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状況判断が早い選手は考えていない!?研究が明らかにする脳内情報処理の秘密

2021.03.30

「トップレベル選手と自分の差は何か」

そんな問いに対して“サッカー選手の情報処理”という観点から研究したのが現在、関西大学で特任体育講師及びサッカー部コーチを務めている松竹貴大氏である。「Less Time, Less Space」と形容される現代サッカーにおいてますます重視される情報処理能力について、自身が執筆した博士論文「サッカー選手の状況判断時における情報処理過程に関する研究」を振り返ることで解説してもらった。

サッカー選手としての限界

 私は大学時代に関西学生サッカーリーグに出場していた頃(大阪体育大学所属)、自分に対する期待と不安を抱えながらプレーをしていた。その当時からJリーグにおいて大卒選手の価値は高まりつつあり、大学サッカーで活躍した選手が即戦力としてプロでも活躍。実際に、大体大で私の1つ上の学年だった藤春廣輝(ガンバ大阪)、村田和哉(今年現役引退、セレッソ大阪や清水などでプレー)、川西翔太(FC岐阜)は大学卒業後J1クラブに入団してレギュラーをつかんでおり、一緒にプレーしていた先輩たちの活躍は刺激となって自分への期待を高めてくれた。奇しくも、大学4年時(2011年)には総理大臣杯で優勝して大学日本一を経験。「自分もプロになれるのではないか」と自分に対する期待はさらに高まった。しかしその一方で、学生リーグや総理大臣杯で対峙した中には自分と明らかなレベルの違いを感じる選手が存在しており、その差が埋められるものではないことも心の奥底で理解をしていた。結局、自分自身のサッカー選手としての限界を感じてプロ選手になることを諦め、指導者を志し大学院に進学したのだが、その時感じていたトップレベルの選手と自分との差に関するファクターが私の研究テーマとなった。

 当時の大阪体育大学では坂本康博総監督の下、「読み勝つ・競り勝つ・走り勝つ」をモットーに身体の構造や仕組みを理解した上で、効果的な身体の動かし方や使い方に関する独自のトレーニングを行っていた。そのトレーニングを通して、それまで自信がなかったフィジカルフィットネスの部分は大学4年間で大きく変化して成長することができ、さらなる可能性も感じていた。一方で、ボールを扱うテクニックや知覚・認知・実行と表現されるような情報処理の早さに関しては、プロになる選手との圧倒的な違いを感じ、選手としての限界を痛感した能力であった。特に現代サッカーでは「Less Time, Less Space」と形容されるように、相手や味方の変化に応じた的確な状況判断が求められるために、いわゆる「頭のスピード」はレベルが上がればより求められる。だからこそ、状況判断を瞬時に実行するための情報処理の早さはプロになるためには必要条件であると感じていた。そんな選手時代の経験から、私が大学院で研究テーマを決める際に興味を持ったのは、「サッカー選手の情報処理」であった。研究を進めるにあたり、「サッカーが上手い選手は、本当に状況判断が早くできているのか?」という疑問と「情報処理が早い選手の特性を明らかにしたい」という思いを持ち、研究活動はスタートした。

情報処理の早さをどうやって評価する?

 まずは、ヒトの情報処理に関して研究していくにあたり、どのような方法で調べれば良いのか文献をあたった。しかしながら、その当時の体育・スポーツ科学の先行研究において、ヒトの情報処理に関する論文は数少なかった。さらに、持久力や瞬発力、敏捷性、柔軟性といった体力的要素は、学術的研究における知見の蓄積により定量的な評価をする際の方法が確立されていた一方で、情報処理に関しては評価方法が確立されているとは言えなかった。その数少ない先行研究の中でも、これまでの情報処理の評価には反応時間(Reaction Time:以下RTと表記)が用いられていた。このRTは、刺激が呈示されてから反応が生起するまでの時間のことであり、中枢神経への刺激の入力と反応の出力を反映するため、RTの長短によって情報処理の早さを評価していた。これまでにRTを用いたサッカー選手の情報処理に関連する先行研究では、サッカー選手群と非サッカー選手群に視覚刺激に対する反応課題を実施した際、サッカー選手群は非サッカー選手群よりも刺激呈示後の反応時間が有意に短く、情報処理の能力が高いことが報告されていた(Ando et al.,2001;Montes-Mico et al.,2000)。これらの先行研究を読みながら、研究の方法に関する方向性が見えてきたが、同時に違和感も抱いた。……

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Profile

松竹貴大

1989年生まれ。長崎県出身。大阪体育大学卒業後、同大学大学院に進学、同大学サッカー部でコーチを務め指導者としてのキャリアをスタート。その後、筑波大学大学院博士後期課程に進み博士(コーチング学)を取得。在学中は、筑波大学女子サッカー部、トラウムトレーニングでコーチを歴任。現在は、関西大学人間健康学部特任体育講師として教育・研究に従事するとともに関西大学体育会サッカー部のコーチを務める。