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ベンゲルが説く「認知」の重要性。一流と二流を分ける「スキャニング」とは?

2019.03.26

 昨季まで22年にわたってアーセナルの指揮を執ったアーセン・ベンゲル。パトリック・ビエラ、ティエリ・アンリ、アシュリー・コール、セスク・ファブレガス、ロビン・ファン・ペルシー、アーロン・ラムジーら数々の若き才能を開花させてきた「プロフェッサー」が、スポーツにおけるイノベーションを議論するカンファレンス『スポーツイノベーションサミット』に登壇したのは昨年10月末のこと。今月ようやく公開された登壇レポートでは、現代サッカーで注目を集めている「認知」について熱く語っていたことが明かされた。

「10秒間で6~8回スキャニング」が一流の証

 最初にベンゲルが説いたのは認知の重要性だ。

 「選手はボールを受ける時にいつも認知、次に決断、最後に実行を行うが、この中でも認知が大きな役割を担っている。認知の改善方法について解明するために、私はノルウェーの大学と研究をしていたんだ。大まかに言って、ボールを受ける前にできる限り多くの情報を集めることが重要だという結論に達したね。私はそれを『スキャニング』と呼んでいるよ」

 ベンゲルが言及した研究を行ったのは、ノルウェースポーツ科学大学で教授を務めるゲイル・ヨルデだ。ノルウェーのアマチュアリーグでプレー経験がある心理学者は、スキャニングを視覚探索行動として「続くボールを持った時のアクションを行うための関連情報を収集する意図があり、能動的かつ一時的に顔をボールから離れた方向へ向ける身体や頭の動き」と定義。

 ヨルデはこの定義をもとに『Sky Sports』の選手専用カメラを用いてプレミアリーグ64試合を対象に118選手のスキャニングを観測。1279通りのプレー状況を網羅したこの研究において1秒あたり0.62回の最多スキャニング回数を誇ったのは、当時プレミアリーグで双璧をなしたスティーブン・ジェラードとフランク・ランパードだった。

2000年代~2010年代前半のイングランドが誇る2大セントラルMFとして君臨したジェラードとランパード。彼らがいかに際立ったプレーヤーであったか、ヨルデの研究があらためて証明する格好となった

 さらにヨルデは1秒あたりのスキャニング回数を基に118選手を3つのグループに分類。すると、1秒あたりのスキャニング回数が多いグループほどパス成功率が高いことが判明した。

 このスキャニングとパフォーマンスの関係性が示唆するように、ベンゲルも認知に不可欠なスキャニングが選手に違いを生み出していることを強調。

 「私が注目するのは、選手がボールを受ける前の10秒間で経る過程、情報を得る頻度、得た情報のクオリティなんだ。ポジション次第ではあるがね。興味深いことに、優れた選手やとても優れた選手はボールを受ける前の10秒間で6〜8回スキャニングを行っているが、平凡な選手は3、4回しかスキャニングを行っていないんだ。そこには大きな改善の余地があることが判明している」

「実行」→「決断」→「認知」。真逆の学習形態

 では、どうすれば平凡な選手の認知を改善できるのだろうか。フランス、日本、イングランドで多種多様な選手を指導してきた名伯楽は、育成で刻まれた認知を変化させるのは至難の技だと認めている。

 「フットボールにおける問題点は、最初に実行、次に決断、最後に認知という順序でプレー方法を学ぶことなんだ。あらゆるタイプの指導者から指導を受け、世界中からやって来た選手と私は仕事をしてきた。チームが11人とも異なる国籍で構成されることもあったね。私たちが抱えている課題は、一度ある思考回路が選手の脳に焼き付いてしまうと、私たち指導者がトップレベルの選手と話していても、脳に焼き付いた思考回路を変えるのは極めて難しいということだよ」

 だからこそ、5歳から12歳の間にまず実行を学ぶサッカー少年たちの認知に害を及ぼしてはいけないとベンゲルは警鐘を鳴らす。

 「ボールを友達のように歓迎してあげること……私たちは、その認知をないがしろにしてはいけないことを肝に銘じておかなければならない。私が多くの一流選手たちを失ってしまったのは、彼らの頭にあるのはボールを持った時のことだけで、周りのことを見ていなかったからだ。偉大な選手はボールから切り離されていても、頭をレーダーのように働かせているんだよ」

今年のローレウス・スポーツ・アワードでスポーツ貢献賞に輝いたインドの少年女子サッカーチーム「Yuwa-India」のメンバーとサッカーに興じるベンゲル


Photos: Getty Images

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アーセン・ベンゲルトレーニング

Profile

足立 真俊

1996年、岐阜県出身。生まれもっての“人見知り”を克服するためにアメリカにあるウィスコンシン州立大学でコミュニケーション学を専攻。学業の傍らで趣味として始めた翻訳活動がきっかけとなり、サッカーに関する様々な情報発信を模索中。2019年5月、結局“人見知り”のままfootballista編集部の一員に。