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「クソ黒人」発言に沈黙…世界最高峰リーグ=人種差別に無神経

2018.04.16

無自覚、寛容なままのスペイン


Jリーグでたび重なる人種差別発言が問題となっているが、スペインでも2月4日のバルセロナダービーで、セルヒオ・ガルシア(エスパニョール)によるユムティティ(バルセロナ)への人種差別発言があった。だが、LFPもRFEFも動かないまま忘れ去られようとしている。この沈黙こそがこの国の問題なのだ。


 ユムティティとセルヒオ・ガルシアのぶつかり合いはグラウンド外まで続いた。マッチアップするCBとFWとしてグラウンド上でやり合っていたが、試合後ロッカールームへの通路でも小競り合いがあり、そのどこかでS.ガルシアの口から「クソ黒人」というフレーズが出たとされる(客観的な証拠はないが、本人が認めているので間違いない)。

 この「クソ○○」というのは一種の決まり文句で、罵り合いや殴り合いの現場では必ずと言っていいほど使われる。○○に人種や肌の色が入れば「人種差別」、国や地域、宗教などが入れば「排外主義」となる。とはいえ、同じ人種でも“クソ白人”というのは聞いたことがない。スペイン人の多くは白人なので自分の顔に唾は吐けないということなのか、白い肌に劣等感があるのかのどちらかだろう。経験から言うと、肌の色や国籍を馬鹿にされると反射的に殴りかかりたくなるほどの強い衝動に駆られる。だから、ハードなプレーヤーだが決して乱暴ではないユムティティが激高して詰め寄ったと聞いて、人種差別発言があったとすぐにわかった。


人種差別主義者と人種差別を区別する

 問題発言の翌日、S.ガルシアは謝罪の言葉を発表した。「昨日のうちにサミュエル(ユムティティ)と話をしたことを明らかにしておきたい。人種差別の意思はなかった。みんなが知っている通り私の妻はヒターノだし、私が深い友情を築いている義理の兄弟はアフロアメリカンだ。試合の緊張感の中で言ってしまうことはグラウンド内に置いておくべきだ」

 ヒターノとは日本ではロマとかジプシーとか呼ばれる民族のこと。アフロアフリカンというのは固有名詞を出すと、エスパニョールやグラナダでプレーしたジョン・コルドバ(現ケルン)を指す。黒人のJ.コルドバと友だちだしヒターノと結婚しているのだから、人種差別主義者ではない、と言いたいのだろう。

 彼の言い分を聞いて、故ルイス・アラゴネス元スペイン代表監督の事件を思い出した。

 2004年10月6日、代表合宿中のアラゴネスがホセ・アントニオ・レージェスに活を入れる目的で、当時アーセナルでレージェスの同僚だったティエリ・アンリをやはり「クソ黒人」と呼んだ。この時は人種差別問題にセンシティブ(敏感)なイングランドメディアに取り上げられて、イングランド対スペインの親善試合の会場がマドリッドからセビージャへ変更される事態になった。スペイン語では差別的な意味はないネグロ(Negro)が英語圏では蔑称であるニガー(Nigger)を連想させることも騒ぎを大きくした。

 この時のアラゴネスの釈明が「私の大切な友人は2人とも黒人だ。1人は一緒にプレーしたジョネス、もう1人はエトーだと言えば、もう十分だろう」だった。

 S.ガルシアは試合中の興奮のままに、アラゴネスは冗談のつもりで口を滑らしたという違いはあるが、黒人に知り合いがいるから差別主義者ではない、という理屈はそっくり。おそらく、J.コルドバやエトーに聞けば、S.ガルシアやアラゴネスに張られた「差別主義者」というレッテルを否定するに違いない。


悪意がなくとも「過失」で罰するべきだった

 私の考えを述べよう。

 私も彼ら2人が人種差別を主義として掲げ、親戚や同僚であっても拒絶し嫌悪する強い意思の持ち主だとは思わないが、「クソ黒人」は疑いなく人種差別発言だ。そうして、バルセロナもしくはプロリーグ協会はS.ガルシアを懲罰委員会に訴え、サッカー連盟は罰金と出場停止の処分を科すべきだったのだ。だが、現実には誰も訴えることなく、この事件は忘れ去られようとしている。

 訴えを起こさなかったのは、“悪気はなかったから”とか“事を荒立てたくなかった”というものだったろう。しかし、重大な犯罪には刑法でも過失罪が適用されるのだ。たとえ、S.ガルシアに悪意がなかったとしても被害者に大きな心の傷を残しかねないこと、さらに社会に大きな影響力を持つサッカー界が模範を示すという意味でも、過失として罰すべきだった。敵と味方がはっきりと色分けされるサッカーの文脈では、味方の黒人は許すが敵の黒人は罵倒するという無自覚な人種差別者がたくさんいる。このグレー層の意識を変えるのに今回の事件はチャンスだったのだが……。

 UEFAがモンキーチャントなど人種差別行為に厳罰で臨み、ここ数年でディナモ・キエフ、ロコモティフ・モスクワ、パリSGのスタジアムを次々と閉鎖したのに対し、リーガの1部と2部ではいまだ閉鎖に至ったクラブはない。“人種差別に無神経で寛容なリーグ”という悪評はついたままだ。


Photos: Getty Images

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。