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仏サッカーの重要人物30に選出。フランス初!女性実況者の流儀

2019.06.11

低い声は出るようになるから!

 『レキップ』紙が毎年年始に発表する「フランスサッカーの重要人物30」。今年はロシアW杯で優勝したレ・ブルーから、同点首位に選ばれたキリアン・ムバッペとアントワーヌ・グリーズマンを筆頭に、ディディエ・デシャン監督、主将のラファエル・バラン、ポール・ポグバ、エンゴロ・カンテ、ウーゴ・ロリスとトップ10の7席を代表メンバーが占めた。そんな中、30位にランクインしたのがコンディス・ロラン女史だ。『レキップ』のジャーナリストで、フランス初の女性コメンテーター(実況者)だ。

 女性コメンテーターといえば、昨年のW杯で英国『BBCスポーツ』が初めてビッキー・スパークスを起用したが、元チェルシーのジョン・テリーが「音声を消して中継を見た」とSNSに投稿するなど話題になった。フランスでも「女性は声が高いから実況に向いてない」と表立って発言する同業者もいる。だが、ロランさんにとってコメンテーターになることは、子供の頃からの夢だった。「いつもラジオにかじりついてサッカー中継を聴いていて、漠然と『自分は将来この世界で働く』と確信していた」そうだ。

コンディス・ロランさんのTwitter アカウント。6月7日に開幕した母国開催の女子W杯でも活躍中だ

男の世界。「道のりは長い」けれど

 南仏ニースでジャーナリズムを学んだ後パリに上京し、ラジオ局『RTLレキップ』で見習いからスタート。ネット放送などで経験を積み、ロシアリーグの中継を担当したのがコメンテーター初仕事。その後も上司の部屋のドアを叩いては「あの~もし、空きがあったら、私に実況やらせてください」と頼み続けていたという。その思いが通じて2008年、リーグ2(2部)の試合を担当させてもらえることに。それから10年、今ではCLの試合も任されている。

 “女性コメンテーター=甲高いキンキン声が耳障り”という印象がつきまといがちだが、ロランさんの声はまったく違和感がない(と思う)。それは彼女の努力の賜物で、マイクに乗った時に聴きやすく、常に低い声を出せるよう、日頃から呼吸法などのトレーニングを欠かさないそうだ。コメンテーターの時に使う声は地声とはまったく違うのだという。視聴者からのコメントを見ると、まれに「女性が実況している時点でサッカーではない」といった古典的な意見もあるが、「少しも違和感はないし、話す内容がいつも的を射ている」「競技をよく知っている優秀なジャーナリスト」という好意的な意見が大多数だ。未知の世界への挑戦も、内容が伴っていれば評価されるということだろう。

 まだまだサッカーは男のスポーツ、という文化はあるし、違和感を覚える人がいるのも無理ないこと。ロランさんも「まだ女性がコメンテーターをしている現状を知らない人もいるし、道のりは長い」と認めていて、あえて論争の中心になるようなことは避けつつ淡々と自分の仕事に集中している。真冬の中継ではヘッドフォンが凍ることもあるそうだが、「ここに自分の居場所があるというだけで、全然そんなの平気!」と仕事を心底楽しんでいる様子。「挑戦したい女の子はぜひ頑張って! 低い声は訓練すれば出るようになるから!」と後輩たちにもエールを送っている。

Photo : Getty Images

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小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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