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名参謀の条件とは? チームのカギを握るアシスタントコーチ。その成功要因の共通項を探る

2022.02.21

好評発売中の『フットボリスタ第89号』では、重要度を増すテクニカルスタッフについて特集している。役割が細分化され優れたチームを組織することが不可欠となっている中、今回は監督を直接的に支えるアシスタントコーチに着目。成功しているアシスタントに共通する要素について考察する。

 成功を収める監督のそばには、常に優れたアシスタントコーチがいる。監督が責任者として矢面に立ちメディア対応に追われている間、コーチングスタッフたちは着々と準備を進めている。クラブや監督のタイプによって必要とされる役割は異なるが、“チーム”として機能しているコーチングスタッフ陣にはある共通項があるようだ。ドイツのエキスパートの言葉を借りながら、アシスタントコーチの重要性と成功要因を探る。

監督向きかアシスタント向きか

 ドイツサッカー連盟(DFB)のダニエル・ニーツコフスキは、日本のコーチングS級ライセンスにあたる“フースバルレーラー”の取得コースの責任者を務めている。彼は、指導者には監督とアシスタントコーチの2つのタイプに分かれるという。それは能力の問題というより、性格的な要因によるもののようだ。

 「監督から始めるタイプは、そのまま監督にとどまりアシスタントコーチにはならない傾向が強い。監督の役職を引き受けるのに育成か成人か、どのカテゴリーかは問わない。監督やアシスタントコーチには、それぞれ性格上の特性に向き不向きがある。さらに、アシスタントコーチの中でも2通りに分ける必要がある。アシスタントとして監督になるための学習を積むタイプと、アシスタントコーチのスペシャリストとなるタイプがいる」

 ドルトムントとバイエルンでCLを制した名将オットマー・ヒッツフェルトのアシスタントコーチとして長年にわたり活躍したミヒャエル・ヘンケは、その役割の重要性を強調する。

 「個人的には、アシスタントコーチは監督と同じ仕事ができなければならないと思っている。監督はすべての責任を負い、対外的なコミュニケーションを引き受けなければならない。それには多大な労力とストレスがかかるものだ。その間、アシスタントコーチは目立たずにチームの仕事に専念できる。これは、チームの成長や目標達成に向けてメリットをもたらす」

 とりわけ、監督の“右腕”となるアシスタントコーチの仕事で重要となるのが、医療スタッフを含むコーチングスタッフ全体のチームビルディングを成功させるための潤滑油となることだ。「アシスタントコーチは監督が仕事を進めやすいように、コーチングスタッフのマネージメントを引き受けなければならない」とヘンケは話す。

 その難しさを熟知した上で、「現在のコーチングスタッフ陣は大きくなっているが、チームとして機能しなければならない。この点が、あまりに過小評価されているように感じる。個人的には、最小限のスタッフ陣によって構成されるチームの方が好きだ。その方が調和をもたらしやすい」と続ける。

ドルトムント(1991-17)、バイエルン(1998-04、2007-08)でヒッツフェルト(右)を支え、7度のブンデスリーガ制覇、2度の欧州王者を成し遂げたヘンケ。ヒッツフェルトがスイス代表監督に就任した2008年以降は彼の下を離れ、ケルンやアストンビラ、インゴルシュタットでアシスト譚とコーチやスカウト職を歴任した

クラブ専属アシスタントの重要性

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Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。

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