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誰よりもチームのことを把握している「現場がうまく回るように調整する何でも屋さん」。FC町田ゼルビア・渡辺直也チーフマネージャーインタビュー(前編)

2024.02.28

今シーズンから初めてのJ1を戦う航海に漕ぎ出すFC町田ゼルビア。このクラブには、まだ専用練習場を持つことができず、借りているグラウンドの近くの“一軒家”で選手が着替えていた時代を知るスタッフがいる。渡辺直也チーフマネージャー。44歳。もともとはスカパー!でデータマンをやっていた男は、その想いを断ち切ることができず、気付けばサッカーがより身近にある現場へと身を投じていた。前編ではそもそもJクラブのマネージャーの仕事とはどういうものなのかを、渡辺が丁寧に教えてくれる。

もう来年のキャンプの準備は始まっている!

――今はシーズンイン直前(1月11日取材)ですが、忙しいですか?

 「忙しいですね。年末年始に会った人によく『いつから休み?いつから仕事?』って聞かれるんですけど、わからないですよね(笑)。結局電話がかかってきて、メールが来て、連絡を取り合って」

――初めてのJ1を迎えることで、例年より忙しかったりするんですか?

 「それで言うと、年末年始の忙しさはクラブが変わってきていることも影響しているのかなと。選手やスタッフの出入りもあって、この3年ぐらいは特に変化が大きいですね。昔はおそらくちょっとずつ変わっていったことが、今はもう大胆に変化させているというか、そのあたりはマネージャーのところにもダイレクトに影響はあって、人が変わればその準備もあるので、その忙しさはあります。ついさっき丸山さん(丸山竜平・強化部スカウト担当)と『初めてキャンプに行ったのはいつだった?』みたいな話をしていて、たぶん10年ちょっと前なんですけど、今はキャンプも3か所行きますし、そういう変化によって、ありがたいことにいろいろやる仕事が多くなっているなとは思います」

――「ありがたいことに」なんですね(笑)。

 「ありがたいですよ(笑)。みなさんのおかげです。マネージャーの中でも主務は、強化部と同じ流れで仕事をする傾向にあります。強化部がいろいろ動いて決まったことを受けて、主務がいろいろな人に連絡したり、調整したりするので、この年末年始もずっとそういうやり取りをしていました。新しい選手、新しいスタッフ、キャンプのこと、スケジュールモロモロの話をしていましたね。優勝して、昇格して、バラ色のオフというイメージはあったんですけど、結局忙しかったです(笑)。

 カテゴリーが上がったから人が増えたのか、人が増えたからカテゴリーが上がったのかの順番はわからないですけど、どんどん大きな組織にはなってきていて、昔に比べれば自分が携わる人の数も増えましたし、物も増えましたし、すべてが大きくなっていって、初めてクラブがJ1を迎えるという中で、ゼルビアの歴史の中では関わる人も一番多くなっていますし、それを抱えられるクラブの規模になってきたことは感じますね。でも、やることは変わらないですよ。朝クラブハウスに来て掃除したり、洗濯したり、やっている仕事の内容は大きくは変わらないですけど、いろいろなスケールが大きくなっているとは感じます」

――ちなみにもう今季のリーグ戦の最後のアウェイゲームの宿舎って手配しているんですか?

 「動いてはいますよ。それこそ今はキャンプ前ですけど、もう来年のキャンプの話もしていますから」

――キャンプの準備ってもう1年ぐらい前から始まっているんですね。

 「時と場合によりますけど、1年後の1月や2月のキャンプもそうですし、シーズン移行に向けてもいろいろ話はし始めています。クラブとしてどういうやり方をするかもそうですし、他のクラブがどうするのか情報交換も進めていかないと置いていかれてしまいますからね」

“マネージャー会”での話題は監督の申し送りがメイン!?

――そういえば年末にJ-GREEN堺で“マネージャー会”ってやっていませんでした?

 「はい、ありましたね。たぶんJリーグ全体の8割ぐらいのマネージャーは参加してくれているんじゃないですか。12月20日ぐらいかなあ」

――あれは何をやる会なんですか?

 「挨拶と情報交換、ですね。最初はそんな会があることも知らなくて、初めて行ったのはヴェルディにいた時で、11年前ぐらいですよ。この業界だとまだ新人だったので、そういう集まりに行っても知っている方は2、3人ぐらいしかいなくて、気まずかったり、居づらかったりしましたけどね」

――もう重鎮ですよね(笑)

 「重鎮ではないです(笑)。2022年の年末にJFAハウスでマネージャー会をやった時は、『ちょっと司会やってくれ』ということになって、『わかりました』と司会をやったら、開始早々の挨拶でドン滑りして、そこから冷や汗が止まらなかったです(笑)。ああいうところで堂々と喋れる人ってうらやましいですよね」

――やっぱり話題は監督の申し送りとかですか?

 「そういうのは多いですね。今年で言えば、鹿島の方から『ポポさん(ランコ・ポポヴィッチ監督)ってどんな方なんですか?』とか(笑)。でも、自分もそうでしたからね。ポポさんが来る時にFC東京のマネージャーの方に『どういう方ですか?』って聞きましたし。それが事前の準備にも生きるので重要なんです。監督の趣向で仕事のやり方も変わってきますからね。

2011シーズンと2020-22シーズンの2度、町田を指揮したランコ・ポポヴィッチ(現鹿島アントラーズ監督)

 たとえば遠征でも、早く遠征先に着きたいタイプの監督であれば、それに近い形でチームを動かしていかないといけないので、その中でできることとできないことを話し合っていくわけで、ポポさんの時は『ナイターの時には、午前中も練習してたよ』と聞かされて、『え?そんなことあるんだ!』と。それでいざポポさんが来て、『ナイターの日に午前練やりますか?』と聞いたら、『やる』ということだったので、遠征先でフットサル場を予約して当日練習したりもしましたけど、それは数回行って終わりましたね。

 練習場を探して準備するのも大変でしたし、試合用の練習着を使うので、それをまた洗濯して試合のアップに間に合わせる必要もあって、メチャメチャ大変でした。そういう監督の情報も事前に知っていると凄く助かりますし、相手のマネージャーが何を知りたいかなと考えて、これだけは言ってあげた方がいいなってことを伝えています」

――そこもマネージャー目線ですよね。マネージャーとして監督と関わる時に、『これが必要な情報ですよ』と捉えていることも、僕らが考えるものとは違う気がします。

 「そういう話をする時は、質問も答えも遠征のことが多いかもしれないですね。『あの監督はちょっと珍しいけど、こういう遠征のやり方だったよ』とか。僕は先に聞いておきたいタイプです。それだけで安心できるというか。気にしない人もいるでしょうけど、マネージャーの仕事としてはそういうアンテナを張れる人の方が向いている気はしますね。実際にどうするかということは別にして、いろいろな情報を持っておくことは大事かなと。

 でも、ポポさんが来た時にも『ナイターの日は当日練習やるんですよね?』とは聞かないですよ(笑)。“知らないテイ”というか、自然体で接しながらも、情報は持っていると。やっぱり焦りたくないですし、そうなると一番しんどいので、できる限りの準備はしておきたい性格ではあります。だから、ああいう集まりがあることは大事だなと思いますし、昨年末に行った時もJ3のクラブだと若いマネージャーも多くて、そういう人たちにとっては絶対に良い集まりだと思いましたね」

スケジュール管理。用具のスプレー塗り。アイスバスのセッティング

――では、改めてですが、マネージャーってどういう仕事ですか?

 「どういう仕事なんですかねえ。それを聞かれるのが一番困りますよね(笑)。ずっとその簡単な説明の仕方を考えているんですけど、結局わからないんですよ。まあ……『現場がうまく回るように調整する何でも屋さん』みたいな感じだと思うんですけど、『じゃあ実際に何をやっているの?』と言われても、やることが多岐に渡っているので、ざっくり説明しづらいんです」

――マネージャーの仕事としての、いくつか大きな軸みたいなものはあるんですか?

 「クラブによって役割が微妙に違ったりもするんですけど、今のこのクラブで就いているチーフマネージャーとしての役割のメインは、スケジュール管理ですね。毎試合のリーグ戦、遠征、キャンプのスケジュールを決めるために、監督、強化部、旅行会社と調整するような仕事がメインですけど、全然違うことで言ったら練習用具の手配もありますよ。ある練習用具の色にコーチ陣がこだわっていて、『2色あった方がいい』というリクエストを受けて探したんですけど、結局売っていなかったので、そのときは1個1個スプレーで色を塗り替えました」

――何の練習用具ですか?

 「ピッチに刺す“人形”ですね。練習用具はネットで探したりもするんですけど、2色がなかなかなくて。海外のものはあったんですけど、値段がメチャメチャ高かったのと、ちょっと怪しいサイトだったので、『これをカードで買うのは怖いな』って(笑)。それで『もういいや。自分で塗ろう』と思って、スプレーで塗っていたんですけど、そういう時に『オレって何の仕事してるんだ?』とは思いますよね(笑)。

柴戸海の背後に写り込んでいる「ピッチに刺す“人形”」

 ただ、実はうちの実家が自営業でテント屋をやっていたので、小さい頃からペンキ塗りとか溶接とかは、父親の仕事に連れていかれて手伝いをやっていましたし、それで高い所に登るのも慣れていたので、分析担当がいない時代はヤグラの上で練習や練習試合の撮影もしていましたよ。そのへんは苦にならないので。父親に感謝ですね(笑)。

 そんな感じで本当に何でもやるので、毎日何をやっているかと言われると、説明が難しいんです。グラウンドにも立っていますし、練習前の準備も片付けも一緒にやりますし、今は洗濯は若いマネージャーたちがやってくれますけど、夏場はアイスバスに水を入れて、氷を入れて……」

――そうですよね。自然にアイスバスができるはずもなくて、用意する人がいるわけですからね。

 「そういう準備もありますね。今は専用のクラブハウスと練習場があるからいいですけど、公共施設の練習場を使っている時にも、監督も含めたスタッフ陣は練習のことも、体調や栄養のことも求めるじゃないですか。当然できることとできないことがある中で、できるだけそれに応えるためにどうしたらいいかというところでの工夫というか、裏技というか、そういうことばかり考えてJ3の時代からやってきたので、今はアイスバスなんてプールを買って、氷を業者さんに発注して持ってきてもらって、それと水を入れるだけなので全然楽ですよ。

 昔は公園のグラウンドでアイスバスを作るのに、まず広い場所なんて確保できないですし、周りから見えるのでブルーシートで囲って、氷もそんな大量には買えないので、一般の冷蔵庫でペットボトルを凍らせて、それを何十本分も作って、運んでと。そういう歴史を辿ってきたので、アイスバス1つを取ってみても『環境が変わったなあ』『お金があるなあ』『何でもできるなあ』とは感じますよ。

 だから、マネージャーの仕事という面で考えると、『若い子はこれでいいのかな?』とは思っちゃいますよね。たぶんどこの業界でも考え方としては一緒で、別に『苦労しろ』とは思わないですけど、『どうしよう』というアイデアは必要に迫られて考えるわけじゃないですか。ある程度の環境にいると考える必要がなくなってしまうので、そこはもったいないかなと。工夫できなくなってしまうというか、そういうアイデアが育ちにくい環境なのかなと。

 もちろん用事があるんだったら早く帰ってもいいですし、その分は自分で別に時間を作ってやってもいいですけど、そこで言うとたぶん若いJ3のマネージャーたちは少し環境が厳しい中で、自分が仕事をする上での長所や武器を持たないと、ただ忙しい時間に追われて『疲れた』『もう嫌だ』『メンタルが……』となってしまうこともあるので、それはかわいそうなんですけどね。ただ、あまりにも環境が良いとそれはそれで難しいんです」

――それは渡辺さんにとっても、こういう環境になったから気付くことですよね。たとえば以前アイスバスを作っていた時も、おそらくそれが『工夫しているなあ』とは思っていないはずで。

 「そうですね。必要に迫られて、『どうやったらいいのかな?』と思っているだけで。そこはサッカー選手の環境にも似ていると思います。人が育っていく上で環境は凄く影響があって、どういう環境がいいのかということは常に議論されることだとは思うんですけど、マネージャーもまさにそうだと思います。

 今はJAPANサッカーカレッジに代表されるような、そういう学校が何校かあって、マネージャーやトレーナー、ホペイロを目指す人も増えてきていますけど、卒業した時に『最初はJ3やJFLから始めた方が苦労できていいぞ』と言われても、J1のクラブに入れるんだったら全然入っていいと思いますし、自分にとって何がいいかという正解はないんですよね。僕だってそもそもマネージャーになろうと思っていたわけではなくて、自然とこうなっちゃったわけで(笑)」

練習の日のスケジュール。時には“副審”を任されることも!

――その渡辺さんの経歴はもう少し後で伺います(笑)。マネージャーの仕事を理解する上で、1日のスケジュールを伺うと少しわかりやすいのかなと。まずは一般的な練習の日のスケジュールを教えていただけますか?

 「J2はだいたい週に1試合だったので、オフ明けの立ち上げが水曜日で、水木金土は練習して、日曜日が試合、月曜日が練習試合で、火曜日がオフ、というような1週間の流れがありました。その中で水木金土の練習日は同じようなスケジュールで、その中でJリーグで多いのは午前中に練習して、午後に2部練の練習をする日もあると。1日の流れの基本は、だいたい7時前にクラブハウスに来ています」

――そんなに早いんですか?

 「そうですね。6時45分から50分くらいに着けばいいかなって」

――何時に起きるんですか?

 「6時5分ぐらいに目覚ましを掛けています。ヴェルディの時はもう少しゆっくりでしたね。そのへんもチームの練習時間と監督やコーチの色があると思うんですよ。今は基本的に7時前に着くように行って、だいたい10時から練習が始まるので、監督・コーチ陣が今日の練習でどういうことをするかの打ち合わせがあって、そこから逆算して練習が始まるまでにセットできるものをスタッフで準備します。

 それが8時半から始まるので、それまではマネージャーとしての確認事項をチェックしたり、メールを確認したりしながら、コーチ陣が動き出しそうなタイミングの少し前にグラウンドに出て、何となくの練習の内容を話しながらゴールやコーンを運んで、みんなでセットして練習を迎えると。全体練習は10時から1時間半ぐらいで、そこから居残りも含めれば2時間ぐらいが練習時間ですね」

――練習中は何をされているんですか?

 「マネージャーによって違うんですけど、最初はフィールドとキーパーに練習が分かれるので、キーパーに誰が付くのかというところで……」

――キーパー陣にもマネージャーが付くんですね!

 「付きます。キーパーコーチによってはマネージャーの役割も違って、ボール拾いだけのこともあれば、本当に練習の手伝いとしてボールを蹴ったりすることもあります。そこはプロの練習なので、“素人”が蹴るのを良しとする人としない人にも分かれますけどね。そこでフィールドとキーパーでマネージャーも分かれつつ、基本的には水分補給のドリンク作成と、練習のセッション間の準備や片付けを走ってやります。マーカーやコーンを置いたり、ゴールを運んだりということは、コーチ陣の指示で動きますね。

 だから、練習が始まる前にどういう順番でやるかを聞いた上で、実際のグラウンドでもグリッドや場所を聞きつつ、細かい指示も仰いで、何となく頭の中でイメージした順番通りに、スピードを上げて練習をする手伝いをすると。監督もコーチもとにかくだらけたくないですし、ドリンクを取って次、ドリンクを取って次みたいに、間延びしないようにしたい意向があるので、その手伝いをしながら、やっぱりマネージャーが一番全体をわかっていた方がいいので、そのあたりをトレーナーやメディカルの人に伝えて一緒にやってもらいます。

 トレーナー陣は練習が始まるギリギリまで選手をケアしていて、逆にグラウンドに出てきた時にあまり状況がわからない中で練習が始まるので、そこもマネージャーが『コーチがさっきこう言っていたから、こうなると思うよ。ちょっと準備しといて』って話したりと、そういうことがメインですかね。あと意外と大きい仕事は副審かな」

戦術ボードを両手で持つ渡辺チーフマネージャー(Photo: ©FCMZ)

――ああ、そうか。プロの練習で試合に出ていない選手がやるわけにはいかないですからね。

 「学生じゃないですからね(笑)。初めてそれを経験した時は結構衝撃的でした。いくら練習とはいえ、プロのゲーム形式の副審をやるわけで、そもそも僕は中学校でサッカーをやめているのに(笑)、『そんなヤツにやらせちゃダメだろ』と思いながら、最低限の仕事はやらないといけないですし、メチャメチャ緊張感はあります」

――それは目から鱗ですね。副審もやるのかあ。

 「最初にヴェルディのマネージャー時代に副審をやった時に、あるベテラン選手に怒鳴られて、その時はマジでやめたいと思いましたよ。『もうこんなクラブ嫌だ。怖い』って(笑)。その頃のヴェルディはみんなキャラが強烈でしたから(笑)。練習もガツガツやって、言うことは言うし、練習中のケンカもしょっちゅうありましたね。僕みたいな若造は言われて当然だった部分もあるんですけど、『いやあ、キツいなあ。もう副審やりたくない……』って。

 凄く大事な仕事ですからね。でも、それも慣れていく部分もありますし、裏に出たボールを追い掛けた時は『選手ってメチャメチャ速いな』って実感したりもします。普段は選手と一緒に走ることなんてないじゃないですか。『ああ、やっぱり選手って凄いんだな』って。それこそゼルビアに来た2014年に、確か同じJ3のクラブとの練習試合に審判が来れなくなって、失礼だとは感じましたけど、どうにもならないから僕が副審をやったんです。

 人生で初めて90分間ピッチに立ったんですけど、『これは素人のオレがやっちゃいけないことだよな』と思いながら、『意外とやればできるな』って(笑)。たとえば社会人ぐらいまで自分がプレーしていた人だったら、そういうのも多少できると思うんですけど、高いレベルでサッカーをしてこなかったマネージャーが、副審もそうですし、練習のボール出しを手伝ったりするのって、結構特殊な経験じゃないですか。そういう刺激的なことを求めてやっているのかな……(笑)」

――え?そうなんですか?(笑)

 「そんなことはないか(笑)。でも、学生時代に将来どんな仕事をしたいか考えていた頃から、『自分がやりたいことや好きなことは普通のサラリーマンじゃないだろうな』とは思っていたので、今は『オレが自分で選んだ仕事だよな』とは感じます。そういう意味では毎日何かがあるから刺激的ですよね(笑)。いろいろなことがありすぎます」

奥山政幸はきちんとウエアを畳んでいく!

――そんな副審もこなしつつ、練習が終わってからはどんな仕事をされるんですか?

 「練習が終わって、片づけをして、ちょっと時間ができたら昼食を食べて、午後はそれぞれ次の週末の試合の準備をしていることが多いです。マネージャーで言うと、いわゆる主務的な人は遠征とかいろいろなものの手配の準備をしつつ、スケジュール表を作ったり、そういう準備をメインでやります。副務、ホペイロ、キットマネージャーは試合で使う用具やスパイクを準備し始めて、週末に向かう感じです。それがざっくり分けた午前と午後のスケジュールで、午後練がある日はもう昼食を摂って、洗濯をしていたら、すぐに練習の準備をしないといけないので、そういう日は週末の準備はできないですね。今まで僕は3チームで、5人の監督とやらせてもらいましたけど、それは変わらずに同じような流れです」

――たとえばウエアを脱ぎっぱなしで置いていく選手もいるわけですよね。そういうところから性格も見えてくるんじゃないですか(笑)?

 「もちろん(笑)。でも、そこは人間の性格なので、逆に絶対に自分で自分のものを畳む人もいるんですよ。どっちも極端というか、良い悪いよりは『極端な人だなあ』と思うようにすると、そこも楽かなあと」

――ちなみにゼルビアで“ちゃんと畳む人”は誰なんですか?

 「マサ(奥山政幸)ですね」

2023シーズンはキャプテンを務めた奥山。今季は副将として町田を支える

――やっぱり!わかるわあ。

 「意外と福井光輝もそうですね。キャラとは別に細かいところもあります。あとは中島裕希も『これはここにちゃんと置いておこう』みたいなきっちり系ですね。光輝は大学生の時に練習参加に来ていた時から、変わったヤツではありました。

 練習参加に来た時に印象に残るタイプっているんですよ。もちろんサッカー選手になろうと思っている選手だから、プレーで示せばいいんですけど、何となくずっと選手たちを見ていると、個性的な方が自分も得をするというか、自分の印象を残して、人に覚えてもらうのはプレー面だけじゃない気がします。練習参加って短いと2、3日だけですし、長くて2週間ぐらいですけど、『あの時のあの子か』と思う子と、誰かに言われるまで気付かずに『え?来てたっけ?』というのは、人によって差がありますね」

――練習参加した時の印象が強かった選手っていますか?

 「今の話と真逆になっちゃいますけど、佐野海舟(鹿島アントラーズ)かな。キャラとしては全然無口でしたけど(笑)、プレーが凄すぎて、キャラとか個性とかそんな印象付けの必要はないレベルでしたよ。当時まだ高校3年生で練習に来て、小野路の人工芝で練習していた頃ですけど、僕が見ても『高校生でこれは凄いな』と。練習が終わって選手が話しているのを聞いても、『アイツ凄いな』って言っていましたから。それでゼルビアに入ったら、1年目からサイドバックではありましたけど公式戦に絡んでいましたからね。

 たとえばゲーム形式じゃない時は、ポジションも関係ないじゃないですか。練習をパッと見た時に、ボランチがどうとかじゃなくて、何が凄いかとか細かいことはわからないけど、とにかく『凄いな』と。ただ、逆もあって『この選手凄いな』と思った子があまり伸びなかったりすることもあって、そういうのを見ていると『サッカー選手って大変だなあ』とは思います。厳しい世界ですよね」

去年のチームは食事会場からなかなか帰らなかった!

――次は試合の日、アウェイゲームが行われる1日のスケジュールを教えていただけますか?

 「前日の移動もありますね。J2で言うと、土曜日の午前中に練習して、午後に移動すると。今はクラブハウスで食事が摂れるので、みんなで昼食を食べて、出発します。その行き先によって出発時間や移動方法も変わりますし、何を着て移動するかもチームによって、乗り物によって違うので、そういうことも伝えながら、週中に決まったスケジュールが移動の日に滞りなく進むように、旅行会社の方と連絡を取って、無事にホテルに着けるようにしますね。

 基本的に夕方、夕食前にホテルに着くような移動が多いんですけど、黒田さん(黒田剛監督)は『ホテルに早めに着きたい』タイプです。それも去年初めて仕事をするまで知らなかったわけですよ。実際にやってみたら、監督が『ここはこうしたいな』ということになって。じゃあ早めに着くためには、練習の時間を早めるのか、食事の時間を短くするのか、ということもいろいろ調整して、去年はそうやって早めに移動したんですよね。

 ホテルに入ったら、ホテルの担当者との調整、夕食の調整などがメインで、細かいことは事前に話しているんですけど、食堂の確認とか、マッサージルームの確認とか、何か足りないものはないかとか、そういうチェックをして、次の日の試合当日の流れをホテルの人と旅行会社の人と打ち合わせすると。だいたい夕食が6時なので、8時過ぎぐらいには仕事は終わります。ただ、去年のチームが凄かったのは、食事のテーブルが盛り上がって、みんな全然部屋に帰らないんですよ」

――ああ、仲が良いんですね。

 「そうですね。とにかく食事会場にいる時間が長くて、今までの中でも一番長かったかなあ。特にシーズンの中盤から後半にかけては。『こんな毎日一緒にいて、まだ喋ることあるの?』みたいな(笑)。ホテルの人も待っているので、ある程度の時間になったら片づけてもらいますけど、コーヒーを飲んだりしてずっと喋ってて。まあ仲が良いのはいいことなんですけど。

 そういうところにそのチームの雰囲気が出るかもしれないですね。もちろん仲が良いから強いわけではないでしょうけど、自然とそうなっていった感じはありました。基本的に円卓で、6人ずつのテーブルを3つ用意するんです。だいたい適当に座るんですけど、今までもその時のテーブルで、どこか1個だけはずっと喋っているようなことはあったんですよ。おしゃべり好きが集まったりして。でも、3つのテーブル全部がずっと帰らないって、なかなかないことだったので。最初の頃は『ああ、みんな仲良くて雰囲気いいな』と思いましたけど、最後の方は『もういいかげんに帰れよ』って(笑)」

――ちなみに渡辺さんも夕食は一緒に食べるんですか?

 「一緒に食べます。食事会場の広さにもよりますけど、基本的にはスタッフの席で食べますね。あとはチームのスタッフの人数にもよって、そんなに多くなければ円卓とか少し大きなテーブル1つに集まって全員で食べますけど、多い場合にはスタッフも2つのテーブルに分かれることもあります」

――じゃあ黒田監督と同じテーブルで食事することもあるんですね。

 「ありますね。監督もお話するのが大好きですし、コーチ陣もみんな話好きですよ」

――僕らと同い年の不老(伸行)GKコーチもおしゃべり好きですよね(笑)

 「1年前にウチに来て、まだ最初の頃にフロントスタッフへ挨拶していたことがあったんですけど、しばらくしたら不老ちゃんが廊下で社員の人とずっと喋っていて、『この間来たばっかだろ。いつ入ってきた人なんだよ』って(笑)。しかも僕らは大学も一緒なんですよ。僕はサッカー部ではないですけど、20年ぐらい前に選手名鑑を見ながら『ああ、同い年で同じ大学かあ』とは思っていましたからね。今までのチームにもゴールデンエイジの選手はいましたけど、スタッフはあまり自分の周りにいなかったので、そこは嬉しいですよ」

試合の日のスケジュール。一番気になるのは“時間の管理”

――では、改めて試合の日のスケジュールをお願いします(笑)。ナイトゲームにしましょうか。

 「はい(笑)。ナイトゲームは監督やフィジカルコーチによって分かれるんですけど、まず朝食をどうするかですね。全員で食べるのか、自由に食べるのかは人によって違って、マネージャーは朝食会場にいて、たとえば朝食は全員が摂るというチームだったら、誰が来ているか確認して、来なかった人に罰はないですけど、万が一体調不良があってはいけないので、その選手に連絡して、コミュニケーションは取ります。その確認の意味もあって、全員で朝食を摂ろうという監督は多いですね。

 一方で朝食は自由という場合は、何時から何時の間という形で朝食会場を準備してもらって、時間が終わったら閉めてもらうと。ナイトゲームだと練習はあまりしないですけど、散歩はだいたいスケジュールに入ってきて、トレーナーかフィジカルコーチが考えた散歩コースを歩くんですけど、だいたいは公園に行ってストレッチして、身体をちょっと動かしてホテルに帰ると。

 その散歩のタイミングも考えますし、ナイトゲームの時は昼食と試合前の軽食があって、軽食は試合の3時間半前に摂ると決まっています。たとえば夜の7時キックオフだと3時半が軽食の時間で、昼食からの時間が短いとどっちも変な感じになってしまうので、昼食は11時半にして、4時間ぐらい空けて軽食を摂ったりということは、だいたいフィジカルコーチが中心になって決めます。そういうことも調整するので、ホテルでの仕事のメインは食事に関わることですね。

 それ以外にも何かがあった時にはマネージャーに連絡が来るので、その対応もありますし、軽食を食べたらスタジアムに向かって出発するので、そのバスの準備と確認と、『何分ぐらいで着けるか』『道が混んでないか』というスタジアムへ行く道順と道路状況を確認して、スタジアムにいる運営・広報の方に『何時何分に着く予定です』と連絡して、バスに迎えに来てもらいます。

 基本的にマネージャーとトレーナーが1人ずつ会場には先乗りしていて、その2人がロッカールームを作ってくれているので、スタジアムにバスが着いて、選手がロッカールームに入っていったら、僕はアップとドリンクの準備をして、そこからウォーミングアップの手伝いをします」

――渡辺さんは選手と一緒にバスへ乗るんですか?

 「乗りますね。だいたい主務がバスに乗ることが多いです。連絡係というか、万が一事故があった場合の対応もあるので。でも、最初にゼルビアに来た時はマネージャーも1人だったので、僕がスタジアムに当日の朝に入って、バスはもう任せていましたね。そこでバスに乗ったら、『誰がスタジアムの準備をするの?』ってなっちゃいますから(笑)。

 今はアウェイゲームにもマネージャーは2人行くので、スタジアムへ先乗りする人とチームと一緒に動く人が分けられるようになりました。スタジアムに入ってからはイメージしやすいと思いますけど、ウォーミングアップをして、試合をしてと。試合中はアップのウエアとドリンクを片付けつつ、もうロッカールームも片づけ始めますし、ドリンク補充しながら、ちょっとベンチの周りに顔を出したりして、たまに『アレ取ってきて』という声に対応したり、通信機器が使えないようなこともあるので、そういうトラブルにも対処して、ハーフタイムにウエアとドリンクを準備したら、アウェイだと後半はもう帰る準備に入ります。

 ナイトゲームだと場所によってはもう1泊することもあるんですけど、そのまま帰ることが遠征の割合では多いので、スタジアムの出発時間を確認します。特に飛行機で帰る時は絶対に乗り遅れられないので、『何時何分までにバスに全員乗せないといけないんだから!』『まだインタビューしてるの?』っていつも広報に文句を言っています(笑)」

――でも、僕らの目線で言えば、その日のヒーローがかなり遅めにロッカーから出てくることもありますからね(笑)

 「それぞれのタイミングで、それぞれのニーズがありますからね。選手がロッカーから早く出ればみんながハッピーなんですけど、まあ人それぞれね(笑)。そこは僕もピリピリしてしまうというか、時間は怖いんですよ。ヴェルディの時にあったのは、羽田に向かう日にクラブハウスへのバスの到着が遅れて『バスがまだ来てないよ……』って。その運転手さんはベテランの方だったので、ようやく到着した時に『絶対に間に合わせてくださいよ』と言ったら、『じゃあ間に合わせたらお土産いっぱい買ってきてね』と返されて(笑)。結局間に合ったんですけど、あれは心臓や胃に悪いですよ……」

――時間の管理が一番ヒヤヒヤしそうですね……

 「試合に影響を及ぼしてしまうことが一番怖いので、それだけはドキドキしますね」

――試合に遅刻しちゃう夢とか見たりします(笑)?

 「ああ、あるある(笑)。1人で行っている時は一番怖かったです。責任というか、危機感というか、人間って良くも悪くもそういうところが薄れるものですね。1人の時は『万が一アレがなかったらどうしよう』とか『アレ、ちゃんと入れたっけな?』とか不安になったりしましたね。でも、いまだに胃は痛いですよ。とにかくチームがちゃんと順調に進むかどうかの仕事なので、トラブルが起きることへの怖さは変わらないです。

 やっぱり試合前のスタジアム入りが一番焦りますね。一度バスの運転手さんが道を間違えたことがあって、『いやいや、地元のバスなのに……』とは思いつつ、それもマネージャーが全部背負わないといけないというか、結局こっちが言われるので、そこはなかなかキツい仕事です。ちなみに黒田監督はどっしり構えて、小さいことに動じないタイプですね。

 スタジアムへの道のことで言うと、イチかバチかは嫌なので、近道ではなくても確実に混まない道を選ぶとか、そういうことは考えています。だから、最後までバスで帰る遠征が一番楽ですね。関東は恵まれているので、試合が終わってバスで帰れる会場も多いですけど、バスに乗って進み始めたら肩の荷が下りる感じはあります。今年のJ1は関東のチームが多いので、『アウェイも楽だなあ』とは思いましたね」

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FC町田ゼルビアランコ・ポポヴィッチ

Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

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