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RBのDNAを取り戻せ!ラングニックの「エクストリーム・プレッシング」

2018.12.19

欧州サッカー2大戦術潮流:ストーミングの旗手たち

昨季はプレッシングにポゼッションの要素を取り入れた“ハイブリッド”化にトライするも失敗したRBライプツィヒ。ラングニックは目を覚ました。ドイツ・プレッシング戦術の大家として、想いを新たに「コントロールされたカオス」を生む究極のプレッシング構築に着手している。

 今季、ラルフ・ラングニックは1年間限定でRBライプツィヒの監督に復帰すると、すぐに選手たちへ向けてスローガンを発表した。

 「RBのDNAを取り戻せ!」

 ここ2シーズン、ライプツィヒはオーストリア出身のラルフ・ハーゼンヒュットルに率いられ、1季目は2位になってCL出場権獲得、2季目は6位に甘んじたもののELではベスト8まで進出。ブンデス1部未経験だったクラブとしては上出来の成績である。

 しかし、ラングニックは満足していなかった。昨季、対戦相手が自陣に引きこもるようになるとチームは攻めあぐね、ハーゼンヒュットルはポゼッションサッカーの要素を取り入れようと考えた。しかしその折衷案の結果、最大の武器であったプレッシングの強度が弱まってしまった。

 結局、ハーゼンヒュットルとの契約はあと1年残っていたものの、ラングニックがそれ以上の契約延長を拒んだことに対し不満を示したハーゼンヒュットルは退任。2019年夏にナーゲルスマンの監督就任が決まったことを受け、SDであるラングニックが1年間限定でタクトを振ることになった。

 いわば「繋ぎ監督」だが、やるとなった以上、一切の妥協を許さない人物である。RBらしい爆発力のあるサッカーへの回帰を選手たちに求めた。

 FWのベルナーはこう語る。

 「ラングニック監督は、極端なフィロソフィを持っている。相手に向かう時はフルスプリントで走る。まるで飢えた猟犬のように。そしてボールを奪ったら、ハイテンポに相手ゴールへ向かって行くんだ」

 「ハイプレス」と聞くと激しいプレスを想起するかもしれないが、もはやその程度の言葉で表現し切れる強度ではない。

 「エクストリーム・プレッシング」

 ラングニック自身はそう呼んでいる。自分たちの陣形が整っている時の通常のプレスも、ボールを失った瞬間のプレス(ゲーゲンプレッシング)も、ともに「エクストリーム」(極限)の強度を追求している。


3つのキーワード

 では、どうしたらそういうサッカーを実現できるのか?ラングニックは基本として3つのキーワードを挙げている。

 1つ目は「スピード」(Speed)だ。

 「ロシアW杯を見れば、ポゼッションという概念を忘れるべきであることは明らかだ。ドイツ代表やスペイン代表のようにポゼッションだけに頼ったチームは早期に敗退した。速いテンポ、切り替えがなければ、モロッコや韓国にさえ勝つことができない。イデオロギーとしてのポゼッションは勝利をもたらさない。“ポゼッション・フェチズム”に陥ってはいけない」

 すでにラングニックは、EURO2016でドイツ代表のポゼッション・フェチに警鐘を鳴らしていた。

 「EURO2016準決勝のドイツ対フランス(0-2)において、ゲームを支配したのはドイツだった。ところが結果は逆だ。真に注目すべき数字は、ドイツの平均ボールキープ時間が22秒だったことだ。22秒も持って何が起きるというのか? 相手の陣形が整ってしまう。ライプツィヒでは自分たちが支配した試合ですら、ボールキープ時間は最大で12秒だ。だいたい5秒から10秒でシュートに至っている。時間が経つと、崩すのに大きな労力が必要になる」

EURO2016準決勝でフランスにポゼッション率(65%対35%)、パス本数(637対299)で上回りながら敗退したドイツ。この時からラングニックはポゼッション・フェチを懸念していた

 切り替えが早ければ、守備面の疲労も抑えられるというのがラングニックの考えだ。

 「私たちのスタイルはとてもインテンシブ(集約的)で、スプリントを伴う。ただ、それがシンクロすれば無駄な走りはなくなる。無駄な走りというのはつまり、自陣方向へ長い距離を走るスプリントのことだ。グアルディオラのサッカーと真逆のように見えるかもしれないが、多くの部分で私たちのスタイルには共通点がある」

 こうした原点回帰はすでに数字に表れており、1試合あたりのスプリント数は昨季211回だったのが、今季は249回に増えている(第4節時点)。

 そしてゴール前に近づくことができたら、2つ目の鍵となるのが「ギアチェンジ」(Tiefgang)である。

 「ゴール前で大事になるのはギアチェンジだ。もしシュートを打ちたかったら、5速、6 速、7速とギアを上げることが不可欠だ」

 このフィニッシュの際、3つ目の「機転」(Spielwitz)も欠かせない。相手の読みの裏をかくようなアイディアが大事ということだ。

 「スピード、ギアチェンジ、機転は、現代サッカーに欠かせない要素だ」

 今季からライプツィヒの練習場では、箱型のカウントダウン時計がベンチに置かれるようになった。ボールを奪ってから5秒以内にシュートを打つことを意識するために、ボール奪取後に「5秒、4秒、3秒……」と1秒ごとに音声でカウントダウンがなされる。

 まさにその狙いが、ドルトムントとのブンデスリーガ開幕節、キックオフからわずか30秒で先制点をもたらした。激しいプレスで左SBシュメルツァーを追い込み苦し紛れのパスを出させると、CBコナテが前に出てカット。こぼれを拾ったMFデンメがすぐに前線へロングボールを送り込み、FWポウルセンがヒールで中央へパスを出す。DFに当たって1度はクリアされたが、混戦からMFカンプルがヘディングで前へボールを送ると、再びポウルセンがヒールで流し、最後はオギュスタンが冷静に決めた。ボール奪取から15秒。ドルトムントの選手たちが息をつく暇がない、ノンストップの波状的カウンターだった。

 ラングニックの師匠のヘルムート・グロースは、こうやって自分たちで意図的に作った混乱のことを、「コントロールされたカオス」と呼んでいる。

 いくら相手に引かれても、そこにパスを送り込み、こぼれ球にプレスをかけ続けることでカオス状態を生み、決定機を作る——それがラングニック流の引いた相手の攻略法だ。


罰金よりも嫌だ…ユニークな“罰則”

 こういうサッカーは1人でもさぼる者がいたら成立しない。そこでラングニックはピッチ外の引き締めにもあらためて着手した。

 ライプツィヒのトレーニングセンターには選手用レストランがある。ハーゼンヒュットル時代、席順は自由だったが、ラングニックは固定制を導入。新人、ベテラン、異なる言語の選手をミックスし、選手の交流が生まれるようにした。

 選手の評判も良く、例えばMFザビツァーは「すごく小さなことだけど、チームビルディングの上ですごく大事だと思う」と歓迎。肝心の食事については、陸上のドイツ代表の栄養アドバイザーを務めているフォン・レンテルンを招へいした。

 また、語学面の取り組みも見直し、ロッカールームで使用していい言語をドイツ語と英語に限定。合宿ではオギュスタン、ブルマ、サラッキ、クーニャらに2日に1回のペースでドイツ語の授業を受けさせた。

 ラングニックはこう解説する。

 「もし授業に遅刻や欠席をしたら、練習と同じ罰を課すことにした。ウィンターブレイクまでに、練習で通訳がいらなくなることを目指している。来季就任するナーゲルスマンも通訳を介することを好んでいない」

 その罰の与え方にもこだわっている。選手たちの年俸は100万ユーロ~450万ユーロ。罰金では罰にならない。

 「選手たちが痛いと感じるのは、罰金よりも時間を奪われることだ。スタッフでそういう議論をしていたら、アメリカから来た新コーチのジェシー・マーズチ(前NYレッドブルズ監督)が『ルーレットで罰を決めるやり方がある』と提案してくれ、それを採用することにした」

 ライプツィヒのトレーニングセンターには、手作りのルーレットがあり、遅刻などルール違反を犯した選手は、そのルーレットを回して罰を決める。「1週間ボール運び」「下部組織で2回コーチ」「スタジムツアーのガイド」「ファンショップで販売員」「バスに荷物搬入」「クラブで働く60人にプレゼント」「バレリーナのスカートをつけて練習」といった項目が用意されている。いちおう、その中には「罰ゲームなし」もある。

 もちろんラングニック自身も対象だ。

 「レストランでうっかり携帯をテーブルの上に乗せてしまい、すぐにみんなに指摘されて私もルーレットを回すはめになったよ(苦笑)」

 とにかく、あらゆることで新しい取り組みをするのが「RBのDNA」だ。

志向するスタイルのクオリティを高めるためにはピッチ内のこだわりだけでは不十分。ピッチ外にも徹底的に気を配るラングニック


優れた修正力で着実に進歩

 ただし、ELの予選2回戦が7月26日に始まって準備期間が限られていたことも影響して、ブンデスでは開幕からつまずいてしまう。EL予選プレーオフのゾリャ戦では90分にフォシュベリがPKを決めて本戦出場を決めた一方、ブンデスでは第4節までわずか1勝(2分1敗)。守備が不安定で計8失点も喫してしまった。

 また、ELのGS第1節では兄弟クラブのザルツブルクに2-3で惜敗。さらにそのザルツブルク戦では、スタジアム到着時にオギュスタンとムキエレがベンチで携帯に興じ、着替えるのが遅れるという規律違反まで起こってしまった。2人は先発したが精彩を欠き、ハーフタイムに交代を命じられた。

 しかし、修正が早いのもラングニックの長所の1つである。今季、ラングニックはローテーションの導入を宣言し、実際、試合ごとに大きくメンバーを入れ替えていたが、ザルツブルク戦後に「ローテーションは考え直す」と宣言。第5節のシュツットガルト戦はベストメンバーで臨んだ。

 すると選手たちは、まさに「RBのDNA」を体現する。ボールを失っても素早く相手を囲い込んでボールを奪い、前線の人数が少なくても強気に攻め上がる。そこでボールを失っても奪い返せばいい、というスタンスだ。

 この試合で1つ大きく修正されたのは、プレスのかけ方。相手のCBに対してはコースを限定するのみに留め、サイドにパスが出た瞬間に一気にプレスの強度を高めるように変更したのだ。これにより、2トップと2人のサイドMFが常に近い距離でいられるようになった。規律違反を犯したムキエレが右SBで躍動し、FWオギュスタンは途中出場から駄目押し点を決めた。

 「シュツットガルト戦は、今季のベストゲームになった」

 2-0で勝利した試合後、ラングニックは記者会見で誇らしげに語った。


指揮官が「今季のベストゲーム」と胸を張ったシュツットガルト戦。スタートダッシュこそ失敗したが、第5~14節までの10試合で7勝2分1敗と巻き返しに成功した

 消耗が激しいサッカーゆえに、ローテーションをやめたことによって疲れが蓄積していく可能性もある。だが、すでに冬の移籍市場でNYレッドブルズのMFタイラー・アダムスが加入することを発表済み。獲得内定と報じられていたザルツブルクのMFアマドゥ・ハイダラは負傷により長期離脱となってしまったが、即戦力による選手層強化を進めている。

 エクストリーム・プレッシングによってカオスをコントロールするサッカーの先に待っているのは希望か絶望か。1年間限定の実験に注目だ。

Photos: Getty Images , Bongarts/Getty Images

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RBライプツィヒラルフ・ラングニック

Profile

木崎 伸也

1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。