REGULAR

「飯田選手は今までのサッカー人生で最も自分を成長させてくれた」大卒ルーキー板倉健太の成長物語

2025.11.18

水戸ホーリーホック昇竜伝#3

J2の中でも少ないクラブ予算ながら一歩一歩積み上げてきた水戸ホーリーホックは、エンブレムにも刻まれている水戸藩の家紋「三つ葉葵」を囲む竜のようにJ1の舞台へ昇ろうと夢見ている。困難な挑戦に立ち向かうピッチ内外の舞台裏を、クラブを愛する番記者・佐藤拓也が描き出す。

第3回は、大卒ルーキーながら右CB の主力として34試合に出場している板倉健太。「目に見えるような特徴はない」と謙遜するが、今季の水戸の快進撃を支える活躍を見せている。プロ1年目の23歳を助けてくれた“隣にいてくれた先輩” 飯田貴敬への深い感謝、そしてスプリントコーチと取り組んできた課題克服の内幕に迫る。

大学1年次から前田秀樹監督が高評価

 「あいつはいいぞ」

 5年前、水戸ホーリーホックが練習試合を行った東京国際大学の前田秀樹監督がそう嬉しそうに話しかけてきたのを今でも鮮明に覚えている。

 現役時代は日本代表のキャプテンを務め、引退後の03年から07年の5年間にわたって水戸の指揮を執った前田監督は就任1年目には田中マルクス闘莉王(当時トゥーリオ)の能力を最大限に引き出して、その後の日本代表入りへのきっかけを作るなど、数々の選手を羽ばたかせて、「育成の水戸」の礎を築いた。

 ただ、選手に対する評価の目は厳しく、滅多に褒めることがなかっただけに、その時の言葉は強く印象に残っている。前田監督が言う「あいつ」こそ、当時東京国際大学に入学したばかりの板倉健太であった。その練習試合も上級生に混ざって先発で起用されてJ2チーム相手に高い能力を発揮。前田監督の言葉に偽りがないことを確認することができた。

 山梨学院高校時代に全国高校サッカー選手権大会で全国制覇を成し遂げている板倉は、東京国際大学に進学して1年目からCBのレギュラーに定着。1年次には関東2部リーグで優勝を果たして1部昇格を決めると、2年次には2位、3年次は3位、4年次は5位と毎年優勝争いに絡むチームを最後尾から支え続けた。4年間、一度もベストイレブンに選ばれたこともなく、決して華やかな活躍を見せたわけではなかった。それでも、日本一を経験した高校時代から、常に主力として優勝争いを続けてきた「勝率の高さ」こそが、DFとしての板倉健太の選手としての価値を表している。

 「自分の場合、特徴を言うのが難しいんですよ。目に見えるような特徴はないんですが、いると落ち着くとか、そういったことが特徴だと思います。目立たず、でも、いると違うというタイプです」

 自らをそう評すように、板倉には目立った武器はない。同時に「CBとして弱点がない」ことが最大の強みと言える。身長182cmとCBとして圧倒的なサイズがあるわけではないが、空中戦で負けることは少なく、1対1や対人でも強さを発揮して突破を許さない。また、「子供の頃から自信がある」という正確なキックで攻撃のリズムを作り出すことができる。わかりやすい武器はない。しかし、CBとして必要な要素をすべて平均以上に備えており、沖縄キャンプ時から常に安定したパフォーマンスを披露して、評価を高めていき、ルーキーながらも開幕スタメンに抜擢された。

“隣にいてくれた先輩” 飯田貴敬への深い感謝

……

残り:2,686文字/全文:4,022文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

佐藤 拓也

1977年生まれ。神奈川県出身茨城県在住のフリーライター。04年から水戸ホーリーホックを取材し続けている。『エル・ゴラッソ』で水戸を担当し、有料webサイト『デイリーホーリーホック』でメインライターを務める。

RANKING