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イングランドで働く日本人コーチ 平野将弘による日本の3バック分析

2019.06.17

平野将弘の日本代表テクニカルレポート

招待国として参加するコパ・アメリカ、そして9月に始まる2022年W杯のアジア2次予選に向けてトリニダード・トバゴ、エルサルバドルとの強化試合に臨んだ日本代表。この2戦で注目を集めたのが、森保一監督就任後初となる3バックへのトライだった。森保監督の代名詞でもある[1-3-4-2-1]システムの“森保ジャパンデビュー”について、イングランドのカーディフでコーチを務める平野将弘氏に分析してもらった。

 それぞれの試合の分析へ入る前に、3バックシステムそのものについて少々言及しておきたい。

 これはサッカーコーチとしての主観的なアイディアになるが、3バックは配置の部分で優位性を作りやすいシステムだと私は考えている。だだし、それには選手たちのポジショニングに関する高いレベルの戦術理解や、チームとしてプレー原則が徹底されている必要性がある。さもないと、チーム全体のバランスや味方選手同士の距離感が崩れやすくなるだろう。ボールを保持したいチームが3バックでプレーするには、最低限相手チームよりも優れたスキルと、ゲーム理解力やインテリジェンスを持つ選手が不可欠。これは欧州リーグに目を向けてみれば明らかだ(コンテ時代のユベントスやチェルシー、ペップ・グアルディオラのバイエルンなど)。このシステムが試合中の選手たちのビヘイビア(行動)にフィットした場合、ポジショナルなプレーを志向するチームにとっては非常に効果的なシステムへと変貌を遂げる。

トリニダード・トバゴのアプローチ

 トリニダード・トバゴは90分間一貫して[1-4-1-4-1]のシステムで戦った。特徴としては前からプレスをかけるというよりは、自陣へ下がってからブロック守備をする。ただ、そのブロック守備は非常に興味深いものであった。第一段階、つまり日本のDFがビルドアップでボールを持っている時は、5人からなるMFラインを形成する。ここまでは普通なのだが、独特なのはこの後。5人のうち両ウイングは日本にMFラインを突破されても下がらず、高い位置に残ってカウンターアタックを狙ったポジションを取る場面が散見された。ゆえに、彼らのボール非保持時のシステムは[1-4-5-1]から[1-4-3-3]へと自陣内で変化する。

 攻撃に関しては、後ろからショートパスで繋ごうと試みても最終的には裏へ蹴るシーンが多く、貴重な得点機に繋がっていたのはポジティブトランジションで日本の守備がまだオーガナイズできていない状態を突くカウンターアタックだった。

トリニダード・トバゴ戦の日本:ビルドアップ

 私が見た限り、この試合からそれほど悪い印象は受けなかった。結果は格下相手に0-0。しかしゴール期待値(xG)は3.83を記録し、29本のシュートを放った。確かに最後のフィニッシュのところで精彩を欠いたのは事実だが、相手の守備強度が低かったこともありチャンスは多く作り出せていた。

 ただ、この試合に関して言えばそんなことよりも、初めてトライした3バックの良かった点や修正が必要な点に目を向けるべきだし、それこそが今後に向けた収穫である。

 試合を見始めて最初に感じたのは、日本のビルドアップ時、2枚のセントラルMFの位置が極端に低いことだった。

日本対トリニダード・トバゴの26秒のシーンでの配置図

 上図の26秒のシーンでは、柴崎岳のエリアを右CBの冨安健洋に任せれば、柴崎自身はポジションをもう少し高い位置に上げることができる。彼がボールを保持している右ウイングバックの酒井宏樹に近い高さまで来れば、ボールを受けて堂安律へ縦パスを送ることができるし、中央の選手がフリーであれば中へのペネトレイトパスを出すことも、もしくは逆サイドへ展開もできる。柴崎のところに相手の左セントラルMFがチェックに来れば堂安の周りのスペースが広がるし、もし柴崎がタイトにマークされてボールを受けられない状態になったら、その時は冨安を使ってサイドチェンジすれば良い。トリニダード・トバゴが日本のDFラインへのプレス隊として残しているのはたった1人だけなのだから、日本が自陣に5人も残している利点はない。

 最終ラインで3対1の数的優位を得ている日本のビルドアップは、そのまま3バックを使って相手の第1ラインを通過する形が主なパターンだった。CB間で幅を維持しながら、シンプルにボールを運んで繋げば良い。試合序盤は、CBコンビを組んだ冨安と畠中槙之輔が目の前にスペースがあるにもかかわらずボールを運ばないシーンが多く見受けられた。しかし、試合中に監督から「持ち運べ!」という指示が聞こえ、ゲームの中で修正し向上している様子がうかがえた。

 また、両CBがボールを運ばなかったのはウイングバックの高さ、ポジショニングも影響していた。酒井と長友佑都がもっと高い位置まで進出すれば、チームとして深さと幅を得られる場面があった。特に、この試合のシャドーは堂安と中島翔哉という、利き足とは反対サイドでプレーしカットインも入れながらボールを内(ハーフスペース)と中(センター)で持ちたい選手だったのだ。彼らによりゴールへ近い位置でプレーさせるためにも、相手のサイドプレーヤーをピン留めするウイングバックのポジショニングの微調整がなおさら重要だった。

 ただこの部分についても、両ウイングバックに起用された酒井と長友が豊富な経験を生かし、時間が経つにつれて修正できていたのは良かった点だ。

 日本のビルドアップのもう1つのパターンとして、セントラルMFから1人をDFラインへ下ろして4対1を形成する場面があった。これは事前に練習しており、この試合でトライしようとしている姿勢が見られた。

セントラルMFが1枚下りた際の配置図

 これをすることにより、DFラインのユニットのところで幅を作ることができる。それが森保監督の狙いだったはずだ。相手が1トップで、両ウイングがMFラインに位置して第1ディフェンスを遂行していたこの試合で絶大な効果があったかと言えば疑問符がつくが、アイディアとしては素晴らしいので残しておきたい。

 基本的に日本のDFと中盤からは、少ないタッチ数でボールを動かす意図を感じた。実際、パス本数は相手の2倍以上の594本を記録している。ただ、ビルドアップの局面に関して言えば、外に開いた3バックの両サイドCBがボールを運ぶも出しどころを見つけられずに詰まってしまい、サポートを要求する場面が少なからずあった。

トリニダード・トバゴ戦の日本:崩しの局面

 崩しの局面に関して見られた課題は、シャドーの中島が低い位置まで下がってボールを要求するため、相手の最終ラインとMFラインの間に生じたポケットでボールを受ける選手や、大迫勇也に縦パスが入った後のサポートが不足していた点だ。

 大迫がポストプレーヤータイプのストライカーだということも手伝って、裏に抜ける選手が少なかったのは事実。前線3人がペナルティエリア付近で団子状態になった7分13秒の場面などを見ても、もう少し前線の選手たちの役割やタスクを整理させることが必要だと感じた。

トリニダード・トバゴ戦の日本:守備

 日本の守備に関しては、高い位置でより早くボールを取り戻そうという意識が見られた。カウンタープレスの際、シャドーが相手CBへプレスに行くとウイングバックが縦方向にスライドして相手SBまで位置を上げる柔軟な動きなどは、事前に準備されていたもののように見えた。実際、高い位置でボール奪取してショートカウンターというシーンを作り出していた。

 逆に、相手が後ろからボールを保持して繋ごうとしてきた場合は、すぐに切り替えて自分の守備位置に戻り[1-5-2-2-1]のブロックを敷いた。CFの大迫は常にピッチ中央に位置し、相手の守備的MFや下りてきた選手をカバーシャドーしながらスライド。縦パスや相手SBにボールが入った時がプレスをかけるスイッチだっただろう。前述したウイングバックがカウンターアタックのために前線に残るトリニダード・トバゴの戦い方に対しては、冨安と畠中が高い集中力とパスコースを読む知性で予防的マーキングの質の高さを見せつけ、幾度となく相手の速攻の芽を潰していた。

トリニダード・トバゴ戦で右ウイングバックに起用された酒井宏樹(左)と右CBの冨安健洋

エルサルバドル戦の日本:3バックの進歩

 エルサルバドルもトリニダード・トバゴ同様、90分間を通して[1-4-1-4-1]でプレーした。スタイルはと言うと、比較的後ろからショートパスで繋いでくるチームだった。

 個人的に進歩を感じたのが先述のトリニダード・トバゴ戦で指摘した、両サイドCB前方の広大なスペースの利用だ。3バックの両サイドCBを務めた冨安と畠中は、スペースがある時は積極的により高い位置で攻撃に関わっていた。

ボールを持つ小林祐希を冨安がサポートした際の配置図

 自らボールを運ぶのはもちろんのこと、味方がボールを持っている際にもチャンスがあれば、オフ・ザ・ボールの際にポジションを上げてサポートする必要がある。ましてや相手が戦力的に劣っていて、1トップでプレーしているのだから当然だ。結果的にこの試合の2得点はいずれも両サイドCBが起点となり、彼らの正確な縦パスから得点シーンを演出した。特に冨安に関しては、前試合からチームのプレー原則をしっかり理解しているように見受けられた。右ウイングバックが中に絞った際は幅を作るために大外へ張り、(その際、セントラルMFが冨安のポジションに入りカバーする)率先して攻守両方で効果的な、“いるべき”ポジショニングを取れていた。

 また、森保監督の采配で興味深かったのが、伊東純也や原口元気といった普段はMFから前のポジションでプレーする選手をウイングバックに起用してきたところだ。相手のレベルやプレーのインテンシティが高くなかったので公式戦でどこまで通用するかは未知数ながら、右サイドの伊東に関してはスピードに乗ったドリブル突破や前線からのカウンタープレスでも見せ場を作り、そこから複数の得点機会を作った。左サイドの原口は、特に前半は左CBの畠中がサイドに開いて幅を作るなど、左ウイングバックでプレーする原口の特徴を押さえた動きを見せていたことで連係がうまく取れていた。ただ、私が監督だったらウイングバックで使うなら右サイドに限定したい。基本的には[1-4-2-3-1]の左ウイングの位置に入り、外で幅を作ってくれる長友のような左SBと組んだ時に一番活きる選手。あるいは、トップ下か緊急時のセントラルMFだろうか。なぜなら、彼が左でプレーする際のストロングポイントはオン・ザ・ボールとオフ・ザ・ボールの両方で外から内、中へ侵入していくことだからだ。

エルサルバドル戦の日本:崩しの局面の変化

 トリニダード・トバゴ戦と比較した時、大きく変わったのが裏への抜け出しだ。この試合では、前線の永井謙佑が裏へ飛び出す場面が圧倒的に増加。相手DFラインが引っ張られ、相手ライン間そして相手の守備的MFの脇のポケットを突きやすくなった。事実、4対3の数的優位を中央で作ることができ、シャドーがハーフスペースのところでボールを受けやすいのが[1-3-4-2-1]の最大の利点の1つである。その際に相手CBがシャドーまでポジションを移動したら、センターフォワードとシャドーがその空いたスペースを搾取。相手のサイドの選手が中に絞ったら、外のウイングバックを使えばいい。

 ちなみに、この一連のオーガナイズを成り立たせるために、先述の両サイドCBがステップアップしてサポートし、新たなパスコースを作ることが大切になる。

 前線へと話を戻すと、この試合のシャドーは自らが下がってボールを受けるのではなく、比較的ポケットの中でボールを受けられていたと思う。動き過ぎず、我慢して自分の持ち場を離れ過ぎないこともポジショナルプレーでは欠かせない。

エルサルバドル戦の日本:まとめ

 60分過ぎから基本システムを[1-4-2-3-1]に変更したが、選手たちはスムーズに対応した。特に前述した原口の特徴がより生かされ、彼自身ものびのびとプレーしているように見えた。原口が中に絞ることで、左SBの山中亮輔にオーバーラップのスペースを提供。実際、左サイドのファイナルサードのエリアを制圧することに成功していた。小林からのダイアゴナルのボールをダイレクトで中に入れた62分のシーンはその典型だった。

 2試合を通して19人の選手を新しいシステムで試すことができ、とても価値ある国際親善試合だったのではないかと推測する。このシステムがプランAになるかプランBになるかと言われれば、現時点ではプランBだと私は考える。だが、非常に役に立つプランBだと謙虚に思う。日本代表が擁する選手のプロフィールや森保監督のフィロソフィや今まで使ってきたスタイルやシステムを鑑みて、私はこのシステムは日本代表にとってかなり有効なオプションになると思ったし、プランAを凌駕する日も遠くないだろう。

4年ぶりに招集された永井謙佑がA代表初ゴールを含む2ゴールをマークした

私が相手チームの監督だったら日本の[1-3-4-2-1]のどこを突くか

 現実のサッカーでは、いつだって自分が持っている選手のレベルや特徴によって自チームの戦い方やアプローチのディテールは変わっていく。あくまで机上論であることを前置きしたうえで述べると、[1-4-3-3]システムを用い、前線3人を同数で日本代表のDFにぶつけてみたい。GKからの3バックでのビルドアップはまだ完璧ではないはずだからだ。さらに、日本代表が同数で高い強度のカウンタープレスをぶつけられたらどう対応するのかも見てみたい。自チームのアタッキングサードでの守備タスクの例を簡単に述べると、日本代表のビルドアップ時、私のチームのウイングは必ず相手ウイングバックをカバーシャドーしながら、相手(つまり日本)のサイドCBにプレスをかける。これは鉄則で、守れないと私のチームは崩壊してしまう。ゆえに下図のように、前から人に対して執拗につく。リバプールなどをイメージしてもらえればピッタリだろう。

エルサルバドル戦の[1-3-4-2-1]に[1-4-3-3]を当てた場合の配置図

 この状況で、仮に頭上を越すロングボールをウイングバックに出されてたとしてもSBが対応できる。守備の第1ラインを突破されたら、運動量とディフェンス能力に長ける片方のウイングをMFラインに降ろして[4-4-2]のブロックを形成。カウンターの準備としてサイドに張り過ぎると冨安と畠中の思う壺なので、前線に残る2枚のアタッカーは常にCB間へ位置するように指示を出す。

 すべてのアプローチを書くと長くなり過ぎてしまうので、最後にもう1つ、自チームのビルドアップ時の考え方を述べたい。鍵となるのは、いかにして組織守備をしている日本のシャドーによる“気まぐれプレス”を誘い込むか。この2試合を見て、前線からのプレスの強度や特定のエリアと時間で早くボール奪取をするというチャレンジや狙いが見られた一方で、それらがオーガナイズされているとは感じず、よくシャドーがストライカーを追い越してプレッシャーに行く場面が見受けられたからだ。

 私たち指導者は、“What if”として事前に複数のシナリオを想定しなければならない。例えば、日本のウイングバックが我われのSBの位置までポジションを上げてきた場合はどう対応し、そうでない場合はどう対応するのかといった具合に。ただいずれにせよ、自チームのプレー原則とボール保持時のポジショナルな制約とチャレンジに則ってプレーするという大前提があってのものであることは忘れてはならない。


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Photos: Getty Images

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エルサルバドル代表戦術日本代表

Profile

平野 将弘

1996年5月12日生まれ。UEFA Bライセンスを保持し、現在はJFL所属FC大阪のヘッドコーチを務める。15歳からイングランドでサッカー留学、18歳の時にFAライセンスとJFA C級取得。2019年にUniversity of South Walesのサッカーコーチング学部を主席で卒業している。元カーディフシティ

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