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アルトゥールは、シャビの後継者である。イニエスタを模倣し、シャビに近づいた男

2019.02.06

イニエスタを模倣し、シャビのような選手に

 フットボリスタ編集部から依頼を受け、バルセロナに今シーズン加入したブラジル人MFアルトゥールのプレーを分析した。彼のプレーを見ていると、シャビかと見間違えるほどプレーも背格好もよく似ている。メッシやシャビ自身も、「似ている」と言及しているほどだ。

 アルトゥールはまた、「インディペンデントな選手」でもある。バルセロナの医師であるリカルド・プルナは、その定義についてこう説明している。

 「インディペンデントな選手とは、グラウンド上で起こっているすべてを視野に入れられる選手だ。スペースを大変うまくコントロールでき、創造性にあふれている。単独で創造できるから、グラウンドで起こっていることにインディペンデントで(独立して)いられるわけだ」

 インディペンデントな選手は、認知に優れている。認知とは「グラウンド上の情報を処理するメンタル的な能力」(リカルド・プルナ)である。シャビは「MFが最も優先すべきことは、中盤でボールを失わないことだ」と言っている。

 アトレティコ・マドリー戦におけるアルトゥールのパス成功率は90.5%。ここまでのリーガエスパニョーラにおけるパス成功率は94.5%であり、これはリーガ1位の成績だ。ヨーロッパトップレベルの守備力を誇るアトレティコ・マドリーに対して、90.5%は立派な数字である。

 アルトゥールの特徴はほとんどボールを失わず、パスミスもしない選手であること。それを可能にするのは、高い認知力。素早く状況を認知し、決断し、実行に移せることである。素早く空いているスペースを見つけ、動いてパスを受け、進行方向へパスをする。できない場合は有効なスペースを瞬時に予測し、見つけ、空いているスペースへプレーを方向づけることができる。

 ボールを相手から取り戻した時、チームメートがポジションにつくためにターンをしたり、空いているスペースへ「コンドゥクシオン(スペースへ運ぶドリブル)」をすることでチームメートがポジションにつく時間を作り出すことができる。

 バルサで言うところのPausa(休憩)を、試合の状況に必要とされる時に入れることができる。これは、時間とスペースをコントロールできる、ごくわずかな選手だけができるプレーだ。バルサは、やっとシャビの後継者たる人物を見つけた。それもまだ22歳と若く、これからさらにバルサのプレースタイルに適応し、進歩すると考える。

アルトゥールは、時間とスペースを操る。

 バルサのDNAを持つ選手とは、時間とスペースをコントールできる選手のことだ。メッシ、ブスケッツ、シャビ、イニエスタ……さらに、ネイマールもそうであったと考える。彼らのDNAを、アルトゥールも持っている。

 リーガエスパニョーラ第13節アトレティコ・マドリーとのアウェイ戦。バルサは[4-4-2]システムで、アルトゥールはブスケッツとダブルボランチを組んだ。アルトゥールのプレーエリアは、主にゾーン2(横方向に3分割したピッチの中央ゾーン)の左ハーフスペースと、センターレーンである。

 アルトゥールのゾーン1(横方向に3分割したピッチの自陣寄りのゾーン) におけるボール出しでの役割は「センターゾーン(ハーフスペース、センターレーン含む)を出るための最適なプレーを構築することを保証する」(4回)

※()内の回数は、この試合のバルサのプレーモデルにおいて、アルトゥールが実行した攻撃の役割のプレー頻度を示す。

 バルサのボール出し(ゴールキック含む)において、アルトゥールの配置は、基本的にゾーン1の左ハーフスペースで、相手2トップの背後でボールを受けること。ボランチのブスケッツがパスを受けることができない場合、ボールを受ける役割がある。彼は2列目(CBが1列目)でプレーをすることが多く、相手2トップの背後、左ハーフスペースが居場所である。

 そのため、ゾーン1のセンターレーンか左ハーフスペースにスペースを見つけてパスを受け、ボールをゾーン2にコンドゥクシオンで運ぶ。もしくは前方でフリーになっている選手に素早くパスをすることが彼の役割だ。

 この場合、相手のダブルボランチの1人がミックスディフェンスでブスケッツのマークについた。相手の2トップもミックスで、バルサの両CBを監視している。しかし相手の残り3人のMFはゾーンディフェンスでバルサの4人(セメド、ビダル、アルトゥール、ジョルディ・アルバ)を監視している。

 バルサは、GKから多彩なボール出しのパターンを持っている。相手のアトレティコ・マドリーのハイプレスの配置とディフェンス方法(ゾーン、マンツーマン、ミックス)によってパターンの中から最適な方法を瞬時に決定するのだ。

 アルトゥールはブスケッツのマークを自身に引きつけるか、自身がボール保持者のGKテア・シュテーゲンからボールを受けるために、ブスケッツをマークしている相手ボランチとFWの間の選手間にポジションを取る。そうすることで、ゾーン1のセンターゾーンで相手の前3人に対し、4対3の数的優位な状況を作った。

 ブスケッツをマークしていた相手ボランチがアルトゥールに気を取られた瞬間、ブスケッツはテア・シュテーゲンからパスを受ける。ブスケッツは相手ボランチを引きつけ、アルトゥールにパス。実は、この動きはアトレティコ・マドリーも予測していたか、罠であったように感じる。

 アルトゥールにボールが入った瞬間、相手はボランチとFWの2人で猛然とプレッシャーをかけて挟みにきた。だが、アルトゥールは予測していたかのように身体の向きとは反対の方向に素早くターン、左SBのジョルディ・アルバにパスをして「ボール出し」をきれいに実行した。

 アルトゥールはボールを受けに行く前、必ず周囲の状況を事前に見ている。この時も、体の向きとは反対となる左サイドレーンのスペースを見ていた。この周囲の状況を瞬時に把握し、最適なプレーを素早く選択する、スペースを見つける、相手のプレーを読み、予測する。相手のプレッシャーが激しくて、小さなスペースしかなくとも落ち着いて最適な決定を下すことができる秘訣だ。

 名選手の条件である、「相手が近くにいても冷静に、素早くプレーでき、最適な判断を下す」ことができる。メッシが言うように「彼は、ラ・マシア出身選手のスタイルだ。狭いスペースですごく良いプレーを見せる。ボールを失わない」。バルサ出身ではないものの、ラ・マシアのDNAをその身に宿し体現する選手なのだ。

 上図では、相手のライン間の狭いスペースでボールを受け、進行方向にパスコースがない。この状況からコンドゥクシオンを使って相手を動かしスペースを作り、逆サイドへのパスコースを作り出す。コンドゥクシオンをしている時は、顔が上がり周囲を確認。このレベルなら当たり前かもしれないが、間接視野でボールを扱うことができるので、素早く的確な判断ができるのだろう。

前進(ゾーン2)の役割

 「センターゾーンの相手ディフェンスのライン間でサポートする」 (14回)

 ブスケッツがDFラインに入った時、相手2トップの背後のライン間にポジションを取ることがアルトゥールの役割になっている。アルトゥールはボールを受ける前に、左後ろを見て、マークがきているか、パスコース、スペースはあるかを瞬時に確認、ブスケッツから縦パスが入る前にも右後ろを見て、背後に相手はいないか、パスコースはあるか首を振って確認している。このようにして、プレッシャーが自分にきている場合は、相手を引きつけて、空いているサイドのスペースにボールを展開してプレーを前進させる。

 このゾーン2のセンターゾーンにおいて、狭いスペースでボールを受けて、相手を引きつけるだけ引きつけて、サイドにオープンスペースを作り出し、プレーを前進させるパスを出すのが、アルトゥールのゾーン2の役割であり、彼の特徴でもある。これがゲームを構築する能力だと言えるだろう。

 「体をプレーの進行方向に向ける」(29回) 「前後のライン(FWとDF)「に対して斜めにサポートをする」(24回)

 体を進行方向に向けることと、前後のライン(例:FWラインとDFライン)に対して斜めにサポートすることは、バルサのプレースタイルの根幹である。前後のラインに対して斜めにサポートすると、チーム全員が斜めの関係になり、半身になることで前後のラインの選手を視野におさめることが自然とできる。

 超一流の選手は必ず前を向いてプレーをすることができるが、アルトゥールも半身から前を向くボールが足下から離れないコントロールが非常にうまいので、狭いスペースでプレーができる。

 ブスケッツからボールを受ける前、アルトゥールは少なくとも3回、右前方を、首を振って見ている。体の進行方向の視野はそのままでも見えるので、周囲の状況を確認しておくことで、相手とチームメートの配置を頭に入れることができる。どのように相手がプレッシャーをかけにきて、どこにスペースができるのかを予測できることだろう。相手のプレーを読み、次のプレーを予測するための視野の確保がアルトゥールのプレーのベースになっている。

 「前進することができない場合、有用なスペースへプレーを方向づける」 (39回)

 アルトゥールの特徴として、広い視野がある。彼には相手の配置がすべて理解できているので、どこにスペースができるか、今どのような状況かを瞬時に判断し、プレーの方向を変える。下図のように、相手が全員右サイドからセンターレーン付近によっていて、前方へのパスコースがない場合、アルトゥールは素早くプレーの方向を変える。

 「相手ディフェンスのプレッシャーが激しい状況では緊急のサポートをする」 (17回)

 プレーの方向を変える能力が高いアルトゥールはチームメートが相手に囲まれてプレッシャーをかけられ、パスコースがないような時に、小さなスペースを瞬時に見つけ出し、パスを受けてオープンスペースへプレーの方向を変える。このように緊急のサポートをする、チームメートを助けるためにパスコースを見つけ出すことも彼の特徴の一つである。このような選手がチームにいると、非常に頼もしく、信頼されることだろう。ブスケツもメッシも相手に激しくプレッシャーをかけられて苦しい時は必ずアルトゥールが近くに寄って助けている。

 「パスをした後に連続性(次のプレーへ)を示す」(12回)

 アルトゥールはパスをした後立ち止まり、自分のパスに見とれているような選手ではない。彼はパスをした足で次のプレーへと瞬時に移動して、チームメートを助け、チームのために働く卓越した選手だ。彼のような選手を見つけて来たバルサのスカウティングは本当に凄い。

アルトゥールの攻撃面での課題

 「グラウンド内側のプレースペースのバランスを取る」 (8回)

 例えば、メッシが中盤に落ちてアルトゥールのスペースに入って来た時、ポジションバランスを取るために、少し自信がなさそうに、こっちで良いのかなというような雰囲気で他のスペースへ移動しているように見える時がある。これはバルサのプレースタイルへの適応とチームメートとの相互作用の問題であると思う。シャビが言うように「あと20~30試合もすれば、我われは自信に満ちたアルトゥールを見ることができるだろう」

 「チームメートが有利になる進行方向へのパスを出す」(13回)

 これは課題ではない。アルトゥールは、素晴らしいスルーパスや縦パスを前線に通す能力がある。バルサにおいてのプレーモデルの中の役割もあると思うが、彼にはファイナルゾーンで決定的なパスを出す能力がある。この試合では、40mはあるロングスルーパスをスアレスに通している。「チームメートが有利になる進行方向へのパスを出す」は、攻撃面で最も重要なパスをする能力であるので、さらに磨きをかけていってほしい。

 アルトゥールがバルサへとさらに適応したら、ゾーン3(ファイナルゾーン)で、もっとアグレッシブなプレーがこれから見られることだろう。

 そういった意味で、このアトレティコ・マドリー戦でのアルトゥールのシュートは1本だけであった。[4-4-2]のシステムでダブルボランチだったことも関係しているのかも知れない。22歳と若く、プロ選手としてのキャリアもまだ少ないので、これからの飛躍が楽しみな選手であり、バルサのリーダーになっていく可能性がある選手だと思う。一昔前まではシャビやグアルディオラみたいな選手ばかり輩出すると言われたバルサのカンテラだが、現在は、他からの移籍に頼っているのは少し悲しいことでもある。イニエスタを模倣したブラジル人が新しいシャビになったのだ。

 アルトゥールのプレーはシンプルだ。パスを受けて相手を引きつけてパスをする。ただ、クライフが言うようにシンプルにプレーをすることがフットボールでは最も難しいことだ。アルトゥールは冷静に落ち着き払って、相手のプレッシャーなど関係ないかのようにフットボールをシンプルにプレーしていく。

アルトゥールは認知力に優れた選手

 アルトゥールは、よく首を振って周囲の状況を観察し、把握して、記憶している。しかし、すべての状況が見えているわけではない。なぜなら、ほんの数秒の時間の経過とともに選手の配置や距離、ボールの位置は変わるからだ。そこで聴覚が必要になる。

 リカルド・プルナ医師はインディペンデントな選手の特徴をこのように述べている:

 「視覚的、聴覚的に非常に優れた者たちだ。背中を向けた状態で視覚的な刺激を受けなくても、聴覚的な刺激によってどこに選手がいるかがわかる」

 つまり、見えていない方向でもチームメイトの存在や相手ディフェンスの存在を聴覚的に感知しており、相手が背後から激しいプレッシャーをかけてきても、ターンなどを使って方向転換し、フリーのチームメイトにパスをすることができる。そのような認知力の高い選手はプレーにスピードがある。視覚的、聴覚的に優れているので、チームメイトの配置をすべて感知し理解しているからだろう。このような認知力の高い特徴を持つ選手がアルトゥールだ。イニエスタ、シャビ、メッシ、ブスケッツ、ネイマールたち、さらに昔であればグアルディオラやクライフもそうであった。

 その系譜にアルトゥールは入ることになる。まさしくバルサのDNAを持った素晴らしい選手だ。

逆転でセビージャを下したコパ・デルレイ準々決勝第2レグでコウチーニョのゴールを喜ぶアルトゥール。レアル・マドリーとのクラシコになった準決勝でのプレーにも注目が集まる

Photos: Getty Images
Edition: Daisuke Sawayama

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Kei Sakamoto

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