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なぜ、23歳のGMを選んだのか? 「学びの型」と「一歩踏み出す勇気」

2018.12.04

新生・奈良クラブが目指す「サッカー」と「学び」の融合 Chapter 2】中川政七(奈良クラブ社長)インタビュー 後編


新生・奈良クラブが掲げたビジョンは『サッカーを変える、人を変える、奈良を変える』。そのために必要なのが学都・奈良らしく学びの型を作ることだという。そこで最先端のサッカー理論を体系化して構築できる現場のプロジェクト責任者=GMとして指名したのは、フットボリスタでもお馴染みの新進気鋭の新世代コーチ、弱冠23歳の林舞輝だった。


前編はこちら

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求めたのは専門家以外にも通じる「翻訳者」

―― その林舞輝さん、23歳のGMは前例がないと思います。なぜ彼を選んだのかあらためて理由を教えてください。

 「まず僕は10何年商売をやってくる中で、前例とか慣例とかにとらわれずにやってきました。なぜそれが慣例になっているか一回考えて、そこに理由がないと、それに従わないことがたびたびあって。それが怒られたりもしますけど、結果がついてくれば誰も文句は言わなくなります。そこは思考停止するのではなくてちゃんと立ち止まって考えるべきなんです。もう1つは直感ですね。直接会わなくても、文章とか、もっと言うと写真でもなんとなく感じられるものがあるじゃないですか。それは僕の好みなので絶対的な評価とはまったく関係ないのですが、林くんは文章を2回読んで『あ、この子だ』と思ったんです」


―― Google翻訳のアルゴリズムがルールベース翻訳からニューラルネットワークに変わった話とサッカーの育成を結び付けたり、すごい発想だなと私も感心させられました。

 「結局、専門的なことを専門家同士で通じるっていうのは、まだ一個足りなくて。問われているのは、専門的な話を素人でもわかるように持ってくるコミュニケーションの力なんですね。例えば、日本酒の酒蔵の人たち同士がしゃべっていても全然面白くないんですけど、中田英寿さんがそこに入って、ちゃんと彼らの話を通訳してくれると面白くなるんですよ。ああいう役割ですね。ああいう翻訳者みたいな人はどの世界でも必要で、工芸の世界でも職人が言っているよくわからない話を僕がちゃんと翻訳して、商品のデザインとして伝えていく。そういうコミュニケーションを僕はずっとやってきたので。そこでやるべきことはわかっています。で、それが業界だけじゃなくて一般の人にまで届くと、一般の人のリテラシーが上がるというか、解像度が上がるんです。そうするとその商品を好きになってくれるんですよ。いつも言うんですけど、野球でピッチャーがボールを投げているのを何の予備知識もなく見ているだけだと、何がすごいのかって絶対わかんないですよね。なんかピッて投げてるだけですもん。知識がないと、そこらへんのおっさんが上がってもピッて投げてるのは一緒なんです。そこにスピードがあって、球種があって、回転数があって、コースがあって、みたいなことがわかって『ダルビッシュすげー』ってなるわけじゃないですか。そこは解像度がないと、見ているだけでは絶対にわからない。誰かが解説してあげないと」


―― 野球に比べるとサッカーはそこが劣っていますよね。

 「それは、解説が悪いんですよ。解説が面白いと、みんな面白さがわかりますよ。うちの社員は女の子ばっかりで、みんなサッカーに興味ないんです。でも、なんかある場面を一緒に見ていて解説してあげると、『そんなことになってるんですか、サッカーは』みたいな時があった。それで一気に興味を持ってくれたりするんですよ。『スペースをいかに作るかなんだ』というような話をするだけで、興味がなくてもわかるんですよ、言葉として現象が理解できるようになる。だからそういうことが当たり前に広がっていくと、サッカーは面白くなるし、興味を持つ人が増えるし、好きになってくれるわけですよ。だから本当の意味で奈良クラブというサッカーチームを好きになってもらうには、単純に強いとか、イケメン選手がいるとか、そういうわけじゃなくて、サッカーというものの解像度を上げていく努力、お客さんのリテラシーを上げることがすごく大切だと考えています」


―― 日本のスポーツ界は年功序列社会じゃないですか。実際23歳でGMの仕事に就いた時に周りが言うことを聞いてくれるかとか、もっと言えば選手がどう見るかみたいなところって本当に読めないところだと思いますが。

 「それは理解しています。そもそも23歳なので、社会人経験がないので(笑)。その辺はちゃんと正しく守ってあげなきゃいけないし、導いてあげないといけない。だから監督人事は最大限配慮したし、あと選手にもクラブの社長として、話はしようと思っています。大体、サッカーチームは負けが込むと不穏な空気になって、監督が解任されたりしますよね」


―― そういう時に、こういう23歳のGMは格好のスケープゴートですね。

 「だからそこははっきり最初に選手に言っとこうと思って。どんなに負けが込んでも監督、GMは代えないよと。勝てない時にも耐えないといけないし、そこからちゃんと戻すのが上に立つ者の仕事だと考えています。解任というガス抜き、問題のすり替えみたいなことは、中・長期で見た時に何も良くない」


―― どうしてもスポーツの論理で考えると、勝てなくなってくるとファン・マスコミ・選手含めた周りの圧力が強烈なので監督を代えてしまいがちですけど、ビジネス面で見たら百害あって一利なしですよね。実はみんなわかっているんだけど、それは海外でも一緒で。本当に難しいんですよね。

 「常に僕が考えているのは、業界の当たり前は、それこそブランディングとかの視点で言うと、そこに乗らないことなんですよ。みんなが言うことが正しいってことはほぼない。だからみんなと違うってことはむしろ安心材料だと思ってるんで。そういう批判は10何年工芸の仕事をやってきて、もう慣れっこだし、そこの強さはあるので。何を言われてもどうってことはないし、長期的なスパンで見たら、絶対に結果を残せる自信があるので」


―― 林さんの役割は育成も見たりとか?

 「全部です。GMにしたのは、要はサッカーに関するものは、すべて考えろってことですよ。すべて責任範囲。もっと言うと、奈良クラブという会社全体にも責任を負えということで、取締役になってもらいます。モノづくりの会社で言うと、商品本部長が取締役になるべきなんですよ。そこは一体なので、当たり前の話です」


学都・奈良らしいサッカーとは何か?

―― 林さんがこれから奈良クラブのゲームモデルを作っていくと思うんですが、それを経営とどうリンクさせていくのかも聞きたいテーマです。

 「林くんが1番最初に言っていたのは、ゲームモデルを作る前にクラブのビジョンが必要だって話をしていて、当然そこは一致しています。1番上にあるのが『サッカーを変える、人を変える、奈良を変える』というビジョン。さらにそこに漂う空気、らしさ、みたいなものもまた別途あって。例えばアカデミックであるとか、革新的であるとか、そういったことがクラブのらしさになっていくわけで。ちゃんとビジョンに合致したらしいサッカーをやってくれるんだと思ってます」


―― そこはクラブのブランディングの部分と奈良らしいサッカーのブランディングを最終的に一致させていくというか、擦り合わせていくみたいな作業が発生するんですかね?

 「そうですね。もちろん奈良という地域性も含んだ上での奈良クラブだと思うんですけど、これから作り上げていくクラブらしさと言うのもあると思うんですよ。それは例えば林舞輝を23歳でGMに抜擢するということとか、まさに奈良クラブの思想なわけで」


―― 例えば前例がないこととか。

 「そう、ユニフォームのデザインもそうだし、そういうクラブであるべきなので。そうするとおのずと、ガチガチに守ってみたいなサッカーにはならないんでしょうし。ただ、すべては繋がっているんですけど、同時に変化もしていくと思うんです。林くんがよく言っているのは、ゲームモデルが1回決まったら、延々それをやり続けるわけではなくて、細部は変わっていくし、最初にでき上がるゲームモデルは極端に言えば30点かもしれない。でも、そこから着実に、要はPDCAが回っていくというか、着実に良くしていく。僕もいきなり70点を取れとは思わなくて、何点でもいいけど、そこから成長していくように作っていってほしいと考えています」


―― 林さんが専門とする戦術的ピリオダイゼーション理論は、ゲームモデルに地域性だったり、クラブカラーも反映させるものという考えがあります。奈良という都市はどんな特色があると考えますか?

 「学び、教育ですね。奈良県っていろいろとワーストがあるんですけど、ポジティブな方面で言うと、東大京大合格者が人数あたりに対して全国1位だったり、日経新聞購読率全国1位とか、グランドピアノ保有率全国1位とか、教育ということに関して非常にレベルが高い県なんです。歴史を振り返ると、元祖マルチタスクの聖徳太子に行き着くというのもあります。そういう、お寺とかもそうですけど、学びの場がある土地柄なんです。教育という意味で奈良というのは歴史的にも背景があって、今の時代の奈良にとっても親和性がある。学びの都市として『学都』という言い方をしていますけど、学都・奈良としての在りようを考えたいなと。それはサッカーだけじゃなくて、広がりを持っていきたいです。

 だから僕の取り組みとしても、スポンサーとの関係性もすごく議論をしていて。スポンサーがなぜお金を出してくれるか、みんなどう思いますか?ってうちのスタッフとミーティングをしたんですよ。『共感してくれるからです』とかみんないろいろ言うんですけど、確かに1つは共感だよね、でも共感だけで何百万も出してくれる?そうではないよね、という話をしていて。あとは何か?広告効果もあるけど現状はね、施しなんですよ。『共感』と『施し』が今のスポンサーからいただいているお金の正体なんですよと。僕は常々スポーツはそこから抜け出さないといけないと思っていて、共感とある程度対等なものに置き換わらないと存在意味がないというか、施しをずっと受け続けているのは健全な関係ではないと思っていて。

 では対等になるために何をお返しできますか?その何百万のお金に対して何をお返しするのか? そこで奈良クラブで作った学び型をお返ししていくやり方を考えていて、今やろうとしているのは、各界の優秀な方々を招いて経営者向けにしゃべってもらう場を作ったり、あとはみなさん新卒教育に課題意識があるらしく、まとめて4月に何十人とかの新入社員を集めて僕が仕事の基本を教える場を作るとか。形は問わないんですけど、奈良クラブが返せるものでちゃんと返して対等の関係にならなければならない。サッカー選手にいろいろ教えるのもその走りみたいなもので、結局学びの型は全部一緒。それが身につけば最強なんです。時代とか環境によって求められることは違うじゃないですか、サッカーで言うと右サイドバックやっていたら右サイドバックとしての成長が求められるけど、引退した途端に営業としてのスキルが求められますよね。そういうふうにその場その場で目の前にある一個一個のスキルを追い求めても仕方なくて、新しいことを学ぶ力をちゃんと教えていきたいです」


―― 選手獲得に関しても地元にこだわるみたいなのはあるんですか?

 「林くんは同じような実力だったら奈良出身者の方がいいと言っていて、それはもちろん100%同意なんですが、僕が教育とか座学とか言い出すと、サッカー選手の8割くらいは拒否反応を起こすだろうと予測しています(笑)。だからそこに親和性のある選手を集めることがまず第一だなと。僕たちはこういうクラブです、というメッセージがサッカー選手に届いて、それ俺ちょっと興味あるわ、J3からも声かかっているけど、それだったら奈良クラブに行こうかなって思ってもらえるようにならなきゃいけない。これはすべてのコミュニケーションに言える原則なんですけど、自分たちがごちゃごちゃ考えて伝えたいことなんて、結局誰も聞いてないんですよ。10言いたくても、10全部言ったら誰も聞いてくれないし、そもそも1しか言えないし。で、最初の1を聞いてもらえて、次に2、3に繋がるわけで。そういうコミュニケーションに対する真摯な向き合い方は絶対大切で、本当の意味でメッセージが届いた瞬間にいろんなことが変わっていく。だから林くんを中心に、奈良クラブとしてこういうサッカーをやっていくんだ、奈良クラブとしてこういうビジョンがあるんだということが届いた瞬間に、それに反応する選手が来てくれるはずなんです。今だとこっちからスカウティングに行くわけですが、最終的には選手から来てもらうのがいいと思います」


ヒーローポイントで選手を査定する

―― 奈良クラブの体制はどういう形をイメージされていますか?

 「現場とマネジメントの両輪が一体になっていかなければならないのは基本なんですが、今の時代それを達成するにはITとデザイン/クリエイティブ、そこはもう避けて通れない手段なので、2つの軸があるマトリクス図をイメージしています。サッカーとマネジメントの縦軸とITとデザインの横軸ですね」


―― それは本業の経験から導き出された形ですか?

 「そうです。トップダウン形式の樹形図みたいな、ああいう旧時代的な組織図はそれはそれでありなんですけど、1つのチームの機能としてはこれがベストかなと思います」


―― ヒーローポイントをやるというのを聞いたんですけど、それがITに繋がってくるわけですよね。

 「そうですね。結局ビジョンを掲げたところで、現実にそれがワークしないことには、ハリボテのビジョンになってしまうので。スタッフにも選手にも行動規範として『Be a hero』というのを掲げようと考えていて、それは勇気の部分ですね。ヒーローらしく振る舞うことが奈良クラブの選手・スタッフとして求められて、それが多くの人に勇気として伝わっていくことになっていくと思うので。ただ、『Be a hero』なんて言ったところで、正直選手にとってはどうでもいい話じゃないですか。それをどうやってワークさせていくのか。そこで考えついたのがヒーローポイントです。やっぱり選手も自分がどうやってお金をもらえているのかをわからないといけないんです。だって全然お客さん入ってないのに、お給料をもらっているわけですよ。それは多くのスポンサーに支えられているからだし、スポンサーは共感と施しという話をさっきにしましたが、じゃあ何に共感してもらっているのか。だからクラブとして果たさなきゃいけない責務があるよねと。それが『Be a hero』なんだと。それは選手であっても、サッカーがうまいのは大切なことだけど、それだけじゃ務まりません。ヒーローらしく振る舞うってことをちゃんとやらないと、あなたの査定としては厳しいですよと。だからピッチ外の振る舞いも含めてポイント化します」


―― 困っているおばあちゃんを助けたりとか?

 「そうそう(笑)」


―― もちろん、ピッチ上でのパフォーマンスによってヒーローポイントも上がっていくんですよね?

 「もちろんです。誰がヒーローポイントをくれるかというとお客さんです。お客さんはお金を出してヒーローポイントを貰えるんじゃなくて、見に来てくれたらいいだけです。奈良クラブに積極的に関わってくれた行為に対してヒーローポイントをお渡しして、そのお客さん/ファンが自分が持っているヒーローポイントを誰かに投げ銭する形です。そういう循環を作りたいなと。決してヒーローポイントはお金では買えない」


―― スポーツ界の新たな課金システムとして投げ銭が注目されていますが、直接お金でやりとりをするわけじゃなくて、ヒーローポイントが仲介する形にするんですか?

 「お金は介在しないですね。なぜかというと、ビジョンに対して共感してくれたり、興味を持ってくれているお客さんにヒーローポイントをお渡しして、ちゃんとその期待に応えていかなきゃいけない選手・スタッフが評価の対象になる。応援であり信頼の証なので、そこに換金性が出た瞬間にもう違うものになる。具体的にはアプリで双方向コミュニケーションの場を作って、そこの中でヒーローポイントのやりとりを行うという形にしたいと考えています」


―― そのコミュニティは誰でも入れるんですか?

 「ソシオに入会してもらえると入れます。その話の流れで議論として出てきたのは、基本的にJリーグはホームタウン思想ですよね。でも奈良クラブを応援する人は必ずしも奈良の人に限定しなくていいのかなと。林くんが良い言葉を言ったんですけど、『2番目に好きなクラブを目指しましょう』と。だから例えば浦和に住んでいたらレッズが一番好きなのが当たり前ですけど、奈良クラブもまあまあ気になるという2番目に好きになってもらえるクラブになりたいですし、そういう層もコミュニティに入ってもらって、そこに応えられるコンテンツも提供していきたいです」

―― なるほど。コンセプトとしてまず『変わる』があって、変わるを分解すると『学び』と『勇気』になって、勇気を具体的に査定するポイントがヒーローポイントなわけですね。ちゃんとすべて整理されていますね。

 「会社としてのグランドデザインですよね。会社におけるゲームモデルですよ」


―― あとホームタウンの話が出ましたが、スタジアムについてはどう考えていますか?

  「さっきの施しが嫌なのとイコールで、スタジアムは自前で建ててもペイしないから行政に建ててもらおうというのがすごく嫌で、サッカーチームとして自立していく以上、メインのスタジアムも自分たちで建てて自分たちで回収するっていうのはやらなきゃいけないことなんじゃないかと。そこは初期投資して勝負したいなと思っています」


―― 投資を回収するプランとしてはもちろん入場料収入はあると思うんですけど、自前のスタジアムなら行政の制約がないので、稼働率を上げるためにヨーロッパで流行っているショッピングモール併設型もあり得ますか?

 「いわゆるスタジアムとくっついているモールみたいなものだけではたぶん足りないと思っていて、そこにはもう少し大きな絵が必要なんだと思います。まだまだスタジアムについて勉強不足なので詳しいことは言えませんが、自前でスタジアムを持って黒字化していくのは難しいということは理解しています。でも、その難しさを超えるっていうのがやっぱりチャレンジなんで。今度フットボリスタで欧州のスタジアムの収益構造の特集をしてください(笑)」


―― 前向きに検討させていただきます(笑)。あと1つ忘れていました。もう1つポイントに挙げていただいたデザインに関してはどうでしょうか?

 「デザイン的なところで言うと、Nというロゴを作っていてそれを基本に据えます。なぜロゴが必要かと言うと、サッカーチームってエンブレムじゃないですか。エンブレムっていろんな要素が入っていて、それはもちろん伝統だから必要なんですけど、そのままだとコミュニケーションしづらいんですよ。で、構造的に丸や盾形の中に絵がある形なので似てきてしまう。だからそうじゃないコミュニケーションのための、奈良クラブのシンボルが必要だと思ったのでNを起点にしたロゴを作りました」


―― ユベントスもJを起点にしたロゴのリニューアルをやりましたが、同じようにフラットデザインのNですね。これはグッズだったりの転用のしやすさを意識してですか?

 「ユベントスはまさにそういうことだと思うんですけど、これは平城京の形からきてるんです。平城京ってちょっと変わっていて、外京というのがあるんです。これは藤原家の力が強かったというのがあるんですけど、それで普通とは違うバランスになったんです。で、奈良でNだったらこれだろと。これはかっこいいデザインを作りましょうというよりは、いかに自分たちがやっていることをコミュニケーションとして届きやすくするかという工夫の1つです。もちろんグッズ開発も考えていて、そこは山田遊さんといって僕らの世界でいろんなディレクションをやられている方に入っていただいてやろうと思っています」


―― 最後の質問です。結局、奈良クラブが最終的に何を目指すのか。J1昇格なのか、それとも新しい価値観の提示でしょうか?

 「奈良クラブがやろうとしていることを一個一個普通の言葉に直していくと、スポーツ事業・教育事業・地域振興事業という全然面白くない3つのワードに置き換わるんですけど、これが一緒くたになっていることが面白いと思っていて。この一緒くたにやっていくことを言語化したいと考えて、N.PARK PROJECTと呼ぼうと。要は公園でもいいですし広場でもいいんですが、場を作りたいんですよ。そこには当然スポーツもあれば、教育もあれば、奈良もある。そういう幸せなパーク、僕らが思う良いパークを作りたいです。だからJ1昇格がゴールではないんです。ただゴールにたどり着くまでの手段としてはJ1に行かなければと思っています。ずっとJFLにいたらN.PARKはでき上がらない。そこは多くの人に興味を持ってもらえて、関わってもらうような状況を作るにはサッカーの成績が絶対大切なので。一応『10年以内にJ1であっと言わせる』というのが、僕らの時間軸での約束にしています」


―― 10年以内にJ1で何かを起こす?

 「それが優勝かもしれないし、最終節で逆転される準優勝かもしれないけど、J1であっと言わせる。何か高い選手を買ってきて勝っても誰も驚かない。ある意味で順当だと思うので、そうじゃないことで驚かせたいですね(笑)」

Photos: Yoshie Torikai
Edition: Baku Horimoto

Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。