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「J1首位vsJ2首位」。横浜FMからみたFC町田ゼルビア戦、1-4大敗はなぜ起きたのか

2023.07.14

7月12日に行われた天皇杯JFA第103回全日本サッカー選手権大会3回戦。歴史と伝統を誇るこの大会で、J1首位を走る横浜F・マリノスは、J2首位を独走するFC町田ゼルビアにまさかの大敗を喫した。リーグ戦からのメンバー変更など「カップ戦の妙」があったのは確かだが、横浜FMの前半のシュート数は0本(総計4本)である。決してそれだけとは思えない試合内容だったことも確かだ。主に横浜FMを継続して取材する舩木渉記者が、町田GIONスタジアムで目撃したものを掘り下げる。

「セカンド・ベストだった」

 「我われは1-4で負けた。試合に勝つだけの強さを持っていると信じてメンバーを選んだ。2チームで争い、我われは得点で2番手、肉体的に2番手、精神的に2番手、戦術的に2番手、技術的にも2番手だった。我われは今日、セカンド・ベストだった。すべての面において相手が我われを上回っていた。それを受け入れなければいけない」(ケヴィン・マスカット監督)

 シーズンが後半に差しかかったばかりの7月12日、横浜F・マリノスはFC町田ゼルビアに1-4で完敗。J1王者として迎えた今季、横浜FMのゴール裏には「完全制覇=全タイトル+ダービー全勝」という横断幕が掲げられていたのだが、天皇杯は3回戦で終幕。「完全制覇」という目標は儚く潰えた。3回戦以下で大会を去るのは、3年連続であった。

 平日ナイトゲームの悪条件にもかかわらず6000人以上がスタジアムに足を運び、横浜からも大勢のファン・サポーターが駆けつけていた試合でJ2のクラブに敗れる大失態。チームを率いるマスカット監督は試合後の記者会見冒頭で「今日の試合を振り返るのは簡単だ。全員が最後までメンタル的に準備ができていないまま戦ってしまった。どんな大会、試合であろうがこのようなメンタリティで試合をすると、こういう結果になる。今夜は自分たちで敗戦という結果を招いてしまった」と述べた。

 言葉こそ冷静さを保っているように聞こえたが、その表情からは「苦々しい」感情がうかがえ、胸の内では沸々と怒りが煮えたぎっていながら、それを必死に抑えているように見えた。

 「試合の入りが悪く、すべてにおいて、戦術的にも、肉体的にも、技術的にも『セカンド・ベスト』だった。他に理由などない。自分たちでそうしてしまった。受け入れ難いが、我われは結果を受け入れなければいけないし、姿勢や結果に対して責任を負わなければならない。自分も含めて全員だ」

 マスカット監督は会見の中で何度も「セカンド・ベスト」という言葉を使った。日本語に訳せば「2番手」。サッカーの試合は2チームによって行われるから、「2番手」=「ワースト」である。この試合、町田にすべての面で劣っていた。そう認めざるを得ないということだ。

見事にハマった黒田監督の戦術的仕掛け

 お互いにメンバーを直近のリーグ戦から大きく入れ替えていた。横浜FMは週末の川崎フロンターレ戦まで中2日、町田も前週の東京ヴェルディ戦から中3日かつ次のリーグ戦まで中3日という日程を考慮しての決断だろう。

 そんな中で横浜FMは「いつも通り」を貫こうとしていた。一方、町田は「いつも通り」試合に臨む姿勢や基本的な約束事は維持しつつも、短期間で戦術的な「いつもと違う」準備も用意してきていた。目に見える最も大きな変化は[4-4-2]から[3-4-2-1]へのシステム変更だ。

 町田の黒田剛監督は「深津康太、池田樹雷人、カルロス・グティエレスというかなりヘディングに強い選手を後ろに配置した関係上、長いボールを蹴ってくれた方が我われとしてはありがたかった。向こうもメンバーが多少替わっている中で、多少クオリティが落ちるだろうということも計算に入れてやってきた」と語ったが、「3バックでしっかりハメ込む」という指揮官の狙いは、その想定通りにハマることになる。

 「(相手は)両方のセンターバックが開いてGKを中心としたビルドアップ。(自分たちの)シャドーとトップでしっかりとハメ込めば、あとは割と横スライドしなくても大丈夫な状態にありました。

 そこから長いボールを入れてきた時、または中盤のミドルサードのところにしっかりとボールを配球されてくるようであればちょっと考えなければダメかなと思っていたんですけれども、(相手が)ずっと同じような形だったので、こちらとしてはプラン通り守備でハメることができたかなと思います」(黒田監督)

 ミッチェル・デューク、荒木駿太、高橋大悟の3人が猛烈な勢いで相手GKと両センターバックを追い回し、ボールをサイドバックに誘導する。もしそこで奪い切れれば、一気にショートカウンターに移れる。実際に開始5分でサイドバックからボランチへのパスを宇野禅斗が引っ掛け、デュークの先制ゴールが生まれた。

 その後も町田はプレッシングの勢いを緩めることなく走り続けた。サイドバックにプレスを掻い潜られてボールをボランチや前線に展開されても慌てることはない。カルロス・グティエレスがマリノスのビルドアップの出口の1つだったマルコス・ジュニオールを徹底マークし、攻撃を次の段階に繋がせない。結局、J1首位のトリコロール軍団は町田のマンツーマンプレスを打開できず、1本のシュートすら放てないまま前半を終えることになった。

……

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Profile

舩木 渉

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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