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謎に包まれた森保ジャパンを『ゲームモデル』で読み解く

2019.05.12

月刊フットボリスタ第68号では、欧州サッカーで急速に広まっているポルトガル発祥の戦術的ピリオダイゼーション理論に紐づく「ゲームモデル」という新たなチーム作りを特集したが、その概念に基づいて東大ア式蹴球部ヘッドコーチの山口遼氏に森保一監督率いる日本代表の分析をお願いした。謎に包まれた森保ジャパンを“欧州サッカーの基準”に翻訳して解き明かす。

 6月に開催が迫るコパ・アメリカに招待チームとして出場する日本代表。アジアカップなどとは異なり、コパ・アメリカではクラブに対する強制招集権限がないので、メンバーのやり繰りが様々な意味で注目を集めるが、UEFAネーションズリーグの開催に伴い、ヨーロッパの代表チームとの対戦が困難になってしまった日本代表にとって、南米のチームと親善試合ではない真剣勝負を行える今大会は、今後の強化に向けて非常に貴重な機会となる。

 今回は、そんなコパ・アメリカを目前に控えた日本代表のゲームモデルを分析する記事なのだが、初めに言ってしまうと、これまでの日本代表の試合を見て判断する限りでは、明確なゲームモデルはおそらく存在していないのではないだろうか。例えば、左サイドMFに原口元気が出場した試合と、中島翔哉が出場した試合では、攻撃、守備ともに明らかに起こる現象が大きく異なっていたり、同じ選手がプレーしても局面によって判断が異なっていたりと、チームとしてかなり属人的、あるいは基準が曖昧な印象を受けるのだ。しかし、だからと言って起用される選手に応じてまったくバラバラのサッカーをしているかと言われればそういうわけではなく、むしろ日本全体に漂う「不文律」のような、暗黙のゲームモデルは存在している。

 そこで今回は、あくまでピッチ上で起った現象からの逆算になるが、「戦術的ピリオダイゼーション」の考え方に基づき現在の日本代表の「プレー原則」や「ゲームモデル」を類推し、その後それと比較することで、実際の日本代表が抱える問題点を分析してみようと思う。

中島、南野、堂安の2 列目3人に代表される、近い距離での独特のコンビネーションは伝統的な日本の強みだ

“日本らしさ”という暗黙のゲームモデル

 イビチャ・オシム監督就任以降、日本人の良さを生かす、日本人の特徴に適したサッカーのスタイルを追求するというのが、今でも続く日本代表の大きな流れである。日本人選手の特徴としてよく挙げられるのは、長所としては「テクニック、敏捷性、勤勉さ、運動量」、短所としては「フィジカルコンタクトの弱さ、身長、直線的なスピード」などであろうか。これらを踏まえて、短所をなるべく表出させず、長所がよく出るようなスタイルとして、大雑把に言えば「ロングパスよりはショートパス」、「自陣にバスを止めるよりはプレッシング」、「陣形は攻守ともにコンパクトに」、「攻撃の選手には自由を与える」といったサッカーを、様々な振れ幅はあれど一貫して志向してきた。

 アルベルト・ザッケローニ監督の時代には、ショートパスとプレッシングにより傾倒していたが、やや守備のバランスに針を振った2010年W杯本大会時の岡田武史監督やヴァイッド・ハリルホジッチ監督の時代ですら、高身長のFWにアバウトなロングボールを放り込み続けるというようなサッカーは志向しなかった。自陣にブロックを敷くとしても相手にプレッシャーをかけるために全体をコンパクトに保ちながらグループとしてハードワークし、カウンターをする際にも敏捷性とテクニックを生かしたドリブルやコンビネーションによるものがメイン。さらに言えば、それでも日本人のメンタリティに適合しないと判断すれば、W杯本大会の直前であってもハリルホジッチ監督を解任するなど、「日本のスタイル」に対するこだわりは、国全体を通して存在している空気感のようなもの、と言っていいだろう。

 よって、森保監督の率いる現在の日本代表も、このような大きな流れを引き継ぎながら、ハリルホジッチ監督時代の大きな特徴であり、現代サッカーの潮流にも合致した「縦方向へのスピード」をミックスしたようなスタイルを志向している。すなわち、現在の日本代表を貫く大きなロジックは、「ショートパスを多用し」、「積極的にプレッシングを行い」、「陣形は攻守ともにコンパクトで」、「前線の選手には自由を与え」、「可能なら縦方向に速い」サッカーを行うことである。

攻撃:近い距離でのコンビネーション

 それでは、以上の前提を踏まえながら、日本代表のゲームモデルの具体的な分析に入っていこう。まずは攻撃の主原則だが、これは「個人の特徴を生かした近い距離感でのコンビネーション」であろう。

 まず、日本人選手の弱点として認識しているフィジカルコンタクトの機会を多く作らせないためにも、ボールホルダーを長い時間孤立させないことが必要になる。そこで、近い距離感でのサポートが求められ(準原則①)、さらには少ないタッチでボールを動かし続ける必要がある(準原則②)。また、前線の選手の特徴をフルに生かすことを目的とするため、ザッケローニ監督の時ほどではないが、前線の選手のポジショニングには一定の自由が与えられ、特に崩しの局面ではハーフスペースや大外、あるいは中央など自由にポジショニングを取りながら近い距離でのコンビネーションで相手の守備組織を攻略しようとする(準原則③)。

 また、ポジショナルプレー的な「パスでゲームをコントロールする」というような考え方は基本的に用いておらず、前方にスペースや選択肢が存在している場合にはバーティカル(縦に速く)に攻撃するのも特徴である。これによって、相手チームの状態が整う前に脅威を与えられる機会が増えた一方、トランジション(攻守の切り替え)時のミスは以前に比べて増加傾向にあり、ゲームの中盤以降はオープンなゲーム展開になることもしばしばある。

守備:組織的なミドルプレス

 次に、守備時の原則を考えてみる。守備の主原則は、「中央を封鎖してサイドに誘導するミドルゾーンでのプレッシング」というのが近いように思う。日本代表のやり方の中では、最も細かくオーガナイズされているのがこのミドルゾーンでのプレッシングであり、この局面に限って言えば明らかに原則が存在するのが見て取れる。

 まず、基本的には[4-4-2]の陣形で守備を行い、2トップは相手のセントラルMFのコースをカバーシャドーしながらボールを外に誘導するようにプレッシングを行う(準原則①)。また、フィジカルコンタクトや直線的なスプリント、ヘディングといった日本人の弱点が顕在化しないために、ライン間をコンパクトに保ち、スペースを圧縮して守ろうとする意識が見られる(準原則②)。

 このように、基本的にはゾーンディフェンス主体の立ち位置を取るが、2列目からの飛び出しや、列を越えて下がっていく選手などのポジションチェンジに対しては、マンツーマン気味についていくことが多い(準原則③)。これは、ゾーンディフェンスの構造的な課題である、守備組織全体の外のスペースや、ゾーンの隙間で受けようとする選手を曖昧にしないための対応であると考えられるが、このギミックには大きな問題点が存在する(その問題点については後述する)。

トランジション:原則がない未開拓領域

 トランジションについては、明確な原則というものがおそらく存在しておらず、現状再現性のある形を持っているとは言いがたいだろう。

 ネガティブトランジション(攻→守の切り替え)、特に即時奪回を試みるチームにおいて重要なのは、攻撃時にどのようなポジショニングを取り、準備を進めておくかということである。日本代表は、攻撃時にSBが幅を取る役割で攻撃に参加し、セントラルMFも1枚は積極的に攻撃に参加することが多いので、最悪の場合CB2枚とセントラルMF1枚の計3枚でカウンターの対応を強いられることになり、逆サイドのSBかセントラルMFの残り1枚が、気を利かせて残った場合には4枚でのカウンター対応となる。

 攻撃的なフィロソフィを掲げながらも、カウンター対応に5枚をかけるチームがほとんど(マンチェスター・シティやリバプールなど)になった現代サッカーでは、4枚でのカウンター対応というのはややリスキーであると分類されるだろう。また、ポジションチェンジを推奨する攻撃時の原則の影響で、ボールを失った際に全体のポジションバランスが崩れていることが多く、即時奪回が成功しにくい状況がたびたび見られる。

 ポジティブトランジション(守→攻の切り替え)に関しても、ボールの逃しどころやカウンターの形といったものに再現性はなく、ボールを奪った選手のキャラクターによってその後のプレーが決まる印象が強い。特に、前線の選手がボールを奪った際に、直後のプレーで安易な縦パスや突破のドリブルをカットされ、逆カウンターを招く場面が多く見られる。

「プレー原則=再現性」がない弊害

 トランジションに限らず、攻撃や守備においても、ディテールに対して細かく原則や優先順位が設定されていない、あるいは判断が選手たちの瞬間の判断に委ねられていると感じる場面は多い。

 例えば、先に指摘した守備の準原則の中に、「ポジションチェンジに対してはマンツーマン気味についていく」というものがあった。この原則自体は様々なチームで導入されているものだが、誰か1人がマンツーマン気味についていくということは、その選手が埋めていたスペースが空くことを意味する。これに対して、他の選手がポジショニングを調整し、そのスペースを埋めるような構造が存在していれば問題はないが、日本代表の試合を見ているとそのような原則は見受けられない。

 具体的に言えば、セントラルMFの遠藤航がサイドへのフリーランニングについていった際に、サイドMFの堂安律や中島が絞るわけでも、FWの南野拓実が落ちるわけでもないので、もう片方のセントラルMFの柴崎岳周りのスペースが大きく空いてしまっている、というような場面が見られる。他にも、左サイドMFに原口が先発した試合では、相手SBの高めの位置取りに対してマンツーマン気味についてDFラインに吸収され、5バック化するシーンが多いのに対し、前残りする中島が先発した試合では、サイドのスペースを埋めるチームとしてのオーガナイズが見られず、中島の裏のスペースをそのまま相手に狙われるシーンがあったりと、出る選手によって守備組織の性質ややり方が大きく変化する傾向にある。

 対照的な例として、ロシアW杯のフランス代表は、一定のゲームモデルを掲げるチームではないという点は日本代表と類似しているが、守備時にサイドMFのキリアン・ムバッペをカウンターに備えて高い位置に置くため、CFのアントワーヌ・グリーズマンをサイドMFの位置に降ろすなどの再現性のある守備構造が見られた。

 このように、オーガナイズされた局面がまったくないわけではないのだが、ディテールに対する原則がはっきりと設定されていない、あるいは基準が曖昧な部分が非常に多く、そのような局面の解決手段が属人的、あるいは偶発的になされている印象が強い。また、攻撃時にトランジションの準備が十分になされていない、ボールの近くにコンパクトな陣形を作った際の外側のスペースに対する管理が曖昧、などの事象に代表されるように、特定の局面にのみオーガナイズが偏る傾向にあるため、部分最適はあっても全体最適はあまり存在せず、しばしば強豪国との対戦では問題として顕在化している印象だ(W杯のベルギー戦の最後の失点などはその典型だ)。

攻撃時にポジションを崩しているため、奪われた後のネガティブトランジションに脆さを抱えている。出来が良かったウルグアイ戦でもカウンターから失点した

「文脈を伴うトレーニング」が必要

 まとめると「攻撃」、「守備」、「攻→守の切り替え」、「守→攻の切り替え」の4局面において、「攻撃」と「守備」に関しては暗黙のゲームモデルがある(この2局面に関してもディテールの詰めは個人の判断に委ねられ、起用される選手によって原則自体が変わっている部分もあるが……)。しかし、後者のトランジションに関わる2局面に関しては暗黙のゲームモデルすら存在していないように見えた。この状態でW杯ベスト16に入れているのは日本代表のポテンシャルの高さを示してもいて、今の暗黙のゲームモデルをベースに足りない部分も含めてきちんと言語化してトレーニングに落とし込めれば、さらに上のレベルを狙えると感じている。

 とはいえ、筆者の考え方のベースになっている「戦術的ピリオダイゼーション」や、それに包含される「ゲームモデル」のような考え方は、あくまで無数にあるやり方のうちの1つでしかなく、絶対に正しいというわけでは決してない。むしろ、W杯やCLなどのトーナメントにおいては、フランス代表やレアル・マドリー、ユベントスなどのように、特定のゲームモデルに固執しない万能性を持ったチームが結果を出しやすい傾向にある。これはおそらく、トーナメントとリーグ戦とではゲームの性質が異なり、1敗で敗退が決まるトーナメントでは「対策する」という行動の方が「より有効」だからであろう。つまり、相手の対策を無効化できるチームが有利である、ということだ。

 一方、ペップ・グアルディオラの監督キャリアのスタートを契機に、特定のゲームモデルを持つ・持たないにかかわらず、「サッカーの戦術化」は世界的に止まらないトレンドとしてこの10年間でサッカーというスポーツをまったく別の次元へと進めてしまった。チームとして共通認識を持ち、「いつ」「どこに」「誰が」いるのかをあらかじめ知っている状態でサッカーをしてくる一流のプレーヤー集団に対して、個人のアイディアと即興性だけで立ち向かうのは非常に困難になってしまった。特定のゲームモデルを持っていないとしても、各シチュエーションに対する戦術的な解決アクションを各選手・グループ・チームの単位で把握し、実行するのはもはや当たり前のことである。

 戦術的ピリオダイゼーションでは、トレーニングでの学習プロセスにおける「文脈」を非常に重視する。サッカーは非常に複雑な相互作用の連続であるため、選手たちにとってはピッチ上のすべての情報を把握することが不可能な「不完全情報ゲーム」である。よって、断片的な情報から次の行動を決断する必要があるため、前後の状況との相互作用である「文脈」が重要なのだ。

 例えば、同じ4対4を行うのでも、ビルドアップの局面なのか、崩しの局面なのか、関わる選手のポジションはどこなのかなどによって適切なアクションは大きく異なるので、トレーニングに適切な「文脈」を設定することで、トレーニングでの判断がそのままゲームでの判断に紐づけられ、判断の精度の向上に繋がるというわけだ。

 日本代表のトレーニングの詳細はわからないが、日本のチームでこのようなトレーニングを導入しているチームは多くない。スペインで言うところのグローバルトレーニング、すなわち「サッカーの要素を含むが、サッカーではない(ゴールがない、切り替えがない、ポジションがない)」トレーニングを非常に重視する傾向がある。これも非常に有効な練習なのは間違いないが、これだけではトレーニングでの判断と実際の試合での判断との紐づけが不十分で、トレーニングでできていたことがゲームでできない、あるいは本記事で問題視しているように各シチュエーションのオーガナイズが不足する/個人の判断に依存するというような状況が起きやすい。

 トレーニングの方法論に絶対の正解はまだ発見されていないが、「戦術のトレーニング」といえば相手のいないシャドートレーニングがメインだったのは昔の話であり、選手の知的好奇心を刺激し、意欲的に取り組みながらも向上していけるようなトレーニングの方法論が発展し、知られてきているのは素晴らしいことである。年始のアジアカップで確信したが、純粋なスキルの観点で言えば、日本の選手たちのポテンシャルは世界の強豪にもまったく劣らないものを持っている。トレーニングを変え、選手や監督、ファンの意識を変え、「戦術的に戦う」ことができるようになれば、日本代表の未来は間違いなく明るい。

W杯本番をにらんであえてチームの完成度を上げ過ぎていないようにも見える森保監督のチームが、今後どのように作り込まれていくのか楽しみだ


Photos: Getty Images, Ryo Kubota

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戦術日本代表

Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。twitter: @ryo14afd