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鈴木唯人は前を向く。デビュー戦ゴールも「何かが変わったわけじゃない」ストラスブールでの挑戦【現地取材】

2023.04.26

ついに訪れた4月16日のリーグ1デビュー戦でインパクト特大の初ゴール。ストラスブール加入から3カ月、「まだまだもっとやるべきことはたくさんある」と語る21歳の現在地を、フランスから小川由紀子さんがレポートする。

間違いなくまだまだ足りないことばかり」

 今年1月の移籍期間に、清水エスパルスからフランス・リーグ1のストラスブールに6月30日までの期限付きで移籍した鈴木唯人。1月27日に正式に入団し、2月1日のレンヌ戦でメンバー入りして以来、第28節オセール戦を除き毎試合ベンチ入りしていた彼は、10試合目となる第31節アジャクシオ戦の75分、負傷した元フランス代表ストライカー、ケビン・ガメイロに代わってピッチに送られると、わずか10数分後の89分に得点。デビュー戦にして初ゴールを決めた。

 しかも得意のドリブルで相手の守備網を断裁して打ち込んだ、見事なシュートだった。MFイブラヒマ・シソコがセンターサークル付近で相手からボールを奪うと、右サイドを走り出していた鈴木にパス。アジャクシオの選手が3人、4人と鈴木の進路に立ちはだかり、四方八方から足が伸びてくる中を、鈴木はリズミカルなドリブルですり抜け、最後は飛び出したGKの背後に左足でシュートを突き刺した。

 鈴木が投入された時点でストラスブールは2-0とリードしていたが、直後に1点を返され、相手が勢いづいてきた危ない時間帯での価値ある追加点。ストラスブールは3-1で勝利し、前節まで2連敗の流れを断ち切った。

 この活躍により、次の敵地スタッド・ランス戦でも出番があるかと期待されたが、0-2で勝利した4月23日の第32節では、残念ながらチャンスは訪れなかった。

 展開も厳しかった。ストラスブールは開始直後に先制。さらに37分、伊東純也のパスからフォラリン・バログンが決めたスタッド・ランスのシュートがオフサイドで無効となった、その直後の隙を突いて2点目をゲット。相手が猛烈に反撃を仕掛けてきた後半、アントネッティ監督は守備態勢を強化すべく交代枠も守備陣を優先せざるを得なかった。後半に入ってまもなく鈴木はピッチサイドでアップを開始したが、ブロックを作って守りに入ったこの試合の展開では、彼を生かせる場面はなかった。

 「彼は非常に良い選手だ。しかし今日の試合に関しては、状況が厳しかった。すでに何人か若手選手も使っていたしね」

 アントネッティ監督は試合後の会見で、鈴木の起用に至らなかった理由をこう説明している。

 鈴木も、そうしたチーム状況はよく理解していた。

 「交代で出られないのには要因があるわけで、自分が何かしらを変えないといけない。間違いなくまだまだ足りないことばかりなので、そこは自分でしっかり受け止めてやるしかないです。今、チームが本当に厳しい状況で、勝つことが一番なので、監督の判断に僕は反対するわけではないですし、今日は2-0でちゃんと抑えて、監督は思い通りの結果を残している。自分はそこに食い込めるようにやるしかないですし、自分がそうした行動や取り組みをしていけば、監督にとってもチームにとってもプラスであると思うので。今は本当にチームが一番で、自分が結果を残すことは個人としてはとても重要視していますけど、今日勝ったことは良かったと思います」

スタッド・ランス戦のアウェイスタンドに詰めかけたストラスブールのサポーター。伊東純也はこの試合、リーグ21戦連続のスタメンでフル出場している。なお、負傷離脱中でメンバー外が続く川島永嗣は、前節アジャクシオ戦後には文末の動画のようにロッカールームで鈴木を労い、自身のInstagramで「でっかい息子がようやくリーグアンデビュー戦からの初得点」「自分の事のように嬉しい日!」「おめでとう!!」「そしてまだまだここから」と祝福した(Photos: Yukiko Ogawa)

新監督アントネッティは「将来的にもとても期待できる」

 鈴木が語った「本当に厳しいチームの状況」とは、降格のピンチだ。

 ストラスブールは昨シーズン、最終節でマルセイユに敗れて6位に終わったが、当時41歳の気鋭の指揮官ジュリアン・ステファンの下、シーズン後半戦は常にEL出場を狙えるポジションに位置した大健闘チームだった。ところが、監督や主力のほとんどが残る同体制だったにもかかわらず、今シーズンはモナコ戦での黒星でスタートすると、初勝利を挙げたのはなんと10月の第10節(アンジェ戦)。その後も勝ち点を重ねられず降格圏内に沈み、新年1月2日の第17節トロワ戦(●2-3)を最後に、ステファン監督は解任された。……

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ストラスブールフランスリーグ1清水エスパルス鈴木唯人

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小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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