REGULAR

「手弁当で地域貢献を続けるな」就任5年で売上規模2倍のカターレ富山。左伴繁雄社長が語る、地方独立型クラブの生存戦略

2026.07.29

Jプロビンチャの挑戦 第3回(後編)

「プロビンチャ(Provincia)」とは、イタリア語で「地方の中小クラブ」を意味する。その言葉が生まれたイタリア・セリエAでは、名将ガスペリーニの戦術と「育てて売る」クラブ戦略が合致したアタランタがCLの常連となるまでに飛躍した。「地域を豊かにする活動」を理念の1つとして掲げているJリーグは全国各地に60のクラブを抱えているが、Jプロビンチャが生き残っていくための術、さらにはアタランタのように国外へと羽ばたいていくクラブは現れるのだろうか?――最前線で闘う経営者たちと一緒に議論してみたい。

長くJ3で低迷していたカターレ富山が、今、明確に躍進の階段を駆け上がっている。21年に就任した左伴繁雄社長が陣頭指揮するクラブは5年で売上規模を2倍に増加。それに比例するようにチームは24年に劇的なプレーオフ勝利で11年ぶりのJ2昇格を果たした。Jリーグ屈指のプロ経営者はカターレ富山に何をもたらしたのか。地方独立型クラブの生存戦略とは何か(取材日:6月22日)。

←前編へ

「カターレが皆さんに代わって感動を届ける」

――左伴繫雄社長がカターレ富山の社長に就任された際の株主構成について驚かれたという記事を拝見したことがあります。北陸電力やYKKのような企業がメインの株主になっていると思いきや、各社が均等割で株を持っていたと。それによる経営に関わるメリットやデメリットがあると思いますが、いかがですか?

 「メリットもあればデメリットもあります。私の口からは『40社以上の株主で構成されている』と公言していて、各社がほぼ均等割になっている。会社を創設するときに『県民クラブでいければ』という思いがあったと聞いています。特定の一社が負担すると有事に持ち出しが増える不安もあり、各社均等割でいこうとなった。それはそれでいいし、私のような経営者の立場からすれば、経営を自由にさせてもらえるメリットがある。各社の均等割なので『お任せします』となりやすい一方で、仮にどこかがメインで大きな比率で株を持っていればやりづらさは出ていたでしょう。ただし、デメリットとしては、有能な経営者がいなければ行き詰まる可能性が高くなる。均等割である以上、誰も責任を取ろうとしないからです。だから私が着任する前、カターレは沈みかけていた。例えば、リーマンショックが来た、東日本大震災が来た、という有事でお金が必要なときに株主から救世主が出てこない。だからクラブは自力である程度のオペレーションができる余力を持っていなきゃいけない。つまりリスクマネジメントの難易度が高まるんです。私はどちらかといえば有事型の経営者で、マリノスでもエスパルスでも有事の対応の虎の巻のようなものをいっぱい勉強してきたので、今のように自由にやらせてもらったほうがいい。任せてもらう分、責任の取りがいがあります」

左伴繁雄社長と北陸電力・松田光司社長(Photo: ©KATALLER TOYAMA)

――地方のJ2やJ3のクラブは顕著ですが、事業規模を大きくするための収入の柱はスポンサー収入だと思います。カターレ富山の現状を踏まえてどうお考えですか?

 「海外であれば多額の放映権料が柱になりますが、日本の場合は、カテゴリーによって傾向は変わります。下位カテゴリーからJ2くらいまでは総収入のうちスポンサー法人の比率が6割以上を占めないとやっていけないのが現状だと思います。今、カターレも6割ないし7割程度。というのも、サッカーや選手でお客さんを集められないことが前提にあるので。いくら球際を頑張ろうと、感動的な試合を演じようと、なかなか人は増えていかない。まず法人さんが引っ張ってくれないとクラブのトップラインは上がっていきません。とはいえ、法人さんは自分たちの会社の社員が汗水垂らして生んだ利益から外部にお金を供出する以上、製品の拡販やブランド価値の向上に繋がるかどうかに敏感です。J1ならば地上波も含めてメディアの皆さんがたくさん取り上げてくれますが、J3のクラブが企業製品の拡販やブランド価値の向上を訴えたところで担当者に『正直、そんなに効果ないでしょ』と見透かされるのがオチです。そこはもうはっきりと言わないといけない。『カターレは皆さんに代わってこの地域の人たちに感動を届けることをしている。それを我々に手弁当でやらせないでください』と。『皆さんは自分たちの社員を養い、自分たちの生活を守っている。ただ、我々はカターレを通じて、地域の人たちが喜ぶ事業を行い、復興支援を行い、高齢者福祉に対する支援を行い、スクールを通じて小学生の育成もする。何より2週間に1回のホーム戦は興行であり、地域の皆さんにお祭りを楽しんでもらうためにお金をかけてやっている。これだけ地域貢献をやっているのだから、少しは資金を供出していただけませんか?』などと、小さなクラブにもそんなふうに説得する論法があるんです。まあ、企業の経営者もだんだん歳を取ってくると会社の利益を自分たちのためだけに使うことに抵抗を覚えるし、地域貢献に比重を置くようになるんです」

――だから十分にカターレのビジョンに共感してもらえる可能性はあると。

 「一企業さんではなかなか実現できないクラブの地域貢献でいえば、例えば、社会福祉活動『Be supporters!』という企画では、お年寄りの認知症の予防につながる効果も出ています。選手が高齢者の施設に行き、おじいちゃんやおばあちゃんをスタジアムに招待すると今まで下を向いていたお年寄りの方々が笑顔になって、団扇に銀色の折り紙を貼り付けて『大野耀平・命』と書いて応援するんです。そんなふうにカターレだからできて、カターレだから地域の人たちを喜ばせられることがごまんとある。我々はまずそれらを周知していかないといけないし、それはメディアの皆さんの役割です。私がここに来たときには地元のテレビ局や新聞社から『社長のようにJ1で優勝も経験してビッグクラブを渡り歩いてきた人がなんで富山なんかに来たのですか?』とよく言われました。その自己評価が低いところがまた富山らしいのですが、『富山なんかに』という言葉が出てきたらもうしめたもので、だから誇らしげに言うんです。『ここでやっている事業はJ1のマリノスでもやっていなかったんですよ』と。私は富山新聞で50回以上コラムを連載していますが、メディアの皆さんには『試合の結果だけ字幕で出すくらいならば「Be supporters!」を取り上げてほしい』と伝えているんです」

2025年12月に地方局『チューリップテレビ』を訪問する左伴繁雄社長(Photo: ©KATALLER TOYAMA)

主要株主に倍額を迫る舞台裏とリアル

――スポンサー獲得についてですが、以前、左伴社長がご自身のX上での出来事が印象的でした。昇格を決めた直後のオフだったと記憶していますが、トップスポンサーに増額交渉に行かれる前にX上で『これから交渉の席に立つが、スポンサー収入を上げてもらえないと困る』といった内容を実況中継をするかのように書き込まれていた。これはすごいなと。担当者が見ていたら驚くだろうなと。

……

残り:5,053文字/全文:8,002文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

鈴木 康浩

1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。

RANKING