16歳タレント流出が映し出す“希望”と“現実”――イタリアは逸材を守れるのか
CALCIOおもてうら#64
イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。
今回はドルトムント対アタランタで起きた「昼食会ボイコット事件」を入り口に、16歳タレント流出が映し出すイタリア育成の“希望”と“現実”という2つの側面を読み解く。
16歳のイナーシオを巡る「引き抜き事件」
2月17日に行われたチャンピオンズリーグのプレーオフ、ドルトムント対アタランタで、ドルトムントが主催した昼食会への出席を、アタランタ首脳がボイコットするという「事件」が起こり、大きく報じられた。
UEFAチャンピオンズリーグでは、すべての試合の当日、対戦する両クラブの親睦を目的とする昼食会が公式プロトコルの中に組み込まれている。ホーム側のクラブが主催し、UEFAの代表者、両クラブの首脳が参加して、ペナントなど記念品の交換などを行うのが慣例だ。
ボイコットの理由は、ドルトムントが2024年、アタランタの育成部門で育ったサムエレ・イナーシオを、満16歳を迎えた直後の移籍ウィンドウで、事実上無償で獲得するという「引き抜き」を行ったこと。
FIFAのルール上、18歳未満の国際移籍は原則禁止とされているが、いくつかの例外規定が存在している。ドルトムントはその例外規定にかかわる「抜け穴」を利用し、未成年が労働者として契約を交わせる年齢(16歳)にイナーシオが達した時点で、所属クラブであるアタランタを出し抜く形で(もちろん本人および親との合意の上で)プロ契約を交わして引き抜いたというのがその経緯だ。
アタランタはこの「引き抜き」に対して、ドルトムントに不正があったとしてFIFAに提訴しており、現在FIFAの紛争解決室で審理中。それと並行して、両者の話し合いによる和解(移籍金相当額の支払い)をドルトムントに持ちかけてきたが、相手は「ルールに則った正当な契約」という主張を曲げず、一貫して話し合いを拒否してきた。
今回の昼食会ボイコットは、こうした「不誠実な」態度に対して、「昼食会はクラブ間の親睦が目的だが、ドルトムントは我々がFIFAに提訴したこの問題を解決するためのテーブルに就くことすら拒否している。そうしたリスペクトに欠ける振舞いを取っている相手と親睦を深めることはできない」(ルカ・ペルカッシCEO)という理由で踏み切られたもの。アタランタは翌週ベルガモで行われた第2レグでも、昼食会の開催そのものを行わないという強硬な態度を保っており、結果的にこの問題をマスコミを通じて広く知らしめることになった。
逸材は生まれている、だが国外へ流れる
この「事件」は、ちょうど今本誌で進んでいる特集『イタリア代表はなぜ、弱くなったのか?』のテーマとも、実は深く関わっている。その接点は2つ。
1つは、ここで問題になっているサムエレ・イナーシオや、他でもないこのドルトムント対アタランタで(ドルトムントから)CLにデビューしたルカ・レッジャーニのように、国際レベルで注目を集める傑出したタレントが、イタリアから(ようやく)生まれつつあること。これは、イタリア育成年代代表統括コーディネーターのマウリツィオ・ビシディが、インタビュー『「技術を捨てた国は勝てない」――FIGCの頭脳が語る“平均化の正体”(前編)』の中で語ってくれていることとも一致している。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
