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ドイツの育成現場の悩みとは?育成年代トップ指導者が徹底討論

2017.10.16

勉強との両立、親との対話からCF問題まで

座談
マイケル・シェーンバイツ(U-18ドイツ代表監督)
ユルゲン・ゲルスドルフ(レバークーゼン サッカー部門部長)
ノルベルト・エルガート(シャルケU-19監督)

昨年フランスで行われたEURO2016で、ドイツ代表監督ヨアヒム・レーブはドリブラーの不在を嘆いた。また、昨年10月にU-17ドイツ代表がイングランド代表に1-8で敗れるというショッキングな出来事もあった。

屈指の育成大国ともてはやされているドイツだが、現場ではどのような問題意識が持たれているのか。この年代を代表する指導者3人を招き、じっくり語り合ってもらった。

──あなた方のようなエキスパートは、今回(2016年10月)のU-17ドイツ対イングランド戦での1-8という惨敗をどう見ているのですか?

シェーンバイツ「この大敗について、いくつか補足しましょう。まず、イングランドの2000年生まれの世代は、非常に素晴らしい才能に恵まれた豊作と言える年代です。そしてU-17ドイツ代表監督のビュックは、この試合でチーム内でも2番手の選手たちにチャンスを与えました。実際、この試合の1カ月前に行われたトーナメントではイタリアとオランダにいずれも2-1で勝利するなど無敗で優勝しています。この成功によって自己満足に陥ってはいけませんが、とはいえたった1度の大敗ですべてをひっくり返すようなことはしません。私たちが何より取り組まなければならないのは、2つの大会をしっかり分析してそのギャップを埋めるキーポイントを洗い出すことです。とはいえ、イングランドがフランスと同じ育成のトップレベルにまで追いついてきたことは確かです。とりわけ、アスレティック(身体能力)の部分が目立っています」

ゲルスドルフ「加えて、国際大会では各年代に応じて体の成長が大きく違って比較できません。ですから、1試合1試合の結果には必要以上にこだわる必要はないと思っています」

エルガート「UEFAユースリーグでの経験から言っても、イングランドのレベルは確かに上がっていると思います。私たちもかつては、昔からのドイツの道徳を忘れてしまい戦術的にも停滞してしまっていました。最近になってようやく、再びW杯で優勝して世界のトップレベルに戻ってきました。SDだったハンジ・フリックの功績が大きいです」

──ビュック監督は「イングランドはフットサルのようにプレーしていた」と言っていました。フットサルは1対1や認知からプレーの実行までの速さを成長させます。ドイツでは、この部分にあまり手を入れてこなかったのですか?

エルガート「シャルケでは、頻繁に3対3や4対4、5対5をスモールフィールドでやらせています。こうしたトレーニングにはフットサルと同じ効果があります」

シェーンバイツ「確かに、フットサルはいくつか新しい視点を導入してくれました。ですが、言ってしまえばハレン・フースバル(ドイツで盛んな室内サッカー)、つまり4対4を狭いスペースでプレーするのと同じことですから、それ自体は特に目新しいものではありません。それに、私たちはフットサルに対してもオープンです。ドイツ代表としての初めての試合で、イングランドに5-3で勝利しましたしね(注1)」
(注1)DFBは2016年にフットサルの代表チームを創設した

U-17イングランド代表にまさかの大敗を喫した同ドイツ代表。なお、この試合に出場していたイングランドのFWブリュースターやMFアンヘル・ゴメスらが、現在開催中のU-17杯で17日に日本と対戦するイングランド代表でも主力を務めている

──イングランドでは、各クラブの育成アカデミーで学校の卒業資格も取らせているようですが、ドイツでもそうですか?

エルガート
「DFBによって『エリート・シューレ』の一つに認定された『ゲザムトシューレ・ベルガーフェルト』との提携は、状況を明らかに改善してくれました。ただ、最高の環境は学校とクラブが併存することです。そういう意味では、国外にはより優れた環境が整っている国もあるでしょうね」

ゲルスドルフ
「G8(現状では13年間となっている大学入学資格取得までの就学期間を12年間に短縮する政策)によって、選手たちの学業面での負担が増えてしまいました。学校と提携することでだいぶ改善はされましたが、まだまだやることは山積みですよ」

サッカーと勉強漬けの弊害

“私たちは、選手が自立できる可能性を奪っている”――シェーンバイツ
“ドイツはUEFAユースリーグの開催に反対だった”――ゲルスドルフ
“今の選手には、監督などとは別のメンター(助言者)が必要”――エルガート

──バイエルンの選手5人が、UEFAユースリーグの遠征と重なったためにサンクトペテルブルクで定期試験を受けるということがありました。限界に達したと言えますか?

シェーンバイツ「選抜された選手にとっては、それが日常ですね。ドイツでは、選手が学校をしっかり卒業できるよう、各クラブが手厚くサポートしています。毎年400人ほどの選手がU-19ブンデスリーガに参加しているわけですが、彼ら全員がプロになれるわけではありませんからね。ただ、若い選手たちがすべて計画された通りに行動することで、失われてしまうものもあります。私たちは、彼らが自立できる可能性も奪っているのです」

──選手たちが自分で責任を持つように働きかけるのは誰の仕事ですか?

エルガート「私たち全員です。選手にとっては、代理人が及ぼす影響も大きいです。とはいえ、私が代理人を一概に悪く見ているという意味ではありません」

シェーンバイツ「本来、若い選手たちは日常の中からも多彩な経験を培わなければなりませんが、現実には彼らの生活は学校とサッカーがすべてです」

──昨年10月のU-19代表チームの合宿中に、選手2人がアルバニアのホテルで水タバコを吸おうとしてボヤ騒ぎを起こしたのも『若者らしくさせてくれ!』という感情の表れの一例だと思いますか?

シェーンバイツ「タイミングもやってしまったことも良いこととは言えません。ただこの件は別にして、それぞれの性格形成にとって重要な日常的経験を積み重ねる機会が、彼らにはありません」

エルガート「16~19歳の若者が馬鹿みたいなことをやらかすのは、ある意味普通のことです。私たちは、彼らにとって信頼できる存在でなければいけません。そういったことについて、私たちに話してくれるように。私のチームでは、寮生が隣近所に卵を投げ入れました。もちろんあってはいけないことですが、危険な行為というほどではありません。彼らは謝罪に行きました。ただ、もし彼らが実家でそんなことをしたとしても、監督の耳には入ってこないでしょう。寮ではすべてが見えます。これはプロ選手が私生活をカメラやビデオで撮られるのと同じようなものです」

ゲルスドルフ「それにしても、UEFAはこのユースリーグにどんな価値を置いているのでしょう? ウルフ・ショット(DFB育成部長)と私は当時、『ドイツはこの大会の開催に反対だ』と言ったのですが、これを聞いたレアル・マドリーやバルセロナの担当者たちは『こいつらは何を考えているんだ?』という顔をしていましたよ。おそらく、他の国々では学業とスポーツはまったくテーマにならないか、素晴らしく環境が整えてられているのかのどちらかなのでしょう」

シェーンバイツ「大会自体にはもちろん、メリットもあると思いますが、何よりもハードです。U-17欧州選手権の時、ドイツ代表のホテルではいくつもの定期テストが行われていましたよ」

2015年のU-17欧州選手権でレセプションパーティーに出席する選手たち。こうした行事や試合の合間を縫っていくつもの学業試験をこなしているという

ゲルスドルフ「今のユース選手たちには、常に20数人がついて回りそれぞれの分野でベストを要求します。監督、教師、アスレティックトレーナー、メンタルコーチといった人々です。私たちの時代は監督一人と両親だけでした。まあ、大人の目を盗んで遊びに出かけるには良い時代でしたね(笑)。重要なのは、彼ら自身が自分にとってちょうど良いバランスを見つけることです。実際の試合中も、選手たちはピッチ上で自ら状況を打破しなければならない機会が頻繁に起こります」

エルガート「もし選手たちが自分のチームに加えドイツ代表、州選抜、さらにトップチームにも参加するようになると、目が回ってカオスに陥ってしまいます。ですから、それぞれに監督などとは別のメンター(助言者)が必要です。プロの監督になると結果も出さなくてはならず、気にかけている余裕はありません」

──結果を出さなければならないのは育成年代の監督も同じではないですか?

エルガート「もし育成年代で勝利だけが重要だとすれば、私たちは選手個々の性格も創造性も潰してしまうでしょう。この年代の成功とは、彼らの発展のプロセスにこそあるのです」

──バレンシアでは、U-16カテゴリーまでは結果にこだわらず育成を行っているそうです。これは現実的なコンセプトだと言えますか?

ゲルスドルフ「やってやれないことはないでしょう。ただ個人的には、クラブと監督が勝利や敗北をどう受け止め選手たちと接するかが大事だと思っています」

エルガート「私たちは『ドイツはスーパスターを探している』(ドイツのオーディション番組)の世界で生きています。1位だけが勝ち残るのです。しかし、スポーツが満たしてくれるものは楽しみやプレーする喜びが多くの割合を占めるはずです。結果にかかわらず、その選手がベストを尽くせば、彼は勝者なのです」

シェーンバイツ「世代を超えて言えば、私はマイケル・ジョーダンやボリス・ベッカーのような、何年にもわたり大変なトレーニングを重ねたスポーツ選手をお手本としていました。それが今では、お手本となる存在はYouTubeのスターやオーディション番組の勝者です。これは選手たちの目標設定や、その目標にいかに達するか、そのプロセスの捉え方にも影響を与えます」

エルガート「今YouTubeの話が出たのでつけ加えると、YouTubeにはボールを使ってマジシャンのようなトリックプレーをやってのける動画がたくさんあります。私の教え子たちもそれを格好良いと思って真似をしていますが、あんなサーカスみたいなものは実際の試合では役に立ちません。ボールを高く吊るしてヘディングの練習をしたり、壁に向かってキックの練習をした方がまだマシというものです」

──育成アカデミー、プロチーム、そして各年代の代表チームの間で選手のオーガナイズを行う時、本来の監督としての仕事に支障が出るほど書類のやり取りなど事務的な作業に時間を取られることが多くなってはいませんか?

エルガート「全体的に見ると、書類に記入したり署名したりする作業はクレイジーなほどに増えましたね。他の人と一緒に仕事をする時間をかなり削られています。多くのクラブが、審査機関から多くの星をもらえるように動いています( 注2)。質を保証するという観点で見ればこうした仕組みは悪くはありませんが、すべてのアカデミーが均一化してしまっているのも事実です。創造的な監督だけが、創造的な選手を育てることができるにもかかわらず、です」

シェーンバイツ「これらの書類は主に、選手の負荷を調整するために役立っています。まあ、データベースで処理できれば一番良いのですが……」
(注2)各クラブのアカデミーが評価され、星の数に応じて助成金が出る

──ボルシャイトやヨナス・ヘクターのように、ブンデス所属クラブの育成アカデミー所属経験がない選手がプロになる可能性は今後もあるのでしょうか?

シェーンバイツ「彼らは例外的な存在であり続けるでしょう。今のシステムでは、かなり年少のカテゴリーの最も小さな地区選抜からシュトゥッツプンクト(日本のトレセンに近いもの)が始まりますからね」

ゲルスドルフ「そうですね。ヘクターのような選手はいつだって出てくる可能性があります。しかし、今のスカウティングシステムはかなり緻密に作られていると思います」

タレントの発掘網の整備が進み、アンダー世代代表を経験することなくA代表に上り詰めたヘクターのような例はレアケースとなっている

──とういうことは、彼らのように才能ある選手が育成システムから外れてしまうことはないと言えるのでしょうか?

ゲルスドルフ「いや、そうとも限りません。予想を超える大きな成長を遂げる選手もいますし、自分の故郷にできるだけ長く留まり続ける方が合っている選手も中にはいますからね。選手の伸びしろを測るのは難しいものです」

エルガート「選手が持っている才能自体は、入り口まで運んでくれるだけです。そこから先は目的意識や性格など、精神的な部分が物を言います。私たちが選手を移籍させる時は、その方が良い方向に向かうと思うからです。他のクラブの方が成功を収める可能性が高いと判断した上で移籍させます」

ゲルスドルフ「また、選手を移籍させるのも“いかに”移籍させるのかで意味が変わってきます。クリストフ・クラマー(現ボルシアMG)は良い例です。彼がレバークーゼンのアカデミーでは可能性がないと判断した当時の責任者たちは、信じられないほど繊細に彼と接しました。そうでなければ、彼がレバークーゼンに戻って来ようとは思わなかったでしょう」

──選手の両親と話すのは、あなた方にとって最も難しい仕事ですか?

ゲルスドルフ「どんどん難しくなってきていますね。私がレバークーゼンの育成部長になった2005年当時、U-19とU-17に所属する全選手と月給80~100ユーロ(約1万~1万3000円)の契約を結んでいました。2015年に退きましたが、その頃には契約のたびに3度、両親との面談を設けていましたが、話がわかる人でもいろいろと口を出してきましたよ」

──育成年代の選手の代理人たちには、教育者としての職業訓練が必要だと考えますか?

エルガート「代理人は、選手たちがサッカーで成功するためにベストな決定を下さなければなりません。もしその選手が現在のチームでコンスタントに出場して快適に過ごせているのなら、移籍を考える必要はありません。金銭だけが重要なわけではないのです。私は同業者から、とんでもない額の移籍金が動いていることを耳にしましたよ。そうした点からも、自国のトップタレントを育てることが最も安く上がるのです。とはいえ、この業界は資金がなければ何も始まらないのも明らかですが」

ゲルスドルフ「資金力は必要不可欠なものです。イングランドでは週1000ユーロ(約13万円)単位の契約を結んでいるのです。今の私たちが当時のように月に100ユーロの契約を提示していたら、誰が見たって『こんなのは契約ですらない』と言うでしょう」

──では、国内の才能豊かな選手たちをドイツに留まらせるためには、どんな魅力が必要でしょうか?

シェーンバイツ「ブンデスリーガクラブの育成アカデミーは非常に良く整備され、スポーツ選手としてのキャリア形成にも大きな可能性が与えられています。過去20年を振り返って、どれだけのドイツ人選手がイングランドのアカデミーを経てプロ選手として活躍したでしょうか? (デビュー前にイングランドに渡った)ツィーラー(現シュツットガルト)やカリウス(現リバプール)は、ドイツでプロとしてのキャリアの土台を築きました」

ゲルスドルフ「多くの選手がドイツ国内でのキャリア形成を望んでいます。その選手に適した社会環境を提供するという点で、家族がドイツ国内にいるというのは大きな意味を持っています。それは確かです」

エルガート「私たちは14-15のUEFAユースリーグでチェルシーに勝ったものの、選手層はまったく違いました。にもかかわらず、チェルシーにいては一人も自クラブでプロに昇格できないのです」

エルガートの言葉に出てきた14-15UEFAユースリーグの様子。写真中央、チェルシーの主将ベイカーは現在ミドルズブラにレンタル移籍中だ

「9番」問題と育成方針

“ドイツでは複数ポジションをこなせるように、サッカーのプレー全体を習得する。CFも例外ではない”――シェーンバイツ
“レバークーゼンでは、子供たちが小さな頃からコーディネーショントレーニングを行っている”――ゲルスドルフ
“選手が1対1でもっと積極的に仕掛けられるように促し、発展させなければならない”――エルガート

──ドイツでは「真の9番(クラシックな点取り屋)」が育っていません。何か解決策はありますか?

シェーンバイツ「ドイツの選手たちは複数のポジションをこなせるように、サッカーのプレー全体を習得すべく訓練されています。現代サッカーはとてもフレキシブルで、システムも流動的です。選手の特性や得意なポジションだけに集中してトレーニングすべきではないと思っています。もちろん、この考え方はCFにも適用されます」

エルガート「私たちも選手が複数ポジションでプレーできるよう訓練します。ただし、その選手の適正ポジションに応じた専門的なトレーニングも必要です。私たちは、ある12歳の選手を連れて来て「お前はCFになるんだ」ということはしません。このテーマを象徴するのが、私たちのライバルであるドルトムントのヤニ・セラです。彼はCFとしてもCBとしてもプレーします。ストライカーでありながら、試合の組み立てにも積極的に参加できるタイプの選手です」

──あらゆるプレーを鍛えるにはゲーム形式の練習がいいと言いますね。このやり方ではスペインが先をいっているのでしょうか?

エルガート「バルサのラ・マシアでは、3、4チームを強制的に1面のグラウンドに入れてトレーニングしています。狭いコートの中で、すべてボールを使ったメニューです。小さい時から2対1(サッカーの原子)、3対1、4対2、5対3、4対4プラス3人のフリーマンなどあらゆるポジションでのプレーを学びます。しかし、各プレーを切り離した個人技術のトレーニングも重要です。例えばヘディングの競り合いで浮き玉の処理の仕方を向上させる場合などです」

シェーンバイツ「代表クラスになるとトレーニングは似たようなものが行われ、レベルも拮抗してきます。DFBが示す基本方針が基になります。相手DFの背後のスペースを有効に使うことに主眼が置かれています。こうしたトレーニングは、相手DF によるプレッシャーがあって初めて成り立ちます」

ゲルスドルフ「とはいえ、ゲーム形式のトレーニングだけでは、例えば利き足ではない足でのプレーはなかなか上達しないでしょう。基本技術はできるだけ早い時期に習得させなければなりません。ドイツ代表のヘンリヒス(レバークーゼン)は育成年代ではDFとして一度もプレーしたことがありませんでしたが、DFのポジションに適応できるようなトレーニングをしてきたということです」

トップチームデビュー後にSBへとコンバートされブレイク下ヘンリヒス。昨年19歳でA代表デビューを果たしている

──スペインでは、アカデミーの選手たちを16、17歳ぐらいになってから初めて筋力トレーニング用のジムに行かせるといいます。ドイツでは14歳から始めると聞いていますが。

エルガート「全員がそうだとは言えません。ただ、体の成長に合わせた筋力トレーニングやコーディネーショントレーニングは重要だと思っています」

シェーンバイツ「現在では、子供が日常的な動きを習得する時間が欠けています。一昔前までは外で遊んで、木登りやジャンプをすることで基本的な動き全般を習得していましたが、その時間はスマートフォンやPCに費やされてしまっています。今の子供たちには力強い耐久力が欠けています。スペインでは筋力トレーニングをしないかもしれませんが、私たちがU-17の欧州選手権で対戦し敗れた時、スペインの選手たちの方が身体的に安定していました」

ゲルスドルフ「レバークーゼンでは、専属の女性アスリートたちがアスレティックトレーナーとして子供たちが小さな頃からコーディネーショントレーニングを行っています。彼らは信じられないほど素晴らしいサッカーセンスを備えているのに、後ろ向きで走ろうとすると足がもつれて転んでしまうのです!」

エルガート「シャルケではマーク・バーステーゲンやマイケル・ボイル(ともにドイツ代表も指導したアメリカのアスレティックトレーナー)のような、サッカー以外のエキスパートから教わっています。彼らのようなサッカー以外の専門家たちへの扉は常に開いていないといけませんが、ただ理想を言えば、できる限りサッカーのプレーに近づけなければならないとも考えています」

シェーンバイツ「ここに、元プロアスリートにとっての大きなチャンスがあります。教育者として、あるいはフィットネスコーチとして、彼らが学んだ知識を、選手として積んできた経験を生かすことができるのですから」

ゲルスドルフ「以前、重量挙げの世界からアスレティックトレーナーを招へいしたことがあります。彼はとても良い仕事をしていましたが、ダイアゴナルのボールを選手に蹴らせようとしたところを見かけて、『サッカーの技術的なことには手を出すな!』と言ったことがありました(一同が笑う)。他には、試合前の準備の部分でしょうね。リラックスやメンタルトレーニングなどの分野です」

──EURO2016で、レーブ監督は「1対1でドリブルで抜ける選手がいない」と嘆いていました。この問題を解決するにはどうすれば良いのでしょうか?

シェーンバイツ「ドイツ代表には、十分にそれができる選手がそろっています。ただ、私たちは彼らにそれを実行する勇気を持つよう促さなければなりません。U–17欧州選手権でも、レベル的には同じくらいでしたが1対1の局面ではスペインの方が自信を持ってプレーしていました」

エルガート「この問題は、幼い頃に選手やその親が『もたもたしないで、早くパスしなさい!』とピッチ脇で叫んでいるところから始まっています。私たちは将来的に、1対1でもっと積極的に仕掛けられるように促し、発展させなければなりません」

ゲルスドルフ「これは、監督の腕の見せどころでもあるでしょうね。監督はチームに、仮にボールを2度も失ったとしてもドリブラーが重要であることを理解させる必要があります。デットマール・クラマーは『少なくとも15個のフェイントを、常に頭の中でイメージしておけ』と言っていましたよ(笑)』

エルガート「(笑いながら)1つでも十分ですよ、完璧なフェイントであればね。かつての名手ヨッヘン・アーベルは、キックフェイントを両足で完璧に使いこなしました。彼がボールを持ったら何をするのか、誰もがわかっているのです。それでも、彼はいつも相手を置き去りにしていました。そういうことです」

■プロフィール
Meikel SCHÖNWEITZ
マイケル・シェーンバイツ

(U-18ドイツ代表監督)
1980.2.5(37歳) GERMANY

幼い頃はプレーもしていたが早々に断念。13歳の時には父を手伝って地元の小クラブでコーチを始め、翌年には監督も経験していたという。学業と並行して指導を続け、10年にマインツのU-17監督に就任。14年にDFB入りを果たし、現在はU-18ドイツ代表と育成コーディネーターを兼務している。

Jürgen GELSDORF
ユルゲン・ゲルスドルフ

(レバークーゼン サッカー部門部長)
1953.1.19(64歳) GERMANY

現役時代はビーレフェルト、レバークーゼンでプレー。引退後はレバークーゼンの他にボルシアMGやボーフム、デュッセルドルフなど9クラブの監督を歴任し、05年からレバークーゼンの育成部長に就任。15年からは同クラブのサッカー部門の長としてチーム全体を取り仕切っている。

Norbert ELGERT
ノルベルト・エルガート

(シャルケU-19監督)
1957.1.13(60歳) GERMANY

シャルケやオスナブリュック等で15年間プレーし90年に引退。アマチュアクラブやアンダーカテゴリーで経験を積んだ後シャルケに帰還。共同監督を務めた02-03を除き一貫してU-19チームを指揮し続け、ノイアーをはじめヘベデス、ドラクスラー、サネやゴレツカらドイツ代表選手を輩出してきた。

Interview: Beni Hofmann & Frank Lussem
Translation: Tatsuro Suzuki
Photos: Bongarts/Getty Images

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1920年創刊。週2回、月曜日と木曜日に発行される。総合スポーツ誌ではあるが誌面の大半をサッカーに割き、1部だけでなく下部リーグまで充実した情報を届ける。

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