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クロアチアリーグを侮るなかれ!セレッソ帰還の新井晴樹がシベニクで残した成長の跡

2023.07.15

セレッソ大阪の今夏における補強第1号は、お馴染みのスピードスターだった。保有元のFCティアモ枚方からレンタル加入したシベニクで、22-23シーズンを戦い抜いたクロアチア帰りの新井晴樹。その成長の跡を現地で本人に取材した長束恭行氏にたどってもらった。

 「22-23シーズン、クロアチアでプレーして成長してパワーアップしました。そんなパワーアップした新井晴樹を爆発させてセレッソ大阪のタイトル獲得に貢献します」

 7月7日、JFLのFCティアモ枚方からセレッソ大阪に期限付き移籍で正式加入した新井晴樹は、クラブの公式ホームページを通して意気込みを語った。2021年7月からの1年間もティアモからの期限付きでセレッソに在籍していたので、彼にとっては事実上の「帰還」になる。前回は[4-4-2]の左サイドハーフの控えとして、Jリーグ3試合を含む公式戦10試合の出場に留まったが、22-23シーズンのクロアチア挑戦で経験値とプレーの幅を飛躍的に伸ばすことに成功した。「パワーアップした新井晴樹」という言葉は嘘偽りのない事実。HNKシベニクでの彼は開幕からレギュラーでフル回転し、クロアチアでしっかりとインパクトを残してきた。

 直近2大会のW杯の成績を通して、クロアチア代表に対する過小評価もようやく薄まってきた感があるが、クロアチアリーグに対する過小評価はまだまだ根強い。「カタールW杯のクロアチア代表には国内組が6人いて、各々が銅メダルに貢献した」という事実には目を瞑り、安直にUEFAカントリーランキングだけを物差しにしたのならば、今年度のクロアチアリーグは55カ国中19位に甘んじている。クロアチアのUEFAカントリーランキングが伸びない理由は「ディナモが3年ぶりCL本戦出場も…UEFA係数に揺れる中堅国、クロアチアの悲喜こもごも」で詳しく書いているが、今の計算方法ではリーグレベルを正しく反映できると到底言い難い。まずは新井の成長ぶりを紹介するより先に、クロアチアリーグに対する無知と偏見は取り除かねばならない。

強度はブンデス以上!5大リーグとの差は「1個半下くらい」

 1991年のクロアチア独立によって誕生したトップリーグは、試行錯誤を重ねながら頻繁にクラブ数を増減させてきた。一時は18クラブまで膨れ上がったが、12-13シーズン以降は10クラブによる4回戦総当たりのフォーマットが定着。カードのマンネリ化に対する批判はあるものの、一定のゲームクオリティは担保されている。傍から見れば、ここ18シーズンで17度のリーグ優勝を果たしているディナモ・ザグレブの「一強リーグ」かもしれない。それでも21-22シーズンはウインターブレイク前に上位3クラブが勝ち点で並んだし、昨シーズンは第30節を終えた時点で6クラブが勝ち点差4の間に収まり、最後までカンファレンスリーグの予選出場枠(3位と4位)を争った。育成力の向上、優良外国人の流入、ローン移籍を活用した有望若手の流動化、コーチングスタッフの世代交代などが重なってクラブ間の実力差は縮まっており、よりコンペティティブなリーグに変貌しつつある。

 スタジアム老朽化による観戦環境の酷さは相変わらずだが、クロアチアサッカー協会は2018年から新たなプロジェクトをスタートした。国内各地のスタジアムに対し、ハイブリッド芝の導入を全面的に援助したのだ。これまでは秋の長雨や冬の冷え込みもあり、シーズンが進むに連れてピッチが劣悪になるのが懸念材料だった。それが現在はトップリーグが開催されるすべてのスタジアムに最新のハイブリッド芝が導入済み。これによりプレースピードが大幅に向上し、トランジションの激しいゲームが展開されるようになっている。

 少し古いデータになるが、「高強度ランキング」(20-21シーズン/選手の総走行距離のうち時速19.8km以上の割合) ではブンデスリーガやリーグ1、エールディビジを上回った。「アクチュアル・プレーイングタイム」(2019年/試合中に実際にプレーが動いている時間)でも欧州35リーグで9位(56.0%)にランクインし、セリエAやプレミアリーグ、ラ・リーガよりも比率が高かった。

 日本人として初めてクロアチアのトップリーグをフルシーズンで2度戦った浦田樹(今夏はバラジディンからマリボルに移籍)は、筆者とのインタビューでこのように語る。

 「プレミアリーグやCLにおけるトップ・オブ・トップの戦いになると『やっぱり差は少なからずあるんだろうな』というのは感じますけど、クロアチアリーグそのものは5大リーグのステップアップリーグ、つまり1個半下くらいの捉え方でいいのかなと思います」

第24節での直接対決後にオフを一緒に過ごした浦田と新井

戦術アライ、新境地開拓、自己開発で「新しい自分を発見」

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Profile

長束 恭行

1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。

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