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日本代表も経験して加速する成長速度。浦和レッズ・伊藤敦樹が憧れのクラブで目指す絶対的存在

2023.07.24

今やJリーグの中でも屈指のボランチへと成長した男は、とうとう日本代表デビューまで飾ってしまった。浦和レッズのど真ん中に1本の軸を通す、伊藤敦樹のことだ。かつては熱狂的なサポーターとしてスタンドから見つめていた憧れの赤いユニフォームに袖を通し、埼玉スタジアム2002のピッチで躍動する姿は、威風堂々というフレーズが良く似合う。一度はユースからのトップ昇格を見送られ、流通経済大学での4年間を過ごして、古巣へと帰還した伊藤は、果たしてどういうステップを踏んでここまで駆け上がってきたのか。プロ入りからの3シーズンをつぶさに見つめてきた飯尾篤史が、その歩みを過不足なく記してくれた。

精神的な余裕と自信が生まれたプロ3年目の充実

 4月29日と5月7日にアル・ヒラルとACL決勝を戦ったため、どのクラブにも増して過密日程を強いられている浦和レッズにあって、公式戦31試合中、チーム最多となる30試合に出場しているのが、プロ3年目のボランチ・伊藤敦樹だ。

 欠場した1試合も、日本代表招集のためにメンバー外を余儀なくされたもの。マチェイ・スコルジャ監督からの信頼の厚さだけでなく、いかにタフでケガとは無縁かが窺える。試合後半に入ると、たびたび足が攣っていたプロ1年目のひ弱さは、もう見られない。

 その背景にあるのは、浦和で絶対的な存在になるための、弛まぬ自己研鑽である。

 精神的な余裕と自信が生まれたプロ3年目の今シーズン、チーム内での筋トレに加え、スプリントコーチの秋本真吾氏に師事して走り方を矯正し、パーソナルトレーナーの春名純氏のもとで体を効果的に使えるよう肉体改造に取り組んでいる。

Photo: Takahiro Fujii

 「まだ始めたばかりだし、シーズン中はなかなか見てもらえないので、どちらも何かが劇的に変わったわけではなくて。走り方は、ウガさん(宇賀神友弥)やマキさん(槙野智章)も同じトレーニングをしているんですけど、無駄な動きを削ぎ落とし、効率よく走れるようになるまで7、8年かかったそうです。でも、小さいことを意識するだけで、足が攣る回数も減りましたし、フィジカル面でも当たり負けしなくなったり、ボールを奪い切れるようになって来たから、少しずつ効果が出ているのかなって」

 プロ3年目の成長は、スプリントを含むフィジカル面にとどまらない。ボランチとしてのプレービジョンやゲームを読む力にも磨きがかかっている。

 ハーフスペースを駆け上がり、ニアゾーンを突くタイミングと精度はより研ぎ澄まされてきた。駆け引きを仕掛けてインターセプトして、ドリブルで持ち運ぶ回数も増えている。

 「ボールをもらう立ち位置に関してはまだまだですけど、マコ(ヴォイテク・マコウスキコーチ)のアドバイスを受けて背後を意識するようになってから、インターセプトやボールを奪う回数が増えました。ただ、外から見ている感覚と、ピッチ上の感覚はやはり違うので、経験に基づく感覚も大事にしながら修正を重ねています。例えば、裏に抜けるタイミング。1年目はタイミングを気にせず走っていたんですけど、今は試合映像を振り返りながら、タイミングを確認しています。(酒井)宏樹くんからは『行けるときは100%で行く、行けないときはステイしていい』と言われているので、今シーズンはタイミングとメリハリを意識していて、それが今、いい形になってきていると思いますね」

ルーキーイヤーで射止めた開幕スタメンの衝撃

 もともと浦和に加入したときから、戦術眼の高さには目を見張るものがあった。

 敦樹が流通経済大学から加入した2021年シーズン、浦和は徳島ヴォルティスからリカルド・ロドリゲス監督を迎え入れた。このスペイン人監督は、立ち位置のズレから優位性を保ってボールを動かし、主導権を握ってゲームを進めるポジショナルプレーの概念をチームに植え付けていった。

 多くの選手がボール循環の仕組みを理解するのに時間を要し、適切な立ち位置を取るのに苦戦するなか、敦樹は早くも沖縄キャンプにおいてこなれた様子でビルドアップに関わり、中間ポジションに立って相手チームを惑わせていた。

 沖縄から埼玉に戻り、SC相模原との練習試合を終えたあと、戦術理解に関して質問すると、こんな答えが返ってきた。

Photo: Takahiro Fujii

 「戦術理解度に関しては、自分で言うのもおこがましいですが、サッカーを知っているほうだと思いますし、頭を使うことは自分の特長でもあると思います。ポジショナルなサッカーに関しても、自分はそういうスタイルが好きですし、ボールをポゼッションするほうが好きでした。5レーンを意識することは大学4年でチョウさんの指導を受けた際にずっとやっていたので、やりやすさを感じていますね」

 チョウさんとは、元湘南ベルマーレの監督で、現在は京都サンガF.C.を率いる曺貴裁監督のこと。この大学4年時にボランチではなくセンターバックを務めたことも、守備力のみならず、ビルドアップへの理解を高めた要因だった。……

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伊藤敦樹浦和レッズ

Profile

飯尾 篤史

大学卒業後、編集プロダクションを経て、『週刊サッカーダイジェスト』の編集記者に。2012年からフリーランスに転身し、W杯やオリンピックをはじめ、国内外のサッカーシーンを中心に精力的な取材活動を続けている。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』などがある。

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