#FreeGleizes:フランス人サッカー記者がアルジェリアで不当に投獄。ジダンやムバッペも巻き込む両国間の緊張
おいしいフランスフット #23
1992年に渡欧し、パリを拠点にして25年余り。現地で取材を続けてきた小川由紀子が、多民族・多文化が融合するフランスらしい、その味わい豊かなサッカーの風景を綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第23回(通算181回)は、今フランスで大問題となっている、一人の誠実なサッカージャーナリストの、アルジェリア当局による不当な拘束について。
「テロ支援の称揚」「国家の利益を害する宣伝目的の出版物所持」
街のあちこちがイルミネーションで飾られ、「光の都」と呼ばれるパリは、この時期ひときわキラキラと輝いている。週末になると、街はクリスマスプレゼントを買い求める人たちでごった返していて、せわしないけれどなんともいえない高揚感のある、お正月前の日本のような空気が漂っている。
そんなお祝いムードの中、ちょっと深刻な話題になってしまうのだが、今現在フランス、とりわけサッカー界でとても重要視されているトピックを今回は取り上げたいと思う。
フランスで人気のサッカー雑誌『SO FOOT』などに寄稿しているフリーのサッカージャーナリスト、クリストフ・グレーズ氏が現在、アルジェリアの刑務所に収監されている。今年6月に懲役7年の実刑判決を受け、12月3日に行われた控訴審でも判決は覆らなかった。
彼は昨年5月、アルジェリアに取材に訪れた際に拘束されると、約1年後に実刑判決を下され、今も現地の刑務所にいる。いったい彼はなぜ、取材先で逮捕され、懲役7年もの刑に処されることになってしまったのか。
その経緯を簡潔に記すと、来年2月で37歳になるグレーズ記者は2024年5月、アルジェリアで最も多くのトップリーグ優勝経験(14回)を誇るクラブ、JSカビリーを取材するためにアルジェリアへ渡った。
彼はサッカーについて、スポーツ面だけでなく歴史的、社会的背景を深掘りする記事を書くことをテーマとしている記者で、アフリカ、とりわけ北アフリカのサッカーには前々から関心があったそうだ。これまでもアフリカの選手事情や移籍問題、社会背景などをテーマに取材していて、『マジック・システム――アフリカ人サッカー選手の現代的奴隷制』という共著も出版している。
そんな取材慣れした彼が、今回のJSカビリーの取材で逮捕に至った理由は、取材の過程で接触したクラブ関係者(元幹部的位置付けの人物)が、アルジェリア政府によって「テロ組織」に指定されている「Mouvement pour l’autodétermination de la Kabylie(MAK)」という、民族主義・独立運動組織に関係のある人物だったから。
そのため、「テロ支援の称揚」「国家の利益を害する宣伝目的の出版物所持」という罪状により、拘束されてしまった。
「そこだけまったく他の地域と違う」カビールとは?
CAF(アフリカサッカー連盟)チャンピオンズリーグでも2度優勝経験のある(1981年、1990年)JSカビリーは、アルジェリアを代表する強豪であると同時に、カビール地域という、文化的・民族的にアルジェリアの他の地域とは異なるエリアのクラブという特殊な背景を持つクラブだ。
ちなみに「カビール(Kabyle)」というのは行政が定めた公式な名称ではなく、正式な書類などでは「ティジ・ウズー州」、「ビジャヤ州」といった行政上の表記が用いられる。
カビール地域やカビール人について、私も以前はまったく知らなかったのだが、ある時パリで利用したタクシーの運転手と「どこから来たの?」といったお決まりの雑談をしていた際に、その運転手から「自分はカビール人だ。知ってるか? アルジェリアの中に、そこだけまったく他のエリアとは違う“カビール”という地域が存在しているんだ」と聞いて、初めて知った。
その後、かのレ・ブルーの英雄ジネディーヌ・ジダンもカビール人だと知った。彼はマルセイユの生まれだけれど、家庭内ではカビール語を話していたそうだ。カリム・ベンゼマの父親もカビール地域の出身であるらしい。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。
