鹿島戦勝利も天皇杯敗退と逆転負けで再起の8月へ。川崎FはJ1優勝戦線に生き残れるのか
フロンターレ最前線#18
「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達前監督の下で粘り強く戦い、そのバトンを長谷部茂利監督に引き継いで再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。
第18回では7月の公式戦3試合を振り返りながら、再起が求められる来月に向けてJ1優勝戦線に生き残れるのかどうかを占う。
川崎フロンターレにとって、激動の7月となったと言っていいだろう。
なんといっても、主力2人の海外挑戦である。5日に開催されたJ1第23節・鹿島アントラーズ戦を最後に、日本代表CB高井幸大がプレミアリーグのトッテナムへ。さらにE-1選手権でA代表に初選出されたCF山田新も、スコットランド・プレミアシップのセルティックへと完全移籍。日の丸も背負った生え抜き2人が、欧州へと旅立つこととなった。

他にも、セサル・アイダルが母国コロンビアのアトレティコ・ナシオナルにレンタル。山内日向汰もベガルタ仙台に貸し出されている。6月に柏レイソルへ復帰した瀬川祐輔、5月にFC今治に期限付き移籍したパトリッキ・ヴェロンも合わせて、シーズン当初に在籍していたフィールドプレーヤー6人がチームを離れたことになる。
選手の出入りがあれば、その戦い方や序列にも多少なりとも変化が生まれるのは当然のことだ。この7月に開催された公式戦はリーグ戦2試合と天皇杯1試合の3試合のみだが、どれも今季のターニングポイントとなるような出来事があった。それらを通じて感じた川崎Fの現状を、監督や選手たちの証言を読み解きながら振り返っていきたい。
鹿島戦勝利に繋がった長谷部監督が説く「勝負強さの必要性」
まず高井と山田のラストゲームとなった鹿島戦は、前指揮官である鬼木達を初めてホームに迎える、上位との直接対決。J1優勝戦線に生き残りを懸けている川崎にとっては、絶対に負けられない正念場だった。
ただシーズン上半期を振り返ると、勝負どころで勝ち切れていない課題があった。ACLEによる過密日程の影響もあったとはいえ、克服しなければいけない試練の時でもある。戦前の囲み取材で、長谷部茂利監督が「勝負強さの必要性」を、こんなふうに口にしたほどだ。
「勝つために必要なこと。勝つ方に自分たちが可能性を高める。よく徳を積むなんて言いますけど、そういうことも大事ですし、小さなこと、トラップ1つ、流れを読むのも大事。サッカーにはたくさんのことが入り混じってます。個人の気持ちもそうだし、ピッチの状況、天候もそう……。いろんな状況が起因しているかどうかわからないぐらい起因している。今日のこの取材も、メディアのみなさんがたくさんきているので選手が何か感じるかもしれないし。少なかったら、また違うかもしれない。ポジティブに受け取ってやっていこうと選手には話をしています」

それは川崎Fには成功体験があるからこそでもあった。優勝経験のない集団を勝たせる作業は簡単ではないが、このクラブは常勝軍団として勝負強さを見せてきた原点がある。ならば、それを取り戻すためには何が必要なのか。思い出して、実行すればいい。実にシンプルだが、それをチームに問いかけ、そしてメディアにも、同じように明かしていた。
「だって勝っていたんでしょ?でも、勝てなくなったのはなんでなのか。ボールを取れなくなったからか。じゃあ、取れるようにしたらいい。相手にも渡さないようにすればいい。新しいことはないけれど、ピッチの上で起きることや、それ以外のこと。それぞれの準備もそうですし、私の練習そのものもそうですね。でも、そういうことが大事だと話しています」
結局は、日常の過ごし方や試合までの準備も含めて、勝負強さは潜んでいるということなのだろう。それでいて、過度に緊張しすぎないバランス感覚も触れている。
「ただし、あまりシリアスになったり、真面目一辺倒になったら勝てるかというと、そういうわけでもない。そういうのも大事だよと、そんな話をしています」
そして結果は、2-1で逆転勝ち。選手たちは泥臭く戦い、難敵相手に勝利への執念を見せた。長谷部監督の哲学や、マネージメントの一端が垣間見れた一戦と言えるだろう。

まさかの天皇杯敗退…「残された者」脇坂が背負う責任の重さ
大一番の翌日にはファン感謝デーも開催。チームの機運も高まった中、16日に川崎Fが臨んだのは天皇杯3回戦だった。
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Profile
いしかわごう
北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago
