「負け方も大事にした」水戸のJ2優勝&J1昇格の裏にあった森直樹監督の“得失点差1”への信念
水戸ホーリーホック昇竜伝#4
J2の中でも少ないクラブ予算ながら一歩一歩積み上げてきた水戸ホーリーホックは、エンブレムにも刻まれている水戸藩の家紋「三つ葉葵」を囲む竜のようにJ1の舞台へ昇ろうと夢見ている。困難な挑戦に立ち向かうピッチ内外の舞台裏を、クラブを愛する番記者・佐藤拓也が描き出す。
第4回は、水戸ホーリーホックが成し遂げたクラブ史上初のJ2優勝&J1昇格という“奇跡”の裏にあった森直樹監督の勝ち点1、得点1、失点1に執着し続けた信念について伝えたい。
J2最終節・大分戦、水戸は2-0で勝利して悲願のJ1昇格とJ2優勝が決まった。
2位・長崎とは同勝ち点で得失点わずか2差、3位・千葉とはわずか勝ち点1差。まさに“薄氷”。紙一重の差での栄光であった。ただ、そのわずかな差が、明暗を分けることとなる。それがリーグ戦の面白さであり、怖さである。だからこそ、森直樹監督は「勝負にこだわる」姿勢を貫きながらも、「負け方も大事にした」と振り返る。
長崎戦の敗戦。しかし3失点目を防いだことを評価
首位で迎えた第37節・長崎戦、水戸は勝てば、J1昇格とJ2優勝が決まる一戦だった。しかし、敵地で1-2の敗戦を喫して、2位に転落。J1昇格決定は最終節に持ち越しとなってしまった。2位との直接対決で敗れ、守護神が退場し、今季初の連敗を喫したチームに対して、危惧する声は強くなっていった。
まるで優勝したかのように、歓喜に沸くスタジアムの中、森監督は「自分たちはまだ何も失っていない」と気丈に語り、悔し涙を流す選手たちを立ち上がらせた。特に2点差にされることなく、1点差で終えられたことをポジティブに捉えていた。
後半アディショナルタイム、センターサークル付近まで上がってボールを受けたGK西川幸之介が前線にロングボールを蹴ろうとしたところ、ブロックに入ったマテウス・ジェズスに当ててしまった。こぼれ球を拾ったマテウス・ジェズスが右サイドから無人のゴールに向かおうとしたところ、西川がスライディングで倒してしまい、決定機阻止の判定で退場処分を受けることとなった。最終盤、同点に追いつこうとしていたチームにとって手痛い退場ではあったものの、西川が身を挺して3失点目を防いだことが最終的に大きな意味を持つこととなった。
2位で迎えた最終節。1位・長崎とは勝ち点2差。ただ、得失点差は並んでおり、長崎が引き分けた場合、勝利すれば、優勝が決まる状況となっていた。だが、前節の決定機の場面で、西川が阻むことなく、そのまま3失点目を許していれば、勝ったとしても、3点以上の差をつけなければ優勝を手にすることはできなかった。負けはしたものの、最後の最後まで抵抗し続けた「負け方」が命運を分けることとなった。
「勝てば昇格」の大宮戦、0-2の状況で見えた森監督の神髄
「1-2と1-3の差は大きかった」と森監督は振り返る。ただ、「さらに言うと」と、こう続けた。
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Profile
佐藤 拓也
1977年生まれ。神奈川県出身茨城県在住のフリーライター。04年から水戸ホーリーホックを取材し続けている。『エル・ゴラッソ』で水戸を担当し、有料webサイト『デイリーホーリーホック』でメインライターを務める。
