一体全体トゥヘルは何を考えているのか?物議のイングランド代表、パーマー&フォーデン以上に「大バカ野郎!」な10番の落選
Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #29
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第29回(通算263回)は、おおむね賛成のW杯メンバー26人で唯一、入れても良かったのでは?と思えるナンバー10役と、60年ぶりの優勝を目指すイングランド代表の現状について。
気持ちもわかる、フォレストサポーターたちの“口撃”
イングランドの代表監督職は、しばしば“インポッシブル・ジョブ”と呼ばれる。その「不可能に近い任務」を背負った者の中でも、就任後初の国際大会を待たずして、母国民から「You’re a wanker(この大バカ野郎)!」となじられる例は珍しい。
今季プレミアリーグ最終節、ノッティンガム・フォレスト対ボーンマス(1-1)でのこと。ホーム観衆による“口撃”は、前々日にW杯メンバーを発表した、イングランド代表のトーマス・トゥヘル監督に向けられていた。招集26名には、先制の20m弾でフォレストに先制点をもたらした、モーガン・ギブス・ホワイトが含まれていなかった。
同節、筆者は北西に130kmほど離れたアンフィールドにいた。遠藤航が、左足首の甲にケガを負って以来、約3カ月半ぶりにリバプールの試合当日メンバーに復帰した一戦。人工靭帯の移植手術を受ける決断を含め、負傷離脱期間の短縮に最善を尽くした日本代表MFは、前週にW杯メンバー入りにも漕ぎ着けていた。


それだけに、フォレストサポーターたちが、ギブス・ホワイトに代わって抗議の1曲を歌ったことを報道で知ると、彼らの気持ちも理解できるように思えた。自軍の「背番号10」は、自己ベストと言えるシーズンに、昇格4年目のプレミア残留とELベスト4入りの原動力になるという、最大級のアピールが実らなかったのだ。招集メンバー発表前月の時点では、巷で「当確」視されていたはずが、肝心の代表監督の目には「選外」と映った。
一緒になって、トゥヘルを罵倒するつもりはない。確かに、物議を醸す人選ではあった。『スカイスポーツ』のオンライン・アンケートでは、「一体全体、トゥヘルは何を考えているのか?」とする最低評価が、最大となる30%を占めていた。だが筆者は、「まずまずの人選だが、改善の余地はある」と回答した23%の1人だった。

その改善点が、ギブス・ホワイトの落選。MF枠の中でも、激戦区となったナンバー10役では、コール・パーマーとフィル・フォーデンが「犠牲者」として話題を集めたが、個人的には、W杯へと続く今季の様子を眺めながら、どちらも選ばれないのではないかと思っていた。
昨季の終了時点であれば、パーマーは、トゥヘルのトップ下第1候補とされるジュード・ベリンガム(レアル・マドリー)とともに、敵に対する脅威と自軍にとっての想像力の源として、声がかかっていたに違いない。しかし、ケガにも悩まされた今季、チェルシーの10番は昨季ほど振るわなかった。「プレミアを代表するようなチームにしたい」という、トゥヘルの発言にならってリーグ戦での数字を尺度とすれば、得点数は「15」から「10」へ、アシスト数は「8」から「1」へと減っている。抜群であるはずのキープ力にしても、3月末、招集前最後のテストマッチとなった日本戦でのボールロストは、三笘薫にやられた失点シーンだけではなかった。
……
Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。
