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なぜ“後攻”を選んだのか?PK戦を支配する水戸の守護神・西川幸之介の思考法

2026.04.21

水戸ホーリーホック昇竜伝#9

J2の中でも少ないクラブ予算ながら一歩一歩積み上げてきた水戸ホーリーホックは、エンブレムにも刻まれている水戸藩の家紋「三つ葉葵」を囲む竜のようにJ1の舞台へ昇ろうと夢見ている。困難な挑戦に立ち向かうピッチ内外の舞台裏を、クラブを愛する番記者・佐藤拓也が描き出す。

第9回は、J1百年構想リーグでPK戦での劇的な勝利の立役者となった守護神・西川幸之介にフォーカス。なぜ彼はセオリーに反して“後攻”を選び、そしていかにして流れを引き寄せたのか。鹿島戦から続く連勝の裏側には、PKストップだけでは語りきれない進化があった。PK戦の心理戦からビルドアップの設計まで、彼のプレー選択に宿る“再現性”を読み解く。

「PKは嫌だ」からの脱却。覚悟が生んだ2本のセーブ

 J1百年構想リーグ第11節千葉戦、試合は1-1で終了し、勝負はPK戦にもつれ込んだ。

 両チームのキャプテンが主審のもとへ呼ばれて、先攻と後攻を決めるコイントスが行われ、水戸が選択権を得た。キャプテンの渡邉新太はGK西川幸之介に「先行と後攻、どっちがいい?」と尋ねると、西川はすかさず、「後攻」と答えた。

 キッカーが優位に立てるPKでは、先に成功させることで相手にプレッシャーを与えられるため、一般的には先攻が有利とされている。だが、西川は自信を持って、「後攻」を選んだのだった。その理由について、こう説明する。

 「PKの原則というか、先攻の方が有利というのは少しあると思うんですけど、キャプテンの(渡邉)新太君がトスで勝って先攻を選べる状況で、僕に聞いてきてくれて、前節鹿島戦の流れがあったので、あえて後攻を選ばせてもらった。ある意味、流れというのは1本目で掴めると思いますし、止めることによって掴めると思います。逆に相手が決めれば、相手が持っていく。表裏一体と言えば表裏一体ですけれど、本当に流れを変えられると思います」

 つまり、1本目で止めて、流れを引き寄せる自信があったということだ。

 そして実際、1本目を的確な読みと素早い動きで止めてみせた。左手1本でボールをゴール外にはじき出した直後、西川は千葉サポーターの目の前で雄たけびを上げた。さらに5本目も完全に相手のシュートを読み切ってセーブを見せて、チームに勝利をもたらしたのだった。

 「プロになるまではPK戦は自信を持っていましたし、PK戦1戦を通せば、1本は止められるかなという手応えが自分の中ではずっとありました。でも、百年構想リーグでは、PK戦にもつれ込む機会が多かったのにもかかわらず、シュートを止められない試合が続いていました。監督から見ても、自分がPK戦をあまり得意していないんじゃないかと思われていたでしょうし、そこまで期待はされていないと感じていました。でも、実際、千葉戦で2本ストップできましたし、自分の中でもこれまで消化不良気味な気持ちがあった中、PKを止められるんだぞ、という自分の中での自信にもなりました」

……

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Profile

佐藤 拓也

1977年生まれ。神奈川県出身茨城県在住のフリーライター。04年から水戸ホーリーホックを取材し続けている。『エル・ゴラッソ』で水戸を担当し、有料webサイト『デイリーホーリーホック』でメインライターを務める。

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