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【前編】サガン鳥栖のGPS活用術。ゲームモデルから導かれるフィジカルデータの「基準」とは?

2022.07.20

野田直司(サガン鳥栖フィジカルコーチ)インタビュー(前編)

数多くの主力が抜けても、昨季までのスタイルを維持して結果を残しているサガン鳥栖。今やJリーグ有数となったアカデミーの選手たちもスムーズにトップチームの戦力になっていることも特筆に値する。そうしたクラブとしての一貫性を支えているのは、「サガン鳥栖モデル」と呼ばれる明確なゲームモデルがクラブ内で浸透しているからだろう。そんな彼らはGPSデータの活用に関しても先進的な取り組みを行っている。フィジカルコーチの野田直司氏に話を聞いた。

前編はGPSを導入した目的と経緯、ゲームモデルとの関連付けや注目している指標、パフォーマンス向上とケガの予防をどう達成するのか、アカデミーとの情報共有などについて解説してもらった。

GPSデータの利点は「基準」がある強み


——まず野田コーチのお仕事の内容を教えてください。

 「基本的にはチームのコンディショニングトレーニングとチーム全体のスケジューリング、ピリオダイゼーションのところを担当しています。具体的にはゲームにおけるパフォーマンス分析やコンディショニングのモニタリング、個々の身体的な部分の強化を行っております」

メディシンボールを抱えて指導する野田コーチ(Photo: ©SAGAN DREAMS CO.,LTD.)


――今回は、まさに野田コーチが担当しているであろう「サガン鳥栖のGPS活用術」がテーマになります。GPSを導入したタイミングと目的から教えていただいてもよろしいでしょうか?

 「トップチームが導入したのが2019シーズン頭から、アカデミーは昨年からになります。トップチームは以前から、走行距離や心拍数を測る腕時計タイプを使っていましたが、練習時の走行距離とレスト(休憩)をどれくらい取るかを把握するために、心拍数を計測したかったのが目的です。そして2019シーズン前に少し予算を増額して最良のものを模索していく中で、Knowsさんから良いお話をいただいて今の機器の導入が決まりました。鳥栖はアカデミー選手の練習参加が多く、ルヴァンカップなどカップ戦にも2種登録の選手が出場するなど行き来が多いので、トップチームとアカデミーとで運動負荷などのフィジカルデータに関して共通言語でコミュニケーションを取りたいということで、アカデミーにも導入することをクラブにお願いしました」


——GPSを使うクラブが増えてきましたが、現場でどう生かすかはまだ試行錯誤があると聞きます。導入当初で苦労したことはありましたか?

 「導入当初に最も測りたかったのは、ティム・ギャベットという方が提唱した理論で『ACWR』という、直近4週間の運動負荷からトレーニングの運動負荷を計測できる式があるのですが、その数値ですね。運動負荷のモニタリングをするためには毎日データを取る必要があるので、導入するからにはトレーニングから試合まで全部やりたいというのがありましたが、(計測用の)ベストを着た際の選手のフィーリングなどもあって最初はトレーニングのみで、2019シーズンの公式戦では使用しませんでした。ただ、1年間やってみて選手たちもだいぶ慣れてきて、それまで使ってきた胸にバンドをつけるタイプよりもベストタイプの方がフィーリングも良かったみたいです。デバイスの大きさや重さが問題になることもありますが、移籍してきた選手たちも『重さを感じない』と言っていて、2020シーズンからは公式戦でも使用していくことになりました」


——KnowsのHPではサガン鳥栖のGPSデータが公開されていますが、それはどういう意図なのでしょうか?

 「Knowsさんのユーザーは高校年代など育成年代が主に活用されていると聞いて、純粋に少しでも育成の役に立てればというのがあります。僕らも使い勝手など、いろいろフィードバックさせてもらいながら現場で使いやすいようにブラッシュアップしてもらっていますし、自分たちのデータが現場の指導者や先生方の助けになればと考えました」


――個別の具体的な数値をここまで公開されるのは、すごい判断だなと感じました。

 「公開している走行距離やスプリントなどはあくまで結果の数字であって、僕らにとって大事なのはその値を出せるまでのプロセスですから。J1のプレー強度の基準がこの値ですよ、というのが明らかになれば、育成年代との具体的な差が見えてきますし、みなさんの刺激になればいいのかなと思っています。自分たちにとって大事なのは、その数字を出せるようにするためのトレーニングですから」


——データの「SI」「HI」はどういう指標なのでしょうか?

 「中強度ランニング以上が『SI』で、高強度ランニングが『HI』になります。その上が『スプリント』で、『SI』と『HI』は全体の走行距離に対してのパーセンテージを出しています」

Knowsのサイトより引用


――野田コーチがGPSのフィジカルデータで特に重視している数字はありますか?

 「SIもHIもですが、特に注目しているのは『加減速』ですね。昨シーズンからかなり重視しています。去年1年間、自分たちのゲームモデルの中で『このポジションタスクだと加減速がこれくらいいるよね』というのが見えてきました。今年は監督が変わってゲームモデルも少しマイナーチェンジしましたが、去年の数字をもとに見ていくと、やはりそれぞれのポジションタスクの中で、加減速の数字の基準がわかります。そうした客観的に示される量的な部分と、指導者が試合中に良かったと感じる質的な部分がある程度マッチするラインが見えてきた感がありますね」

数字で可視化される「サガン鳥栖モデル」


——シーズン前の下馬評としては多くの主力が抜けたことで「今年の鳥栖はきついんじゃないか」と言われてスタートしましたが、選手が変わっても鳥栖のサッカーのクオリティは維持されているし、結果も残している。その秘密の一端が、こうした客観的な「基準」に基づくトレーニングにあるのかなとお話を聞いていて思いました。

 「我々には『サガン鳥栖モデル』というクラブ全体が積み上げてきた明確なゲームモデルがあります。川井監督が昨年までのベースを高いレベルで理解した上で継続していただいて、そこからさらにご自身のアイディアを上乗せする作業を明確に示してくれたのが大きかったです。川井監督がもたらしてくれたプラスアルファが、我々が昨シーズンから感じていた課題にすごくマッチした部分もあったので、そのままの延長線で鳥栖のサッカーを発展させていくことができました。新加入選手もキャンプで我々のゲームモデルを理解して、どう実行すべきかをコーチングスタッフともよく話し合ってくれました。全員が協力してグラウンド上でのアクションやその後のフィードバックまでを研ぎ澄ますことができたのも大きかったです」


――実際、鳥栖のトレーニングではどのようにGPSの数値を活用されているんでしょうか?
……

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サガン鳥栖戦術野田直司

Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。