昨季はスイス人監督レネ・ヴァイラーを招へいするも8月に解任、チームは2年連続の4位に終わった。その後を継いだ岩政大樹監督の下で7年ぶりのタイトル奪還を狙う今季、プレシーズンマッチではJ2の徳島ヴォルティス、ファジアーノ岡山、FC町田ゼルビア、水戸ホーリーホックに敗れるなど、鹿島アントラーズの試行錯誤は続いている。敵地で京都サンガF.C.と対戦する本日のJ1開幕戦(14時キックオフ)を前に、41歳の指揮官が目指すもの、その「変幻自在」なチームの現状を、おなじみの敏腕番記者、田中滋氏に伝えてもらった。
いろんな個性を、展開によって、変幻自在に
今季より、初めてシーズンの最初からチームを率いることになった岩政大樹監督が、最初に手をつけたのはプレスのかけ方だった。[4-3-3]の並びに見える形から、どの方向から限定して相手チームにプレスをかけていくのか繰り返し確認する。相手のCBに対して枚数を合わせていくプレッシングは中盤からの押し上げが必須。どのポジションの選手が前に出て枚数をそろえるのかを、シーズンの最初で共有した。
このオフ、サイドで単騎突破を仕掛けられる藤井智也(←サンフレッチェ広島)や、東京国際大学でもドリブル突破に光るものを見せた師岡柊生が加わり、松村優太くらいしかいなかったウインガータイプの層を分厚くしたことから、いよいよ鹿島も[4-3-3]を導入するのか、と思われたが、日数が経過するに従って違う側面が見えてくる。岩政監督が導入したのは[4-3-3]であり、[4-2-2-2]であり、[4-2-3-1]であり、[4-1-4-1]でもある。開幕戦を前にすると[3-2-5]の形さえ見られるようになった。
つまり、狙うところは変幻自在。1つの形にはめ込むのではなく、相手の戦い方や戦況、時間帯によって姿、形を臨機応変に変えて戦っていく。そうした狙いがあることが次第に明らかになっていった。
狙いとするサッカーを岩政監督は次のように説明する。
「僕は『全局面を支配する』ということを選手たちに言っています。すべてをハイペースで行うというよりも、相手がボールを持っている時に自分たちがペースチェンジを行いながら、プレスをかけたり、少し我慢して守ったり、攻撃の時も相手を引きつけてビルドアップしたり、あるいは速い展開で崩しに行ったり。いろんなメンバーも、いろんな個性がそろいましたので、それをメンバーによって変えたり、展開によって変えたりということを変幻自在にやっていくということになると思います」
しかしながら、その境地に達するのは簡単ではない。プレシーズンではJ2クラブ相手に勝つことができない試合が続いた。監督が意図する選手の配置を理解し、プレーに落とし込める選手は少なく、選手同士の意図が合う時間もあることはあるが、少し試合状況が変わると、判断を変化させてそれをチームで共有するのが難しくなる。今のJリーグで90分間同じ展開が続く試合などあり得ない。15分ほどで変わっていく状況を読み解き、それに合った戦い方をピッチ内で共有できるようになるには、かなりの時間がかかるだろう。
「お前たちのオーダーメイドを作る」
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Profile
田中 滋
サッカーライター。08年よりサッカー専門新聞『EL GOLAZO』にて鹿島アントラーズを担当。有料WEBマガジン『GELマガ』も主催する。著書に『世界一に迫った日 鹿島アントラーズクラブW杯激闘録』など。