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低ポゼッションにもかかわらず少ない被シュート数。ウニオン・ベルリンの躍進を支える守備戦術のカラクリ

2022.08.28

昨季リーグ戦3位のレバークーゼンと4位のRBライプツィヒがスタートダッシュに失敗する中、4試合を終えて首位バイエルンと並ぶ勝ち点10と絶好のスタートを切ったウニオン・ベルリン。昨季はCL出場圏に勝ち点1まで迫るなど充実一途のチームが実践する、ボールは持たずとも被シュートを抑える戦術の仕組みに迫る。

 スカッドの市場価値はブンデスリーガ王者バイエルンの10分の1、リーグ内でも14位。突出した選手こそいないものの年々、力をつけているのがウニオン・ベルリンだ。

 ウニオンは2018-19シーズンに1部昇格を果たすと、翌シーズンからは11位、7位と着々と順位を上げ、昨シーズンにはついにEL出場権を手にする5位フィニッシュを決めた。

 チームを指揮するのは56歳のスイス人、ウルス・フィッシャーだ。彼は1部昇格を決めた2018-19シーズンに就任しており、まさにウニオン躍進の立役者と言える。

 フィッシャーのサッカーにおいて何よりも求められるのはハードワーク。最大の武器はそれをベースとした守備戦術だ。泥臭く、堅固な守備を構築する彼らのサッカーは、ビルドアップの質を高め効率良くゴールを目指す他の上位陣と一線を画す。

チームを率いるウルス・フィッシャー監督

 ここからは成長を続けるウニオンがどのようなサッカーを展開し、いかにして勝ち点を積み上げているのかを紐解いていく。

スタッツが象徴するスタイル

 ウニオンはどのようなサッカーを展開しているのか? それはスタッツに如実に表れている。

◆2021-22シーズン
被シュート本数の少なさ:リーグ5位
失点の少なさ:リーグ3位
走行距離:リーグ3位
ロングボール本数:リーグ2位
クロスボール本数:リーグ4位
ボール支配率:リーグ15位

◆2022-23シーズン(第3節終了時点)
空中戦勝利数:リーグ3位
走行距離:リーグ3位
パス成功率:リーグ16位
ボール支配率:リーグ17位

 支配率の低さと被シュート本数の少なさの関係は興味深いスタッツである(後述)。

 採用するシステムは[5-3-2]。ハードワークをベースとした堅い守備ブロックで相手の攻撃をしのぎ、ロングボールを主体に手数をかけずにゴールに迫るスタイルだ。

 センターサークルの先端近辺をプレス開始位置に定め、相手がそこまで前進してくるとすかさず全体で連動して激しくプレッシャーをかけ、ボールを奪うと時間をかけずに早めにロングボールを前線に送り込んでいく。

ロングボールとプレッシング

 ロングボールのターゲットとなるのはFWの2人、アメリカ代表ジョルダン・シエバチュとスリナム代表シェラルド・ベッカーだ。

 ヤングボーイズから新規加入したシエバチュは191cmという恵まれた体躯を生かした空中戦を得意とし、今季第3節時点でデュエル勝利数リーグ5位、空中戦勝利数3位、2ゴールを記録している。

 180cmでスピードのあるベッカーはサイドに流れるプレーとシュートへ持っていく鮮やかな身のこなしを武器に今季スプリント数リーグ5位、トップスピードはリーグ8位、2ゴール2アシストを記録(第3節時点)している。地上戦における最重要プレーヤーだ。

 高さとスピード、タイプの異なる2トップがウニオンの攻撃を牽引している。特にシエバチュは守備にも非常に積極的で、時に自陣ペナルティエリア付近までプレスバックをかけることができる。

 ウニオンの攻撃面でのスタッツで特徴的であるのがロングボールの他に、ボール支配率の低さである。ビルドアップの整備を着々と進める上位陣に対し、ウニオンはほとんどパス回しをせずに前線にロングボールを送り込む。後方からのフィードは特別精度の高いものではなく、無謀なチャレンジも少なくないため、支配率は極めて低い。

 彼らのロングボール戦術の特徴は、「セカンドボールを拾った相手選手」に対するプレッシングだ。……

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ウニオン・ベルリンウルス・フィッシャー

Profile

とんとん

1993年生まれ、長野県在住。愛するクラブはボルシアMG。当時の監督ルシアン・ファブレのサッカーに魅了され戦術の奥深さの虜に。以降は海外の戦術文献を読み漁り知見を広げ、Twitter( @sabaku1132 )でアウトプット。最近開設した戦術分析ブログ~鳥の眼~では、ブンデスリーガや戦術的に強い特徴を持つチームを中心にマッチレビューや組織分析を行う、戦術分析ブロガー。

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