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リサンドロ・マルティネス、そしてティンバー。モダンなCBを輩出するアヤックスの血脈

2023.07.07

「アヤックス印のCB」は現代サッカーにおける1つのブランドだ。過去にはフェルマーレン、アルデルワイレルト、フェルトンゲンのベルギー勢、近年ではアカデミーの傑作デ・リフトらが有名で、昨シーズンはリサンドロ・マルティネスがマンチェスター・ユナイテッドへとステップアップ。今季はティンバーのプレミアリーグ移籍が噂されている。なぜ、アヤックスのCBは多くのチームから求められるのか――数々の名選手が作り上げてきた伝統を中田徹氏に解説してもらおう。

ビルドアップするCBの源流

 志の高いパス――。そのDNAが脈々とアヤックスのCBに引き継がれている。

 今から20~25年前のこと、アヤックスのCBはストライカーに向かって低く強い縦パスを蹴っていた。MFが敵を引きつけ中盤に縦パスの花道が生まれた瞬間を狙って、CBはくさびのパスを入れていたのだ。出し手と受け手のタイミングが完璧な時には、CBはより正確を期してグラウンダーでくさびを通していた。もし中盤でインターセプトされてしまったら、アヤックスは一気にカウンターを食らってしまう。しかし、パス精度の高さに自信を持つアヤックスのCB陣にとって、CFの胸から下にぶつけるような縦パスはMFのお膳立てもあってリスクの低いプレーだった。

 中央で選手が密集する現代は、かなり条件が整わないとこのようなパスを通すことは難しいだろう。しかし、過去のW杯で見せたアヤックス育ちのCBのキックテクニック、最近の選手たちが繰り出す敵の急所を突くパスを見ると、やはり彼らの志すものは高い。
 
 1966年から71年まで在籍したべリボル・バソビッチ(旧ユーゴスラビア代表)がアヤックスのリベロ第1号。続いてリベロの本場、西ドイツ(現ドイツ)からホルスト・ブランケンブルクを招いた。後に「名リベロ」と呼ばれるようになったアリー・ハーンは1974年西ドイツW杯で初めてこのポジションを務めた。

ブランケンブルク氏のインタビュー&プレー映像(アヤックス公式チャンネル)

 80年代以降にはロナルド・クーマン、フランク・ライカールト、デニー・ブリント、フランク・デ・ブールなどSBやMFをこなす多機能型CBがアヤックスのスタンダードになった。

 1998年W杯準々決勝、対アルゼンチン戦、1-1で迎えた後半アディショナルタイム。F.デ・ブールが50mを超すロングキックを右ハーフスペースに走り込むデニス・ベルカンプに通し、今もなお語り継がれる歴史的ゴールをお膳立てした。2014年W杯グループステージ初戦のスペイン戦では、ウイングバックとして出場したデイリー・ブリントが鮮やかなアーリークロスで、ロビン・ファン・ペルシーのダイビングヘッド・ゴールをアシストした。

 2018年W杯、ベルギー対チュニジアでは、トビー・アルデルワイレルトが低く鋭いミドルパスを敵DF陣の背後に蹴り込み、エデン・アザールのビューティフルゴールにつなげている。この試合でテレビ解説を務めたウェスリー・ソンクは自身のアヤックス時代を思い出しながらコメントした。

 「トビーが出したあの縦パスは、まさにアヤックスのCBらしいもの。彼らは何千本とああいうキックを練習しているんです」

 今、34歳のアルデルワイレルトは今季のベルギーリーグ・プレーオフ最終戦、対ヘンク(2-2)の後半アディショナルタイムに劇的な同点弾を決めてアントワープを優勝に導いた。

 得点への意欲、キャノン砲と呼ぶにふさわしい一発――。それはまるで現役時代のロナルド・クーマンが一瞬乗り移ったかのようだった。

世界へ羽ばたいた「ベールスホットの3人衆」

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アヤックス

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中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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