REGULAR

ハイラインの死角を救え。札幌GK田川知樹、ワンハンドセーブに潜むロジック

2026.04.16

清水英斗の「語りたくなるワンプレー」#5

ピッチ上の22人が複雑に絡み合うサッカーというスポーツは、一歩立ち位置が違うだけでバタフライエフェクトのようにその後の展開が大きく変わってくる。戻るのか・戻らないのか、走り込むのか・とどまるのか……一見何気ない選択の裏には数多くのドラマが眠っている。清水英斗が思わず語りたくなるワンプレーを掘り下げる。

第5&6回は、第6節・磐田対札幌戦。前半40分、守護神・田川知樹が見せたスーパーセーブに迫る。ハイラインの裏に抜け出された1対1の危機を見事に防ぎ、勝利を引き寄せたのが、この『ワンプレー』だった。それは、単なる好セーブではない。ハイラインという戦術が抱える“構造的なリスク”に対する、田川の強みを象徴するプレーと言える。

“ハイライン&ワンタッチ”を支える最後のピース

 今季は新たに川井健太監督を迎え、動き出した札幌。最大の目標である翌26-27シーズンのJ1昇格を果たすため、今季はチーム作りと勝負を並行しつつ、J2・J3百年構想リーグを戦っている。

 コンパクトなプレッシング、ハーフウェイラインを間近に見るハイライン、ワンタッチで相手の背後を取る攻撃など、試合は目を引く要素がたくさんある。序盤こそミスや未熟さが目立ち、結果も出なかったが、徐々にパフォーマンスは好転。第6節磐田戦(1-0)、第7節甲府戦(1-0)、第8節藤枝戦(1-1、PK4-2)と3連勝を飾った。一方で続く第9節の福島戦を0-2で落とし、第10節甲府戦もチャンスを決め切れず1-2で逆転負けを喫するなど、まだ安定感はないが、目指すフットボールへ向けて一歩ずつ前進しているのは間違いない。

 この札幌の新たなチャレンジを支えるキープレーヤーは幾人も思いつくが、その中でも今季のスタイルを保証する、最も特徴的な1人を挙げるとすれば、GK田川知樹だろう。

田川知樹(左から1番目)

 昨季、奇跡のJ2残留を果たした富山の正GKを、今季は札幌が横浜FMからの期限付きで獲得した。身長180センチと、GKとしては上背のあるタイプではないが、田川のプレースタイルは今季の札幌と相性が良いようだ。

 その点、チームが求めるGK像について、田川本人は次のように語ってくれた。

 「まずはゴールを守ることです。そこが監督から一番に求められているのは間違いないですが、それプラス、札幌はハイラインのハイプレスで前から守備へ行って、できるだけ高い位置でボールを奪いたい、というプレースタイルです。どうしてもラインが高くなる分、背後には大きなスペースができるので、そのスペースをカバーする役割がGKには求められます。それはクロスも含めて、ですね。GKは広い範囲を守ることを求められています」

 一番はゴールを守ること。そして札幌では、それ以上の役割が求められている。

その一瞬、GKは何を見ていたのか

 このコンセンサスの中から飛び出した圧巻の『ワンプレー』が、磐田戦、前半40分のシーンだった。

 札幌のハイラインをかい潜り、磐田MF角昂志郎がスペースへ飛び出してきた。副審のフラッグは上がらず、オンサイドだ。角はドリブルでペナルティエリアへ侵入。カバーに入ったDF家泉怜依を切り返してかわすと、至近距離から右足でシュートを打った。

 ボールはGK田川のほぼ正面、肩口あたりに飛んできた。これを田川は左手のワンハンドセーブ。弾いたボールを味方がクリアし、札幌はピンチを脱した。その後、後半アディショナルタイムの西野奨太のゴールで、1-0の劇的勝利を収めている。

 田川はハイラインの背後のスペースを広く守っているが、時にはカバーし切れない場面もあり、そこで簡単に失点すれば、結果がひっくり返ってしまう。この危機を見事に防ぎ、勝利を引き寄せたのが、この『ワンプレー』だった。

 なぜ、田川は身体の正面でシュートを捉えられたのか。なぜ、左手のワンハンドセーブになったのか。そこには、どんなGKの駆け引きがあったのか。

 プレーの内幕を選手本人に語ってもらった。

ニアかファーか――DFと分担するシュートコース

――磐田戦の前半40分のシーンでは、抜け出してきた角選手の足下にボールがピタッと入ったこともあり、田川選手は飛び出さない判断をして、ゴール方向へ下がったと思います。ただ、やはりベースとしては高いポジションを取り、なるべくボールに行けるようにしたい、という考えですか?

 「そうですね。ボールの状況、ボールホルダーの位置、味方ラインやDFの位置などすべてを見て、自分の一番良いポジショニングから、良い判断をする。それは日頃から本当に求められています」

――このシーン以外も含めて見ると、エリア外はもちろん、ボックス幅より外であっても、田川選手は飛び出してクリアしたり、パスをつないだりしています。「ここまでは出て行く」「こういうシーンなら行く」など何か基準はあるんですか?

……

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Profile

清水 英斗

サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。

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