「GKのセントラルMF化」は革命的新戦術になり得るか?スペイン4部で始まった実験
サッカーを笑え #62
0-2で迎えた81分、交代で投入されたGKがゴールを空にして中盤でプレー。すると86分、97分と得点が生まれて2-2で試合終了。そんなまさかの同点劇がスペイン4部リーグで現実に起きた。今後も続けていくという無名クラブの実験的チャレンジは新たなサッカー戦術のヒントになり得るのか、考えてみたい。
「『監視』がちゃんと行われていれば」リターン>リスク?
まずはこのスペインで大いに話題になったビデオを見てほしい。
GKがセンターサークル付近まで上がって中央でバックパスを受けて配球役をしている。彼は最後尾の攻撃者であり最終守備者である。通常はこの高さと位置でボールをさばくのはCBもしくはセントラルMFなので「GKのCB化」とか「GKのセントラルMF化」と呼べるかもしれない。
この「GKのセントラルMF化」(以下こっちの呼び名に統一)、SBのMF化とかトップ下のCF化(偽CF)とかMFのウインガー化(偽ウインガー)のように新戦術として定着するだろうか?
誰もが最初に思うのは「リスクが大き過ぎる」だろう。
ビデオは3月1日の連盟2部リーグ(4部相当)、ウテボ対エヘアのものだが、エヘアに0‐2とリードされてからウテボの監督はGKを交代して新戦術を実戦で試すことにした。そこに、“2点差で負けても3点差で負けても同じ”という思いがあったことは間違いない。ボールロストすれば誰も妨害することのない空のゴールへボールが転がり込む様子が目に浮かぶ。
一方、リターンは何か? これは数的有利を作れる、である。敵陣でこちらは11人で相手は10人。こっちのGKは攻撃参加しているが、相手のGKはペナルティエリア内でシュートを防ぐ人でしかない。
ボール出しを思い出してほしい。
ボール出し時にCB――GK――CBと横並び(またはGKを底とした逆三角形)を作れば、よくある2トップの相手は下がるしかない。3対2の数的有利ができていて誰かがフリーになっているから。では、相手が3トップならどうなるかというと、こっちはセントラルMFかどちらかのサイドのSBへのパスコースを開けることによってボール出しに関与させれば、4対3の数的有利ができてやはり誰かはフリーになる。そもそも相手がどんなにラインを上げてこちらにフィールドプレーヤー全員を入れたとしても10人にしかならない。相手GKは自陣に残っているのだから。対して、こっちのGKはボール回しに関与しているのだから11人。なので、永遠に数的有利になるわけだ。
その11対10の状態のまま敵陣に入ればどうなるか? その答えがあのGKのセントラルMF化だった。
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。
