取り戻しつつある確かな自信。サガン鳥栖・城定幹大が苦境の中で自分と向き合い直した2週間の価値
プロビンチャの息吹~サガンリポート~ 第26回
福島ユナイテッドFCから完全移籍を果たし、今季からサガン鳥栖の一員に加わった城定幹大は苦しんでいた。好調のプレシーズンを過ごしたものの、開幕戦の決定機逸から序列も低下。練習試合でも満足な出場機会を得ることができない。それでも自分にベクトルを向け直し、盟友との約束を果たすべく、日々の努力を積み重ねたことで、トンネルを抜けた先にはようやく望んだ結果が待っていた。
30分間の出番に終わった練習試合。「間違いなくナーバスになっています」
J2・J3百年構想リーグ地域ラウンドWEST-Bグループの第8節、サガン鳥栖対ガイナーレ鳥取戦。この試合でスポットライトを浴びることになる男は、この試合から遡ること約2週間前、そんな姿を誰も想像できないような立場に身を置いていた。
このグループで優勝候補の筆頭に挙げられながら、開幕から5試合を終えて、90分での勝利がなく、第3節からは3連敗。第6節のギラヴァンツ北九州戦でようやく今季初の90分での勝利を挙げた翌日、練習場である北部グラウンドでは北九州との練習試合が行われた。その試合後、数人の選手たちはグラウンドに残ったコーチングスタッフの下、心肺機能に強く負荷をかける練習メニューを消化していた。
翌日から2連休だったため、出場時間の少なかった選手たちに対して、負荷をかけることでチーム全体のフィジカルコンディションを一定にする狙いのもの。その中に城定幹大の姿はあった。ほかの選手との兼ね合いとはいえ、この練習試合で与えられたプレー時間は約30分。練習試合後の居残り練習は、高卒や練習試合用にU-18から招集されていた選手たちと行っており、城定にとってはチームにおける序列の低さを突きつけられる環境だった。
「間違いなくナーバスになっています」
居残り練習を終え、汗びっしょりの城定は偽らざる心境を明かした。
「僕の良さというのはゴールに近い位置でこそだと思っているところもあります。ただ、チームのタスク、ポジションのタスクにちょっと頭が寄ってしまっているかなという感覚があって、そこはもうちょっとゴールに近いプレーができるようにというところは、意識的にやっているんですけど、戦術とかチームのスタイルを意識し過ぎて頭でっかちになってしまっているのかもしれない」

最初のターニングポイント。開幕戦の76分の決定機逸
鳥栖のシャドーポジションはときにはボランチよりも低い位置に下りて、後方での数的優位を作り、ビルドアップでの前進に安定感を生む役割が求められる。ただ、昨季のJ3で示してきたように、城定の良さは“作り”への参加ではなく、作った先で“仕留める”プレー。求められる役割と与えられるタスクに対して、自身の持ち味がミスマッチを起こし、そこにアジャストするための作業に苦しんでいた。
ただ、加入直後から苦しんでいたわけではない。むしろ、始動以来、練習試合を通じて、アシストやゴールを記録し、開幕時点ではその存在を最もアピールできた選手の一人だった。実際に開幕戦でもメンバー入りを果たし、62分から途中出場で新天地デビューも果たした。しかし、この試合に城定にとって最初のターニングポイントが待っていた。
76分、ゴール前やや右の位置、左利きの城定にとっては最も得意とする角度で左足を振り抜いたが、シュートは枠を捉えることができなかった。このシーンは城定の脳裏に強く刻まれることになった。
「あれはここからのサッカー人生を左右する1本だったかもしれない。ああいうシュート1本を本当に命懸けてやらないといけないというのは痛感しました」
あの1本を決めていれば、まったく違う未来が待っていただろう。数字で存在価値を証明できるポジションだからこそ、それをモノにできなかった代償は大きかった。ただ、城定は自らの立ち位置を受け入れた上で、しっかりと自分に矢印を向けた。
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Profile
杉山 文宣
福岡県生まれ。大学卒業後、フリーランスとしての活動を開始。2008年からサッカー専門新聞『EL GOLAZO』でジェフ千葉、ジュビロ磐田、栃木SC、横浜FC、アビスパ福岡の担当を歴任し、現在はサガン鳥栖とV・ファーレン長崎を担当。Jリーグを中心に取材活動を行っている。
