ウォーミングアップは無意味なのか?常識を揺るがす「準備」の再定義
TACTICAL FRONTIER~進化型サッカー評論~#27
『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。
第27回は、試合前やトレーニング前に当然のように行われている「ウォーミングアップ」をテーマに、その必要性と効果を再検証する。トップ選手や指導者による否定的な証言と、スポーツ科学が提示するエビデンス。その“ズレ”を手がかりに、“準備”という行為が現代フットボールにおいてどのような意味を持つのかを問い直す。
均質化する「試合前の風景」
プロサッカーチームにおけるウォーミングアップは、それぞれのトレーニングに時間をどのように分配するか、どのようなトレーニングを使用するかという差はあっても、かなり均質化が進んでいる。
多くのクラブではGKだけがシュートストップやクロス対応などのトレーニングをGKコーチと実施し、フィールドプレーヤーはフィジカルコーチとステップワークなどでコンディションを整える。その後は多くの選手が育成年代でも慣れ親しんでいる「片方がボールを投げ、それを胸に返す」ようなシンプルなトレーニングを行い、中・長距離のキック練習に移行していく。続いてロンドやミニゲームで実際のゲームに近いトレーニングをしながら心拍数を上げていき、アタッカーはクロスやポストプレーからのシュート練習、GKはそれに対応することで互いのトレーニングを行う。DFラインの選手たちはハイボール対応やDFラインを揃えながらポジショニングを調整するトレーニングなど、ポジションごとのウォーミングアップが準備されている場合もある。
このように多くのチームで形式化しているウォーミングアップだが、その目的と効果については様々な意見が存在する。今回はウォーミングアップについて、あらためてその価値を考察していきたい。
「準備は不要?」ピルロが突きつけた違和感
イタリアの中盤を統率したアンドレア・ピルロは、選手時代に「私の仕事の中で、どうしても好きになれない部分が、試合前のウォーミングアップだ。心底、あれは好きにならないし、うんざりする。コンディショニングコーチの自己満足であり、選手を犠牲にして自分たちが楽しむための手段に過ぎない」と否定した。ウェールズ代表やマンチェスター・ユナイテッドで長く活躍したライアン・ギグスもファン・ハール監督時代にウォーミングアップの強度が高いことで、試合でのパフォーマンスに悪影響を与えたと証言している。戦術的に決まったパターンを繰り返すような彼のトレーニングが、ギグスにとっては退屈でもあったようだ。
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Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。
