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クラブ改革のモデルは「フライブルク」。愛媛FCはボトムアップ型の育成クラブへ

2022.03.09

初昇格を果たした2006年以降、16年の時間を過ごしたJ2から降格。今年はクラブ史上初となるJ3でのシーズンを戦うことになった愛媛FC。もともとの低予算に加え、県内にもFC今治という強力なライバルが出現し、その存在意義が揺らぎつつある今だからこそ、新たな方向性へと舵を切る必要に迫られているが、未来への光は確実に見えつつある。クラブを長年にわたって取材し続けてきた松本隆志に、愛媛FCが進めるクラブ改革のビジョンを解説してもらおう。

“やりくり上手のプロビンチャ”が抱えてきた矜持

 昨季J2最終節、対レノファ山口FC戦の試合終了後に行われたシーズン終了セレモニーの場でマイクの前に立った前野貴徳は、自身がキャプテンという立場であることをわきまえた上で、今後のクラブの身を案ずる思いをストレートな言葉で表現した。

 「愛媛FCの価値がどんどん下がってきている。クラブとしてもう一度見つめ直すことが必要だと思います」

2021シーズンJ2最終節、愛媛FC対レノファ山口のハイライト動画

 昨季、シーズンを通じて低迷が続いた愛媛は、必然的な結果としてリーグ20位に終わり、4チーム降格という特殊なレギュレーションの割りを食う形でJ3へと降格。16年間にわたって戦い続けてきたJ2の舞台から、一旦姿を消すこととなった。

 しかし、前野の言う価値の下落はJ3降格を直接指すものではなく、降格はあくまでも下がりゆくクラブの価値を可視化したものに過ぎない。

 愛媛というクラブはリーグでも最低規模の予算ながら、ここまで降格の憂き目に遭うことなく、J2に留まり続けたことは十分に評価すべき部分。それだけでなく、2015年には知将・木山隆之監督(現・ファジアーノ岡山監督)のもとで一致団結したチームが、リーグ5位でプレーオフへ進出し、J1の背中まで見えた。見方によってはやりくり上手のプロビンチャと言えるコスパぶりも、愛媛の特徴と言えた。

 ただ、地道にJ2道を突き進んできた愛媛は、もう“愛媛の雄”と誇れる立場ではなくなっている。サッカーが盛んな土壌とは言えない愛媛の地に、2つ目のJリーグクラブFC今治が現れたからだ。

強烈なライバル、FC今治の台頭

 クラブとしての勢いは今治にある。

 今治はチームが四国リーグ時代の2014年に元日本代表監督・岡田武史氏がオーナーとなり、「10年後にはJ1で優勝争いを」と大風呂敷を広げるかのごとく夢ある未来を見据えて、既存のJクラブとは異なるアプローチで順調に成長。独自のプレーモデルを整理したトレーニング方式“岡田メソッド”を掲げ、アカデミーからトップチームまで一貫したスタイルを体現するなど、ビジョンも明確だ。四国リーグから出発したチームは2020年にJ3へと昇格し、さらなるカテゴリーアップをすべく、現在はクラブ自前でサッカー専用の新スタジアムを建設中。来春には竣工される予定である。

 J2で長らく停滞感の否めなかった小規模クラブの愛媛からすれば、話題が豊富で今後さらに大きな伸びしろを感じさせる今治の出現は、さながら黒船到来の脅威。J3へ降格した愛媛を“沈む夕陽”と表現するのは乱暴すぎるが、“上る朝日”のごとく勢いを見せる今治とのコントラストは、明確なモノと言わざるを得ない。

 「クラブの価値は下がっていると思います。それは認めます」

 J3降格に際し、クラブのトップに立つ村上忠社長も苦しい状況にあることは理解している。

 「『愛媛FCってどこで試合をしているの?』と聞かれることもあります。(愛媛県民の)サッカー自体に対する関心も含めて落ちているのかもしれません。それを伝えきれなかったことにも、我々の責任はあるのかなと思っています」

愛媛FCが公式YouTubeチャンネルで公開している2022シーズン新体制発表記者会見の模様。冒頭で挨拶しているのが村上社長

“ボトムアップ型”の新たなクラブビジョン

 しかし、愛媛には愛媛のやり方がある。決して派手には映らなくとも、地道に草の根からクラブを作り上げてきた自負もある。……

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フライブルク愛媛FC文化経営育成

Profile

松本 隆志

出版社勤務を経て2007年にフリーへ転身。2009年より愛媛FCを中心としたプロサッカークラブの取材活動を始める。サッカー専門紙エルゴラッソ、サッカーダイジェスト等へ寄稿。ライター業とともにフォトグラファーとしても活動する。

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