ピエロ・ガスペリーニストーミング

Profile

神尾 光臣

1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。