モウリーニョはレアル・マドリーをどう変えるのか?“退却”から始まる新[4-2-3-1]の設計図
サッカーを笑え #73
レアル・マドリーにとっての新シーズンが8月22日(対エスパニョール)に開幕する。ラ・リーガ自体は1週間前に開幕済みだが、W杯出場選手を多く抱えるクラブには3週間の夏休みを与える義務があり、合流が遅れていたので遅延が認められていた。ムバッペとクルトワ、コナテは最後のプレシーズンマッチで45分間プレーしただけ、ベリンガム、ディオマンデ、ククレジャは同30分間という状況でまだまだ材料が足りないのだが、モウリーニョのチームのやりたいことと、そのためのいくつかの約束事は見えてきた。
陣容

[4-2-3-1](攻撃時も守備時も)
※レギュラーは執筆時に仕上がりの良い選手を優先した
❶ティボ・クルトワ(アンドリー・ルニン)
❷トレント・アレクサンダー・アーノルド(デンゼル・ドゥムフリース)、❸イブラヒマ・コナテ(アントニオ・リュディガー)、❹ディーン・ハイセン、❺アルバロ・カレーラス(マルク・ククレジャ)
❻ベルナルド・シルバ(エドゥアルド・カマビンガ)、❼フェデリコ・バルベルデ(オレリアン・チュアメニ)
❽ブラヒム・ディアス(ヤン・ディオマンデ)、❾アルダ・ギュレル(ジュード・ベリンガム)、❿ビニシウス・ジュニオール
⓫キリアン・ムバッペ(カルロス・エスピ、エンドリッキ)
ケガ人:ラウール・アセンシオ、エデル・ミリトン、フェルラン・メンディ、ロドリゴ
メインのフォーメーションは[4‐2‐3‐1]で決まりだろう。プレシーズン当初はドゥムフリースを前、トレント・アレクサンダー・アーノルドを後ろに使うダブル右SBで、トレントを右CB化して3バックを作って右SBドゥムフリース、左SBカレーラスに高い位置取りをさせるマイボール時[3‐5‐2]、守備時には彼らが下がる[4-4-2]、[5‐3‐2]へと変化していくやり方を盛んに試していた。これを見て、私は「どうせムバッペ、ビニシウスにプレスは期待できないのだから後方に人数を割くことに解法を見出したのか」と思っていたが、どうやらこれはオプション(詳細は後述)のよう。考えてみればこの並びだと、クラブ史上最高金額(1億2500万ユーロ=約231億円)でかなり高い買い物をしたディオマンデの入る場所がない。
話はそれるが、今夏の補強はディオマンデの大盤振る舞い以外は非常に適格で堅実だった。フロレンティーノ・ペレス会長の銀河系路線にジョゼ・モウリーニョがマネージメントのメスを入れていたことがうかがえる。おかげでメンバー的には近年で最も充実し、リーグ優勝争い、CL優勝争いでバルセロナを一歩半くらいリードした感がある。
各ポジションに信頼できる控えがいる。CBは現状2つのポジションを3人(ハイセン、コナテ、リュディガー)で回していく感じで1枚足りないが、ここはアセンシオの復帰待ち。唯一ビニシウスの控えがいないが、これはプレシーズン2ゴールでかなり使われそうなカルロス・エスピをCFに、ムバッペを左サイドに回すことでグラウンド内では解決する。グラウンド外で不平不満が出ないように、いかにビニシウス、ムバッペを休ませるかがモウリーニョのマネージメント上の最初の課題だと言える。
プレースタイル的には両者から不平不満が出ないような戦い方になっている。言い換えると、両者の守備の負担は重くない。
特徴
ブロック
●自陣で待ち構えるローブロックが基本。ハイブロックは例外
プレス
●ボールロスト時のプレスは激しくない。基本的に前に立ち塞がりカウンターを防ぐ。バックパスは追わない
●プレスによるボール奪取よりもリトリートでスペースを埋めてブロック形成を優先
●敵陣深くでのロスト時と相手のスローインには激しく行く時もある
●相手のGKからのボール出しは必ず妨害する
●顔ぶれと状況(前後半のスタート時とかエスピが途中投入された時)によっては激しいプレスを行うことも(詳細は後述)
攻→守の切り替え
●並びは変えず[4-2-3-1]のまま
守→攻の切り替え
●ワンタッチで触ってプレスをかわし前を向いたら裏へ出しFWを走らせる
後方からのボール出し(詳細は後述)
●丁寧に行う。GK、CBからのロングボールは例外
●前で詰まったらバックパスをしてボール出しを行う
ボール出し後
●最終ラインからボールが出て受け手が前を向いたら裏へ出しFWを走らせる
プレスは緩い。ボールを奪い返すよりもカウンターだけは防いでおいて後はリトリートしてブロックを形成する、というのが原則。相手ボール時に[4-2-3-1]から[4-4-2]へ変化しない、つまり最前線のプレス要員を2枚にしない、という点に「プレスより退却優先」という考え方が反映されている。昨季のアルバロ・アルベロア前監督(現フルアム)のやり方によく似ている。アルベロアが最初にやったことがシャビ・アロンソ(現チェルシー)下で不満を抱いていたビニシウスの優遇宣言と、ハイライン&ハイプレスの放棄だった。モウリーニョ就任時に“鬼軍曹の鬼走らせでチームが空中分解”なんてことを想像しなくもなかったのだが、そんなことは起こりそうもない。アルベロア型の懐柔策採用は、ビニシウスの契約更新からの自然な流れであると言える。
話はまたそれるが、モウリーニョの印象も16年前とは違う。18日に行われた入団お披露目式はメディアもファンもいないプライベートな場で行われた。スピーチで最も繰り返された単語は「努力」。穏やかで控え目な今のイメージにマッチしたものだった。話を戻す。
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。
