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「ゲームモデルは育成環境に過ぎない」サガン鳥栖モデルを支える3つの柱

2020.10.23

サガン鳥栖が描く「AI×育成」の未来像#2】

サガン鳥栖アカデミー・白井裕之ヘッドオブコーチングインタビュー前編

近年様々なシステムやサービスとして社会に普及しつつあるAI(人工知能)は、将棋やチェスでも活用が進んでおり、その波はスポーツの世界にも押し寄せている。サッカー界でもマンチェスター・シティを筆頭に世界中のクラブがこぞって導入を試みているが、いち早く育成現場での運用を発表したのは日本のサガン鳥栖だった。

すでにユース年代で好成績を収めており、トップチームにも松岡大起らアカデミー出身者を多数輩出している鳥栖は、「育成型クラブ」への転換期にある。その歩みを加速させるべく、2018年1月から提携しているアヤックスに続き、今年5月にAI企業のLIGHTzとパートナー契約を締結した。名門のノウハウと最先端のテクノロジーの融合は、どのような化学反応を起こすのか。新プロジェクトを主導する3人へのインタビューを通じて、鳥栖が描く「AI×育成」の未来像に迫っていく。

今回は、アヤックスでアナリストやスカウトを歴任した白井裕之ヘッドオブコーチングに、「サガン鳥栖モデル」誕生の経緯を教えてもらった。

「共通言語」でアナリストの可能性を最大化

――まずはLIGHTzとのプロジェクトに白井さんが関わることになったきっかけから教えてください。

 「私がオランダで活動していた時、一時帰国して都内で開催したセミナーにLIGHTzさんの乙部(信吾)社長が参加されていたんです。それがきっかけで、フットボリスタさんで出版した書籍『オランダ式サッカー分析』も読んでいただいて、サッカーの分析に興味を持っていただきました。そのLIGHTzさんが去年、有田焼などの伝統工芸品を作る職人の知見を次世代に伝えるためにAIを活用する地方創生を始め、その一環として佐賀県にもオフィスを構えました。その知見をスポーツにも生かそうと、弊社の社長である竹原(稔)が、LIGHTzさん、佐賀県が掲げるSAGAスポーツピラミッド構想、サガン鳥栖で三者協定を結ぶために、積極的に動かれていたんです。そこでLIGHTzさんに名前を覚えていただいていた私も関わらせていただき、昨年の10月からAI共同プロジェクトを始めることになりました」

――プロジェクトを進めた理由として、鳥栖にはどのような課題があったのでしょうか?

 「まず経緯を説明すると、2018年に所属していたアヤックスが鳥栖とパートナーシップを結び、私は鳥栖のスタッフの一員となりました。そこからトップチームで仕事をする機会もあったんですけど、当時から取得していたデータが『サガン鳥栖にとって何を意味するのか』――私たちのサッカーを評価する物差しとして機能していないと感じました。その原因を探ってみると、クラブ内で共通のサッカーの言語が使われていないことに行き着きました」

――データを扱う以前に、情報共有がうまくいっていなかったということですね。

 「そうですね。当時から私たちにもゲームモデルやゲームプランという考え方はありました。ただ、それは各スタッフの頭の中にある状況で、スタッフ間で共有できていないこともありましたね。だから、毎回その場で戦術ボードを使って説明する必要がありました。さらに、選手は一人ひとり情報の受け取り方と理解の仕方が違うので、さらに共有するのが難しい。言うだけで理解する選手もいれば、映像を見て理解する選手、アニメーションに起こして理解する選手、練習で失敗してわかる選手、数字でわかる選手、色や矢印でわかる選手もいるんです」

――本来は、チームの映像やデータを集めているアナリストがその手助けをするはずですよね?……

サガン鳥栖が描く「AI×育成」の未来像

Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。