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【特別対談】らいかーると×飯尾篤史:壮絶なるネタバレーーチーム森保にアジアカップ決勝で何が起きていたのか

2023.03.09

『森保JAPAN戦術レポート』発売記念企画#4

2月9日発売の『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』は、大ヒット作『アナリシス・アイ』の著者・らいかーると氏がアジア最終予選からカタールW杯本大会までの日本代表全試合を徹底分析しながら、森保ジャパン進化の軌跡と日本サッカーの現在地をたどっていく一冊だ。その刊行を記念して、森保ジャパンもチーム立ち上げから追いかけてきた長きにわたって日本代表を取材するライターの飯尾篤史氏と著者の対談を、本書から一部特別公開!

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「日本人はなかなか主体的にプレーできない」への挑戦

らいかーると「まずは森保一監督に対するメディアの空気感を、監督就任からアジアカップ、東京オリンピック前後、アジア最終予選中、カタール・ワールドカップ本大会まで、イベントごとに聞かせてもらいたいです。というのも、ハリルホジッチ監督のときってメディアの評価にかなりバラツキがあったじゃないですか。そうなると書き手の都合の良いように解釈がなされてしまいますよね」

飯尾「いきなり難しいテーマですね(笑)。就任からアジアカップまでは、一般のサッカーファンと同じようにメディアもポジティブだったと思います。中島翔哉、南野拓実、堂安律の3人を2列目に抜擢したフレッシュ感と、新しい時代が始まりそうな雰囲気があったし、ウルグアイを4-3で撃破するなど、エンターテインメント性に富んだゲームもあった。最初のターニングポイントは2019年1月、アジアカップ決勝のカタール戦ですよね。スペイン人監督を招聘したカタールがすごくロジカルなサッカーをやってきて、日本は後手を踏んで完敗を喫してしまった。特に前半、3バック+アンカーでビルドアップしてくる相手に対して日本は2トップでプレッシングをかけて、まったくハマりませんでした。2点のビハインドを負うまで修正できなかったということで、メディアの中でも森保さんの監督としての力量を疑問視する声が高まったと思います」

アジアカップ決勝前日にトロフィーの前で敵将フェリックス・サンチェス監督と握手を交わす森保監督

らいかーると「サッカーの質でカタールに置いていかれたという事実は衝撃的でした」

飯尾「そこから先もサッカーファンと同じような空気感だったんじゃないかと思います。20年11
月のメキシコ戦では、前半は日本のペースで進んだものの0-0で折り返すと、後半に入ってメンバーとシステムを変えてきたメキシコに主導権を握り返され、2点を連取されて敗れてしまった。このゲームでも修正力が問われたし、東京オリンピックの準々決勝のニュージーランド戦で、相手が途中から中盤がダイヤモンドの4-4-2に変えてくると、まったくハマらなくなって最後まで修正できなかった。そこでも森保さんの手腕に対して疑問の声は出ていたし、アジア最終予選でオマーン、サウジアラビアに敗れたときにはかなり厳しい論調の記事が溢れていました」

らいかーると「そうした中でも飯尾さんは森保監督支持のスタンスだったと思います」

飯尾「支持というか、森保さんは就任会見で『どんなサッカーをしたいか』と聞かれて『対応力を持ち、臨機応変に、状況に応じて流れを掴むことを選手たち自身が判断して選択できるサッカーをしたい』と語ったんですね。その2カ月後にインタビューをする機会があったんですけど、そこでは『(ロシア・ワールドカップの)ベルギー戦で2点リードを奪った際、5バックにして逃げ切ろうという考え方があったけれど、西野監督に進言できなかったことを悔やんでいます』と言った一方で、『ただ、あのような状況になったとき、ピッチ内で選手が対応できないと、その先には行けない』とも言った。そのとき、この人は主体的に戦えるチームを作っていきたいんだなと確信して。じゃあ、その信念にブレはないか、本当にそういうチームになるんだろうか、という視点で4年間見てきました。

 というのも、ロシア・ワールドカップの前、岡田武史さんにインタビューをした際に『日本人はなかなか主体的にプレーできない』という話をされていて。『指示待ちだったり、言われたことに縛られたり。そうした日本人の殻を破らないと、次のステージには行けない』と言われて、僕自身、すごくピンと来たんです。確かにそうだなと。そうしたら、森保さんもそこを問題視していた。50年までに日本がワールドカップで優勝することを目指すなら、この4年間でそこに着手するチャレンジをしてもいいんじゃないか、という考えでした」

ドイツ戦とスペイン戦に生かされたカタール戦での教訓

らいかーると「その点で伺いたいのが、アジアカップ決勝のカタール戦です。ピッチ上の問題を自分たちで解決する力を身に付けさせるために、監督はあえて修正せずに選手に任せたんじゃないか、という見方があるじゃないですか。あれって、どうなんですか?」

飯尾「30分過ぎに大迫勇也がベンチの指示を仰ぎにきたとき、森保さんは『サコと拓実が縦関係になって、両サイドハーフを前に出したらハメられるよ』と伝えて修正をした。のちにインタビューで森保さんは、カタールがああやってくることはわかっていたから、前日にその話はしていたと。でも、試合が始まると、うまく対応できなかった。森保さんとしては伝え方に問題があったと反省していましたが、答えを持っていたのに、すぐに手を打たなかったのはなぜか。主体性や対応力を身に付けさせるためにも、選手による修正を期待したんじゃないか、というのが当時の僕の見立てでした。

 というのも、森保さんは就任会見で西野さんから受けた影響について『西野さんは我慢することや見守ることがすごくできる人。普通であれば、やってしまったり、言ってしまったりする場面で、選手たちのやる気を認め、急かしたりせず、チームが成長するために必要なことを働きかけていった』と話していたからです。だから、森保さんも待ったんじゃないかと」

らいかーると「ただ、そこで思うのは、アジアカップ決勝でそれをやるんだということ。それは理解が難しいというか。準備したことがうまく落とし込めていなかったとしても、前半のうちに修正できると思うんですよね。『答えは教えているから解決できるよね』って放置するのは、すごく怖いと思うんです。結果が出ないこともあるわけじゃないですか。実際、カタール戦は負けましたし。アジアカップの結果よりも選手の自主性待ち、自分たちで解決する能力待ちの姿勢をとったと。それが正しいのか、正しくないのかと言ったら、カタール・ワールドカップの結果は別として、僕は正しくないのかなと思ってしまうんですよね。育成年代ではよくあることだと思います。4種から2種までの指導者が、選手にいろんなことを気づいてもらいたくて、あえてシステムを噛み合わせたり、マッチさせたりすることは。それをフル代表の、しかもアジアカップ決勝でやるんだ、というのは驚きというか」

飯尾「その指摘に関しては、おっしゃる通りだと思います。先ほどの『書き手の都合の良いように解釈がなされる』ということで言えば、僕の仮説通り、『2点目を奪われた。選手たち、どうするかな? お、サコが来た。じゃあ、答えを教えよう』なんて余裕は実際にはなかったと思います。森保監督は前日に伝えたんだから、やれるはずだ、と思っていた一方で、うまくいっていない状況に対して、いつ修正するか、どう伝えるか、様子を見ているうちに2点目を奪われてしまった、ということなんだと思います。そこは森保さんの二面性というか、主体的なチームを作りたい、選手たちに自主性を発揮できるようになってほしいという想いとは裏腹に、森保さん自身も素早く手が打てなかった、というのが当時の現実だと思うんですよね。

 メキシコ戦も、ニュージーランド戦もそうですけど、そうした数々の失敗から森保さん自身も学んでいったから、カタール・ワールドカップのドイツ戦のハーフタイムにシステムを変更したり、スペイン戦の68分、ジョルディ・アルバとファティが左サイドに投入されたら、すぐに冨安健洋を右ウイングバックに入れて対応するような采配ができるようになったんだと思います」

ファティのクロスに対してブロックを試みる冨安

らいかーると「なるほど。もうひとつは、正直なところ、アジア最終予選の前までは森保ジャパンの試合内容が薄いことが多かったじゃないですか。あの薄さをどう見るか。そこもあえて余白を大きくすることで、自主性や臨機応変さを身に付けさせようとしたんでしょうか」

飯尾「どこからどこまで計算なのか、わからないところがあるんですよね。西野さんのチーム作りを目の当たりにして、こういうやり方があるんだ、こういうやり方をすると選手たちが主体的にチームに関わるようになり、イキイキとしたチームになるんだ、と衝撃を受けたのは確かだと思います。だからこそ、選手に任せる部分は大きかったと思いますけど、一方で、欧州でプレーする選手たちに、自分は世界のサッカーを知らないから教えてほしい、アイデアや考えを聞かせてほしい、という想いがあったのも事実。そこもまた西野さんと同じなんですけど。

 とはいえ、実際にはアジア最終予選が終わるまで選手間で活発なディスカッションは起きていないし、特にロシア・ワールドカップを経験していない若い選手たちはどこまで意見を言っていいものか、そもそもそんなチーム作りの手法があるなんてこともわからないわけで、吉田麻也をはじめとした一部の選手しか積極的な意見は言っていないと思います。だから試合内容が薄かった部分はあるでしょうし、純粋に時間がなくて詰め切れなかった部分もあると思います」

「選手たちの求めるものとのズレと欧州基準」「世界の流れに乗っていた日本の4-3-3」「5-4-1の重用は計算通りだったのか?」「日本代表選手たちの戦術レベルは高いのか、低いのか?」――様々な試行錯誤と紆余曲折のすえ、カタール・ワールドカップでベスト16 という結果に終わった第1次森保ジャパンを振り返った対談の続きは『森保JAPAN戦術レポート』で!

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Edition: YOJI-GEN
Photos: Getty Images

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Profile

飯尾 篤史

大学卒業後、編集プロダクションを経て、『週刊サッカーダイジェスト』の編集記者に。2012年からフリーランスに転身し、W杯やオリンピックをはじめ、国内外のサッカーシーンを中心に精力的な取材活動を続けている。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』などがある。

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