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長崎の「新ファンタジスタ」長谷川元希、何気なき一手で特別を編む

2026.05.19

V・ファーレン長崎、西果ての野望#5

2018年に「長崎スタジアムシティプロジェクト」を立ち上げた時、遠い夢物語に過ぎなかった。それから6年でJリーグの1つのモデルケースになるような大型複合施設は完成し、チームは2度目のJ1昇格を果たした。しかし、まだ夢の途中。長崎という地方都市を舞台に、J1での躍進、そしてその先にあるACL出場を想い描く――番記者・藤原裕久が西の果ての野望を現在進行形で伝える。

第5回の主人公は、何気ないプレーで試合の景色を変える男、長谷川元希。“ファンタジスタ”という言葉が希少になった時代に、それでもなお特別を生み出す存在について考える。

“何気ないプレー”を特別へ変える

 「ファンタジスタ」

 サッカー界では古くから特別なものを作り出す選手をそう呼んだ。

 常々、私は特別な選手のプレーを「ファンタジー」と形容しており、長崎で言えばマテウス ジェズス。彼のプレーはまさに「ファンタジー」そのものである。スキルも能力もフィジカルも桁違いな彼は特別そのものと言っていい。一方、「ファンタジスタ」は試合中の何気ないワンシーンを特別へ変える存在というのが私の定義だ。

 いつもの試合で見られる当たり前のパス、ドリブル、スペースへのランニング、そんな当たり前の光景を、一瞬の判断、スキル、センスでチャンスシーンへと変え、味方を特別な存在へ導く。フィジカルとハードワークが当然に求められる現代のサッカーにおいて、今では絶滅危惧種とも言われる「ファンタジスタ」だが、そんなパワー全盛の時代にあっても「ファンタジスタ」の香りを残す選手はいる。今、長崎でそんな選手を挙げるとすれば誰か。おそらく最も近いのは、新潟から今シーズン加入した長谷川元希となるだろう。

長谷川元希

 スキル、判断、センス。新潟でプレーしていた頃から、能力の高さを評価されていた長谷川だが、長崎で見せているプレーは、まさに「ファンタジスタ」の系譜に連なるものだ。[3-4-2-1]のシャドーの位置に入り、常に縦を意識しながら鋭いパスでボールを動かしたかと思えば、前線からのプレスではロングアプローチを厭わず、守備のトリガー役もこなす。

 第14節の名古屋グランパス戦で、山口蛍から受けたボールを、相手が食いついてきた瞬間にワンタッチで前線のチアゴサンタナへ通した場面は、判断・体の向き・パスの質の全てが揃った「ファンタジスタ」の仕事だった。続く第15節のファジアーノ岡山戦ではキャプテンマークを巻き、身振り手振りを交えながらピッチで声を出し、チームの勝利に貢献した。

 4月25日から始まった連戦でも、ほぼスタメンフル出場ながら走行距離、スプリントを落とすことなくプレー。J1での戦いと連戦の中で、絶対的なエースだったマテウス ジェズスがコンディションを落とし、昨季にJ2を席巻した「戦術マテウス」が停滞していく中で攻守で存在感を発揮する。

 「あいつはうまいし、どんどん良くなっている。守備でもよく走る。そういうのを段々出してくれるようになった。本当に良くなっている」 と高木琢也監督も認める活躍でチームを牽引している。

Photo: Hirohisa Fujihara

リンクマンとして長崎を動かす

 長崎に加入して約半年。今ではチームについて話をする時、長谷川元希の話題を避けるのは難しい。百年構想リーグ終盤、ケガによる長期離脱から復帰してきたベテラン、中村慶太はチームとの融合についてこう語る。

 「元希もゴール前にボールを運ぶ時にリンクマン的な役割になって、彼がパスの出し手になっていることが多いと思います。自分が一緒にプレーできれば、彼を受け手にするシーンも作れるので、もっと彼のシュートや仕掛けを増やせるようにしたい。彼は本当にうまい選手だし、僕が入ることで、相手も2人を捕まえきれない状況になるのが良いと思います」

 中村が言う「リンクマン」「出し手」という言葉は、長谷川が今チームで担う役割を端的に表している。攻撃の最終局面で背後を狙うのではなく、その1つ手前の局面で時間と方向を作る。それが今の長谷川なのである。

 「長谷川元希なんかも毎回すごく良い守備をしてくれる。そういったものがチームの基準になったと思うし、規律の部分が高まったと感じることができますね」

 そう語ったのは5月17日の百年構想リーグ第17節、神戸戦後の米田隼也だ。この試合は、マテウスの7試合ぶりとなる先発復帰や、第2節に完敗した相手にPK戦とはいえリベンジを果たしたことが大きな注目を集めていたが、わざわざ米田が名前を出して言及したあたりから、長谷川が今のチームにおいてどれほど大きな存在であるかがわかるだろう。

Photo: Hirohisa Fujihara

「縦パスを入れる」――停滞への危機感

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Profile

藤原 裕久

カテゴリーや年代を問わず、長崎県のサッカーを中心に取材、執筆し、各専門誌へ寄稿中。特に地元クラブのV・ファーレン長崎については、発足時から現在に至るまで全てのシーズンを知る唯一のライターとして、2012年にはJ2昇格記念誌を発行し、2015年にはクラブ創設10周年メモリアルOB戦の企画を務めた。

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