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再始動の前に。ドイツ代表のロシアW杯惨敗、現地の総括は?

2018.09.04

ドイツサッカー誌的フィールド


皇帝ベッケンバウアーが躍動した70年代から今日に至るまで、長く欧州サッカー界の先頭集団に身を置き続けてきたドイツ。ここでは、今ドイツ国内で注目されているトピックスを気鋭の現地ジャーナリストが新聞・雑誌などからピックアップし、独自に背景や争点を論説する。

今回は、誰もが予想だにしなかったロシアW杯でのドイツ代表のGS敗退について、現地ドイツのメディアはどのように分析していたのか。紆余曲折の末、ヨアヒム・レーブ監督の下で再建へ向けた一歩を踏み出そうとしている今、あらためて振り返っておこう。


 ドイツのサッカー界には、必要に応じて入れたり切ったりすることができるという意味の「スイッチ」という言葉がある。W杯を4度制した「大会向きのチーム」であるドイツ代表の選手たちの頭の中にあり、押すと魔法のような力が出ると信じられていたのだ。

 GS第2節スウェーデン戦のアディショナルタイムにトニ・クロースが決勝弾を決めた時、チームはついに目を覚ましたと誰もが思った。

ラストプレーで勝ち点3を手繰り寄せたクロースのFK

 だがその4日後、『フランクフルター・ルントシャウ』紙は淡々と綴った。

 「選手たち、監督、スタッフ。みな『深刻な状況に陥ればスイッチが入る』と思っていた。だが、それを見つけることさえできなかった」

 ロシアW杯の惨事は、心理的なものが大きい。単に選手の質が低かったEURO2000と2004とは違い、今回は本来なら輝くべきチームとドイツサッカー連盟(DFB)が自己崩壊を招いた。「このW杯は、ただただ誤算であった」というのが『南ドイツ新聞』の結論である。


驕れる者久しからず

 「ある種の驕り」―― 試合直後にレーブ監督が発したこのひと言が、すべてを表している。ドイツ代表を追っていた人なら誰しも、その意味するところの一切をすぐに理解した。ピッチに立つ一部の選手たちの、信じがたい傲慢さ……例えば、クロースは小柄なメキシコ人たちが自分をマンマークしようとすること自体、生意気だと憤慨しているように映った。サミ・ケディラやイェロメ・ボアテンク、トーマス・ミュラーにマッツ・フンメルスでさえ、“どんな相手もドイツをリスペクトするはずだ”と言わんばかりの、王者のオーラを漂わせていた。

 とはいえ、この謙虚さのなさはレーブの言う“驕り”の一部でしかない。監督自身もDFBも、やはり傲慢だったのだから。

 DFBの首脳陣は、イルカイ・ギュンドアンとメスト・エジルの騒動はW杯が開幕してしまえば自然と鎮静化すると考えていたらしい。選手たちに立場を明確にさせるか、あるいは間違いを認めさせるのではなく「不必要に話を大きくしている」とメディアを批判したチームマネジャーのビアホフの態度がそれを示している。

 しかし、『シュピーゲル電子版』が「DFBの危機管理は、この事件後、完全に間違った方向に向かった」と指摘するように、これは完全な見込み違いであった。このテーマは代表の敗退決定後も、サッカーの枠を越えてドイツ中を揺らし続けた。

 国内の雰囲気は最悪である。ビアホフたちが作り出したディ・マンシャフト(ドイツ代表の愛称)という“マーケティングプロダクト”は、W杯応援用のハッシュタグ“#zsmmn”と同じくらい人工的で信用しがたいものだった。ゆえに『FAZ』紙は、「過去の嘘っぽい星の輝きに代わって、地に足のついた自己イメージ」の形成をドイツ代表に求めている。


プレーの刷新は簡単ではない

 不可欠な情熱とハングリーさをチームに注入してくれるはずだった若手たちには、驕りと快適さに汚染された環境の中でほとんど活躍の余地が与えられなかった。1年前レーブは、そのような選手たちで臨んだコンフェデレーションズカップで優勝した。だが、当時のメンバーの中でチームに定着したのはヨシュア・キミッヒ、ヨナス・ヘクター、ティモ・ベルナーだけ。プレミアリーグの若手最優秀選手に選ばれたレロイ・サネはメンバー外となった。この輝かしい選手を帯同させなかったのは、今になって思えば傲慢さの根深さを象徴するものであろう。

 そしてこの傲慢さは、ドイツのクラブサッカーの毒にもなっている。もう数年来、ブンデスリーガのクラブは欧州の舞台で苦戦している。だが、ドイツ決戦となった12-13のCL決勝とその後2014年のW杯制覇で目が眩み、王者の立場のままで発展し続けることを忘れてしまったのである。

 このロシアでの惨事により、「王者には何でも許される」といった超越的な考え方がDFBから消え失せたのではないかと『FAZ』は見ている。

 ただ、元王者は新しい自分を作り出さなければならないが、引退してもおかしくない年齢の選手はほとんどおらず、それも難しい。「状況は複雑で、容易な解決法は机の上にあるわけではない」と『南ドイツ新聞』。というのも、チームの顔ぶれはあまり変わらない中で、プレーの中身の根本的な刷新を必要としているからである。


Photos: Bongarts/Getty Images
Translation: Takako Maruga

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FIFAワールドカップドイツ代表

Profile

ダニエル テーベライト

1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。

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