近年、Jリーグにもポジショナルプレーが浸透してきているが、そのトップランナーの1つがサガン鳥栖だろう。選手が入れ替わりながらもサッカースタイルは不変で、継続性を持った強化を進めているのも特筆に値する。「J1で最もポジショナルプレーを身につけているチーム」と彼らのサッカーを高く評価する西部謙司氏が、今シーズンの試行錯誤を分析する。
[3-4-2-1]→[4-2-3-1]で、シュート減?
25試合を終えた時点でのサガン鳥栖の順位は7位。試合の消化数にばらつきがあるので暫定的な順位になるが、この順位は鳥栖の実態を表しているとも表していないとも言い難いものがある。
ボール支配率はリーグ5位、パス数と得点も上位だ。5敗は首位の横浜F・マリノスに次ぐ少なさ。順位が上がらない理由は引き分けの多さである。12試合のドローはJ1最多なのだ。
およそどの試合も優勢に進めているが決め手が弱いという印象はある。シュート数はリーグ下位で、ほとんどの攻撃スタッツが上位にある中でシュート数だけが低い。攻撃回数のわりにチャンスの数が少ないのだ。
ポゼッションは高い、パスの数も多い、しかしシュートは少ない。得点数は36点でリーグ6位。ある意味、効率よく取れているとも言えるが、敵陣に攻め込みながらも崩せずにいると言った方がいいかもしれない。
フォーメーションが[3-4-2-1]から[4-2-3-1]に変わっている。3バックも使うが、基本は[4-2-3-1]になった。おそらく飯野七聖の移籍(ヴィッセル神戸)に関係がある。右サイドでダイナミックな縦への推進力を生み出していたウイングバックがいなくなった代わりに補強したのが長沼洋一だった。好調の岩崎悠人のポジションを1つ上げ、長沼とともに左右からサイドアタックを仕掛ける攻撃がメインになっている。
フォーメーションが変化しても、全体の印象がそれ以前と変わらないのは鳥栖らしいところではあるが、微妙な変化はあり、それがシュート数の少なさにつながっているのかもしれない。
位置的優位と数的優位は、引いている相手には効力が薄い
その変化とは何かの前に、鳥栖の現状がどういったものかを説明する必要があるだろう。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。