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スモール・パートナーシップ――グアルディオラが探求する「創造性」の新しい解釈

2023.07.31

TACTICAL FRONTIER

サッカー戦術の最前線は近年急激なスピードで進化している。インターネットの発達で国境を越えた情報にアクセスできるようになり、指導者のキャリア形成や目指すサッカースタイルに明らかな変化が生まれた。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つのは、どんな未来なのか? すでに世界各国で起こり始めている“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代サッカーの新しい楽しみ方を提案したい。

『フットボリスタ第97号』より掲載。

 バルセロナでメソッド部門のディレクターとしてその名を轟かせたジョアン・ビラは、次のように述べた。

 「ボールを持っていない選手の表現力が、ボールを持っている選手の創造性を促進することがある。それは、直接ボールを持っている選手に影響を与える」

 ペップ・グアルディオラとジョアン・ビラ。この2 人はバルセロナが受け継いできたDNAを誰よりも知っている。ジョアン・ビラは、アルゼンチンの名将ルイス・メノッティから「スモール・パートナーシップ」という概念も継承している。選手同士の間で築かれた関係性こそが重要であり、ピッチの内外で育まれた関係性がチームプレーを醸成するというものだ。彼らはそのような価値観からチームで連係しながらプレーする価値を理解し、バルセロナはその哲学を追い求めていく。シャビ、イニエスタ、ブスケッツ…… 多くの天才たちがエゴを捨て、チームのためにプレーする。それこそがバルセロナに受け継がれた宝だった。

創造性は「個人の才能」なのか?

 グアルディオラはバルセロナに集った眩い才能を束ね、クラブの美学を体現するようなチームを完成させる。そして、バイエルンやマンチェスター・シティでも自分のゲームモデルを浸透させた。

 2022年夏、多くの人を驚かせたのがアーリング・ホーランドの獲得だった。グアルディオラのチームに加わったノルウェーの神童は期待以上の活躍でゴールを量産しているが、その特徴こそがオフ・ザ・ボールの鋭い動きだろう。長身とは思えない俊敏性とスピードで、エリア内の危険なスペースを狙う。CL準決勝第2レグ、レアル・マドリーを圧倒したゲームは今シーズンのマンチェスター・シティに
とっての集大成だった。得点は記録しなかったものの、このゲームで躍動するホーランドのプレーから感じたのが、前述したジョアン・ビラの言葉だった。

 そもそも、創造性とは何だろう?

 多くの人々は創造性を個人の才能だと考えているかもしれない。例えばロナウジーニョが華麗なフェイントで対面するDF を翻弄する時、彼のアイディアと創造性にサポーターは歓喜してきた。メッシがクロアチア戦でドリブル突破に成功した時、その創造性がヨシュコ・グバルディオルを悩ませた。アンドレア・ピルロが中盤の底から正確なスルーパスで敵陣を切り裂く時、彼にしか見えない創造的なパスコースがあった。……

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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