【イタリア代表アナリスト分析】欧州基準の守備はすでに完成。パパス・セレッソのプレッシング解剖
レナート・バルディのJクラブ徹底解析#14
セレッソ大阪(後編)
『モダンサッカーの教科書』シリーズの共著者としてfootballistaの読者にはおなじみのレナート・バルディ。ボローニャ、ミランなどセリエAクラブの分析担当を歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師を任されている。現在はイタリア代表のマッチアナリストとしてスパレッティ体制に引き続き、ガットゥーゾ監督を支える「分析のプロ」の目で、Jリーグ注目クラブの戦術フレームワークを徹底的に解析してもらおう。
第13回と第14回は、就任2年目のアーサー・パパス監督が率いるセレッソ大阪を取り上げる。前編では選手配置と基本構造を確認したが、後編では実際の試合の中でその戦術がどのように機能しているのかを詳しく見ていく。ビルドアップは右SBクールズを起点とする形に偏り、プレッシャー下では前進が停滞。一方で守備に目を向けると、マンツーマン型ハイプレスとコンパクトなブロック守備はすでに高い完成度に達していた。攻撃と守備のコントラストから、パパス体制の現在地を読み解いていこう(本文中の数字は2月26日の取材時点)。
なぜ、ビルドアップのルートが右SBに集中するのか
――では例によって、ボール保持局面から順に見ていくことにしましょう。ビルドアップは、後方からパスをつなごうという意思は見られるものの、スムーズに敵陣まで前進する場面は稀でしたね。
「はい。ビルドアップの構造はシンプルな4+2で、両SBはかなり低い位置を取ってCBとつながっていました。前4人は、ウイング2人が幅を取って敵SBを固定し、CFとトップ下は基本的に縦の関係で柴山が2ライン間を動き回る形です。すこし触れた通り、展開は右サイドが主体でした。GKからCBへ、CBから右SBクールズへ。第1プレッシャーラインを越えての展開は、ほとんどクールズが起点となっていました。ビルドアップのメカニズムはまだそれほど体系化されていませんが、いずれにしても右に展開してクールズが起点となりいくつかのパスコースを探るという点では、反復性がありました。おそらく、SB、ボランチ、下りてくるトップ下という三角形を使って、内側からボールを敵陣に運ぶという意図があるのだと思います」
――SBからボランチ経由でトップ下に、あるいはボランチが開いて作ったスペースに下りてくるトップ下に直接当てて、そこから逆サイドのボランチを絡めて前線へ、というパターンですね。
「ええ。ただ、その流れの中でパスもトラップも不正確になってボールを奪われたり、後ろに戻さざるを得なかったりする場面が頻発し、試合の序盤に何度かビルドアップを試みた後は、CFに直接長いボールを入れるダイレクトアタックに切り替える結果になっていました。最終ラインに対する相手のプレスが強くなかった福岡戦では、それでも何度か自陣から攻撃を組み立てる場面がありましたが、ガンバ戦、広島戦ではビルドアップはほとんど成功しませんでした」
――福岡戦の2点目は、ポゼッションをいったん最終ラインまで戻したところから、素早く右サイドに展開し、SBからトップ下、そこから大外からSB背後に抜け出したウイングにスルーパスといういい展開で作り出した決定機でした。
「サイドに開き、そこから中へ、そして裏へという流れから、カットバッククロスに逆サイドのウイングが合わせる形でしたね。3試合を通じて最もいい形でビルドアップがフィニッシュまでつながった場面でした。ただ、こうしたクリーンな形で決定機が生まれたのはこの時くらいで、全体として見れば、後方からパスをつないで前進したいという意思はあっても、プレッシャー下でのプレーに精度が欠けていることは否めません。サンフレッチェ戦では、相手のプレスによってビルドアップが右サイドに誘導され、そこで不正確なプレーからボールを奪われてカウンターを喫したり、追い込まれてボールを外に蹴り出さざるを得なくなったりしていました。
ゴールキックを見ても、この試合では最初の機会に左CBの田中(駿)が右ウイングの阪田に向けて対角のロングボールを蹴り、2回目、3回目ではパスをつないでの組み立てを試みましたがうまくいかず、4回目からはGKが全員を前に上げてロングボールを蹴っていた。中村はキックの精度がそれほど高いとは言えず、ロングボールはウイングに合わせるか、CFに合わせるかという解像度の選択肢しか持っていなかったように見えました。後方から組み立てる時にも、プレッシャーラインを割るハイリスクな縦パスは避け、シンプルに近くのCBにボールを渡すことに徹していました」
――GKやCBからは低めに位置取りしたSBに展開するのがほぼ唯一の選択肢で、ボランチを経由した中央ルートはほとんど試されなかった?
「ええ。喜田は頻繁に下りてきていましたが、CBに戻すかSBに開くかがほとんどで、ターンして前方に展開する場面は稀でした。レジスタというよりはバランサー的な資質が強く、パスは難易度の低いシンプルで確実な選択肢を選ぶ傾向が強いですね。一方の香川は、前方にボールを展開する意識を持っており、より積極的なプレー選択をしていました。とはいえ、彼らを経由してうまく前進できた場面は数えるほどで、ほとんどはSB経由の大外ルートからの展開になっていました」
プレッシャー下で機能しないポゼッション
――ビルドアップを試みる際、読み取れるような原則はありましたか?
……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
