SPECIAL

東大ア式蹴球部テクニカルユニットのデータ活用術。パッキング・レートに潜むミランの課題とは【チェルシー 3-0 ミラン】

2022.10.11

2021-22シーズンにはオーストリア2部インスブルックと提携し試合分析を行うなど、その分析力が高く評価されている東大ア式蹴球部テクニカルユニット。今回はその現役メンバーであるきのけい氏、高口英成氏、東太陽氏に、欧州トップレベルの試合の分析を依頼。CLのチェルシー対ミランを、独自に集計したデータを基に紐解いてもらった。

 CLグループステージ第3節注目の対戦カードの1つとなった、チェルシー対ミラン。欧州王座奪還を目指すチェルシーは開幕節のディナモ・ザグレブに完封負けを喫するなど調子が上がらず、トーマス・トゥヘルを解任してグレアム・ポッターを招聘してチームの立て直しを図っている。一方、昨季イタリア王者となり、CLでの躍進も目指すミランはキャプテンのダビデ・カラブリアやマイク・メニャン、テオ・エルナンデス、ジュニオール・メシアスら主力が負傷により欠場。どちらも難しい状況の中行われた一戦は、ホームのチェルシーが強さを見せつける格好となり3-0という結果に終わった。

 本稿では、リターンマッチとなる第4節に向け修正が必要となるミランの視点に立って、我われ東大ア式蹴球部テクニカルユニットが普段の活動において集計しているデータを用いながら試合分析を行った。

パッキング・レートに見るポゼッションの有効性

 ステファノ・ピオーリが作り上げたミランは若い選手を主体とした強烈なハイプレスを軸とするチームであり、基本的にはボールを保持して試合の主導権を握ることを志向している。

 UEFAの公式スタッツを見てみると、この試合のボール保持率は(以下チェルシー対ミランの順)46%対54%、パス成功率(パス成功数/パス総本数)は85%(421/493)対82%(401/490)となっており、決してスコア以上に大差がついたというわけではない。しかしシュート本数は10対6、そのうち枠内シュート本数は4対1と、ポゼッションではやや下回るチェルシーが試合を優勢に進めていたことを示唆する。

 ミランは集中した試合の入りを見せた。マンツーマンに近い強度の高いハイプレス(詳しくは後述する)を仕掛け、チェルシーが蹴り出したボールを前向きに回収する。立ち上がりはトランジションの多い展開となったが、ボールを握る時間はミランの方が長く、チェルシーもまた下から繋ぐミランをハイプレスで迎え撃った。

 15分を過ぎたあたりから、ミランの抱える問題が表面化し始める。ミランは[4-2-3-1]をベースに、チーム随一のボールプレーヤーであるボランチのイスマエル・ベナセルが幅広く動き回りボール保持を安定させるタスクを担っており、この日は圧の高いチェルシーFWの手前、ミランのCB間に落ちるサリーダ・ラボルピアーナによってプレス回避を試みていた。

 しかし[5-2-3]のチェルシーの3トップとミランの後方3人は配置が噛み合う格好となり、ポジショナルプレーの観点から述べると位置的優位を得ることが難しくなる。加えてミランの両CBは開き過ぎて選手間の距離が遠くなっており、ボールの移動中に横スライドする相手のプレスラインに沿うパスばかりになってしまう。プレーの方向を変えられず、最終ラインの15mほど前の高さで幅を取るSBにパスが渡るとボールの循環が詰まるシーンが徐々に目立つようになっていった。

ミランのボール保持の図解

 さらに、右SHラデ・クルニッチとトップ下のシャルル・デ・ケテラーレの2人でチェルシーのダブルボランチの脇と間のスペースを使いたいという意図があったが、開いたCBの2人、特に右サイドのピエール・カルルから繰り出される縦パスやロングボールは、ポッターの下で初起用となったカリドゥ・クリバリの迎撃やチアゴ・シウバのカバーリングによって無効化されていた。前に出たCBの背後をタイミング良く突く連動性も見られず、相手のプレスラインを越える「効果的なパス」の多くが失敗に終わっていた可能性が高い。結局、この試合におけるビッグチャンスと枠内シュートは、ロングカウンターでラファエル・レオンの超絶技巧によって生み出された前半アディショナルタイムの1つのみに終わった。

 こうした主観的、定性的な分析を客観的、定量的な分析で裏付けるため、我われはこの試合のパッキング・レートのスコアを算出した。

 パッキング・レートとはサッカーの前進に関わるプレーを評価する指標で、端的に言えば「1本のパスで何人の相手選手を通過することができたか」を表す。弊部の集計方法では「出し手」としてのスコアと「受け手」としてのスコアの両方を算出している。例えば、選手Aが選手Bに対して、相手選手を縦方向に5人越えるパスを成功させた場合、選手Aの「出し手」のスコアに5ポイントが加算され、選手Bの「受け手」のスコアに5ポイントが加算される。

 さらに「受け手の身体の向き」によってスコアの重みを変える。つまり、「受け手」が前を向けないようなパスは前を向けるパスと比較して効果的とは言えないため、0.2倍した値をスコアとして加算する。先ほどの例で言えば、選手Bが前を向けなかった場合、選手Aの「出し手」、選手Bの「受け手」のスコアにはそれぞれ5×0.2=1ポイントが加算されるということである。

 なお、運ぶドリブルも相手のプレスラインを越える有効な手段であるため、パッキング・レートの集計に含んでいる。選手Cが運ぶドリブルによって相手選手を縦方向に2人越えた場合、選手Cの「出し手」「受け手」両方のスコアに2ポイントずつが加算される。

図1-1:各選手のパッキング・レート
図1-2:各選手のパッキング・レート
図2:チーム全体のパッキング・レート(時系列)
図3:「受け手のゾーン」ごとのパッキング・レート

 図1-1、図1-2は両チーム各選手のパッキング・レートのスコア(「出し手」/「受け手」)、図2はチーム全体のパッキング・レートのスコアが時系列上でどのように増えていったかをプロットして比較したもの、図3は最終的なチーム全体のパッキング・レートのスコアを「受け手のゾーン」によって3つに割り振った、ゾーンごとのスコアを表している。……

残り:3,707文字/全文:6,246文字 この記事の続きはプレミア会員
のみお読みいただけます

プレミア会員3つの特典

  • 会員限定のオリジナル
    記事が読み放題!

  • 電子版バックナンバーが
    読み放題!

  • 雑誌最新号を毎月
    ご自宅にお届け

1/31まで

footbalista 特製 2023カレンダー プレゼントキャンペーン実施中

TAG

チェルシーパッキング・レートミラン

Profile

東大ア式蹴球部テクニカルユニット

「社会・サッカー界に責任を負う存在として日本一価値のあるサッカークラブとなる」という存在目的の下、「関東昇格」を目指す東大ア式蹴球部(サッカー部)の頭脳としてサッカーの分析を行いチームをサポートするユニット。2011年に創設され、約20名が分析専門のスタッフとして活動している。近年は先進的なデータ分析やサッカー界への発信に意欲的に取り組んでおり、海外のプロクラブと提携するなど活動の幅を広げている。